新年おめでとうございます。2006年が皆様にとって良い年でありますように。
さて、新年早々ですが、2005年12月クリスマスと年末の忙しい時期に、ほとんど誰も気付かないうちに米国議会下院を通過した(12月13日)移民法改正についてお話しましょう。この法案が下院で議論されていた期間はたった1週間、実際にはほとんと何も議論されないままに下院を通過し、2006年に上院を通過すれば法律として成立してしまいます。移民法専門の弁護士なども、このような法案が議会に提出されていることを知らないくらいでした。
この法律は、H.R.4437と呼ばれましたが、その内容は米国という国の原則を覆すような極端な「改革」も視野に入れたものでした。今回通過した法改正では最終的に削られましたが、現在米国が採用している国籍法「生地主義」を廃止し、米国市民と米国永住者の子が米国で生まれた場合にのみ米国籍を付与するという、従来原則を変えようとする案でした。米国憲法修正第14条によると、「米国内で生まれたかまたは帰化し、米国法の管轄下/法域にある者は、米国市民であり、それらの者が居住する州の州民である」とされています。また、皆様もご存知のように、現在有効な米国国籍法の下では米国で生まれた者は、誰の子であれ(親が米国民、永住許可者、違法滞在者であれ)それに関係なく米国籍を付与されるという原則になっています。(現在、毎年10万から35万人の違法滞在者の子供たちがこの生地主義の原則により米国籍を取得しているといわれています)これにより、いわゆる「違法滞在者」も2世からは晴れて米国籍になるので、永遠に数世代にわたり違法滞在者として影の存在として米国で生きる必要はないのです。この点は、日本の国籍法などとも異なっています。日本の国籍法は「血統主義」の原則を採用していますので、「父または母が日本人」であれば、原則的に日本国籍を取得できます。しかし、その反面、日本に違法滞在者としてやってきた者が数世代日本に住み続けても永遠に「日本で出生した」ということから日本国籍を取得することはできません。数世代にわたり日本に生活した外国人が日本国籍に帰化する場合は、条件が通常より少し緩和されるかもしれませんが、それでも国籍は日本で出生したという事実から自動的に付与されるものではありません。
 上記の改正案項目(H.R. 698)は、今回は一部の共和党幹部の反対により投票の対象にはなりませんでした。また、ブッシュ大統領なども最近触れていた、そしてアリゾナ州上院議員のジョン・マッケン氏が提唱する「ゲストワーカー・プログラム」の樹立も修正案として出されましたが、これは成立しませんでした。他のほとんどの改正案項目は改正法として239票対182票で下院を通過しました。上院の共和党リーダーであるフリスト氏は、2006年2月に移民法改正法を上院でも通過させるという意図を表明しました。現段階では、上院法案が下院を通過した法案とどのくらいの類似点・相違点をもつものか不明です。
下記に、今回下院を通過した「Border Protection, Antiterrorism, and Illegal Immigration Control Act of 2005 (H.R. 4437)」と呼ばれる法案の重要条項を拾って説明してみましょう。
* 宗教団体、雇用者、一般市民に対しても違法滞在者の違法入国を幇助した者としてみなされる場合には、刑法上の重罪(felony)犯として厳罰に処す。
* 現在米国に滞在すると思われる1,100万人の違法滞在者を「Aggravated felons(加重重罪者)」とし、強制退去および懲役刑の対象とし、強制退去前における裁判所での審理の機会を与えない。(今回の法改正を支持した議員たちも、これらの全ての人々を強制退去するということは実際には不可能に近いということは百も承知しているようですが)
* それぞれの地方自治体の警察(全米で60万人の警察官がいるといわれる)に違法滞在者を逮捕する任務を与える。(現在までは、警察は直接的に移民法の実施担当当局ではありませんでした。つまり、交通違反で逮捕された者が違法滞在者と判明した場合でも、直接移民局に通報するということは行われないことが多かったのです)地域の警察が違法滞在者の逮捕に協力した場合は、連邦当局がそのための費用を払い戻す。この目的のために、移民法に違反した者の情報をNational Crime Information Center(NCIC)のデータベースに入れ、これらの者を警察官が逮捕しやすくする。
* いわゆるDIVERSITY VISA(LOTTERY VISA)の制度の廃止。
* アリゾナ州、カリフォルニア州、ニュー・メキシコ州およびテキサス州にわたる米国・メキシコ国境地帯にフェンスを築く。(膨大な費用)
* 米国内の全ての雇用者(700万以上)に対して、全米データベースに被雇用者の法的地位に関してソーシャル・セキュリティ番号、およびその他の多様な情報を提供し、また雇用の際に志願者のソーシャル・セキュリティ番号をこのデータベースで確認することを義務付けます。
* 違法入国の罰を現在の6ヶ月の懲役から1年にする。
* 移民法違反者を収容するための施設を増設する。(10,000人分増やす)
* 飲酒運転など、強制退去の対象となる罪名を拡大する。
今回の法案については、全米商工会議所および移民の権利擁護団体などが反対意見を表明しました。また、党派別に見ると、ほとんどの共和党員がこの法案に賛成票を投じ、ほとんどの民主党員はこの法案に反対投票しました。
 今後、この法案が正式に法律として成立するためには、上院で類似法案が通過(上院案と下院間のすり合わせも含め)する必要があります。議論のための時間はあまり与えられないままに上院での投票の日を迎えるという可能性も大です。成り行きを注意深く見守る必要があるでしょう。詳細な情報を入手次第にまた、皆様にお知らせします。