年末の不法滞在(移民)狩り
 新聞報道などですでにご存知のことと思いますが、10日ほど前に移民局による「不法移民狩り」がスイフト社の全米にある6つの食肉包装工場(コロラド州、テキサス州、ユタ州、ミネソタ州、アイオワ州、ネブラスカ州)において行われ、総数1,280余りが拘留され、多数がそのまま拘束中またはそれぞれの母国(圧倒的多数がメキシコ)に強制送還されました。今回の「Operation Wagon Train(「荷馬車隊作戦」)」と呼ばれる「不法移民狩り」の建前上の目的は国家安全保障(ホームランドセキュリティ)省長官マイケル・チャートフによると「ID泥棒の取り締まり」ということであり、米国史上最大の不法移民取り締まり作戦でした(KPFK, Pacifica Radio、ロスアンゼルス)。上記の数の逮捕者中5%がID泥棒実行犯であったということです。しかし、早朝6つの工場は当局の武装係官たちにより施錠(ロックアップされ)今回の取り締まり対象外の者も含め、約1万3,000人の従業員が工場内に閉じ込められました。これまでに、この取り締まりに対して、労働組合United Food and Commercial Workersの弁護士およびいくつかの移民の権利擁護団体を代表してエール大学の学生が、米国政府を相手に「従業員の憲法で保障されている権利を蹂躙する取り締まりであった」という理由で訴訟を起こしています。
2006年中、1200万人いるといわれる、いわゆる「不法移民」対策が喧しく議論されてきました。メキシコと米国の国境地帯に700マイルにわたる壁を建設し不法移民を止めようとする立法も年末あわただしく行われました(実施のための予算は未計上)。11月7日の選挙で、上・下院共に多数派となった民主党が、「包括的移民法立法」を1月からの新議会における優先目標の一つに挙げています。
ブッシュ大統領としては、共和党の右派が推進する「取り締まり優先」の移民関連立法より、「ゲストワーカー」システムを含む、より包括的な法案を支持する方向でしたが、共和党右派の協力が得られず、上・下院双方が合意する包括的立法は実施できないままに年末を迎えてしまいました。
このような現状における、今回の「不法移民狩り」はどのような意味を持つのでしょうか?今後の移民関連立法の行方にどのような示唆を与えるのでしょうか。

ゲストワーカー・プログラムの必要性をアピール?
労働省の統計によると、食肉包装業界は全米で50万人の従業員を雇用しています。特別な訓練なく定収入を得ることができる職種として、新移民たちに魅力的な職場であるといえます。言い換えると、作業の大変さ、作業環境の劣悪さと危険性、比較的低賃金であるところから、他の選択肢がある一般米国人には魅力がない職場であるともいえます。このため、今回の「不法移民狩り」の後、従業員の欠員を緊急に埋めることはこれらの6工場にとって容易なことではありません。
今回の「不法移民狩り」がスイフト社に対して実施されたことの背景としては、不思議なことに、スイフト社は自らの意志で従業員雇用の際に移民局と協力してそのパイロット・プログラムに従い必要な書類・証明書などを提示させ確認するという作業をしてきたという事実があります。そのようなプログラムを実施してきたにもわらず、偽の証明書、グリーンカードなどの使用を止めることはできず、本来なら労働許可を得られない者の就労を止められなかったということは、当該パイロット・プログラムひいては現行移民法の不備を証明しています。

Racial Profiling (人種差別的扱い)?
Salt Lake Tribuneという地方紙は(2006年12月12日)ユタ州ソルトレーク市における今回の「不法移民狩り」に際して、当局の係官が肌の色に応じて肌の色が濃い人々を「不法移民の列」、肌の色が白い人々を「米国市民の列」に分け、前者は捜査の対称に、後者はそのまま釈放したと報道しています。移民刑務所に赴いたボランティアの弁護士たちの抗議を無視して、弁護士に接見・相談させることなく彼らの目前で、また残された家族などに逮捕された者が収監されている場所を知らせることもなく、逮捕された者たちに「自発的出国証明書」に署名させ、早々に国外に退去させてしまったという事実もボランティア弁護士自身により報告されています(Democracy Now, 2006年12月14日)。

一家離散の悲劇・残された子供たちの運命
今回の「不法移民狩り」の結果、100人以上の子供たちが親を失い取り残され、キリスト教会などがそれらの子供たちを保護しているという報道もありました。職場で逮捕され、すでにメキシコなどに強制送還されてしまった親たちもいるようです。残された子供たちの中には、学校から帰ったら親がいない、というような状況に陥った者も多数ありました。両親ともに突然いなくなったという場合もあり、片親のみの家庭で唯一の親・保護者である片親が強制送還されたり、両親がいる家庭で片親のみ強制送還されたという場合を入れると、被害や影響を受けた子供たちの数はこれよりさらに多く数千人に上るようです。一つの家族の中でも両親とも不法滞在で子供たちは米国市民、片親と子供たちのみ合法的居住者、子供たちの中でも合法・不法滞在者両方が混在し両親は不法滞在者、などなど多様な組み合わせが存在します。家族構成を考慮せずに「合法・不法」という区別で「不法滞在者」を全て強制送還の対象とすれば、1,200万人いるといわれる不法滞在者の家族中、数百万という家族が一家離散となる、場合によっては生後3ヶ月の乳児のみ米国市民として米国に滞在できる、しかも、家族としての決定を待たず、両親を即時強制送還してしまうという措置により、米国市民である乳児を「孤児」にしてしまい、そのケアをする両親を奪ってしまうという結果にもなりかねないでしょう。事実今回の取り締まりでは、そのような実例があるようです。ブッシュ大統領が選挙の度に宣伝してきた「Compassionate Conservatism(慈悲ある保守主義)やFamily Value(家族優先的価値)」はどこに行ったのでしょうか。
 メキシコ政府も今回の「不法移民狩り」について、1282人逮捕されたがそのうちの約600名がメキシコ国民であると認め、拘留されている母親たちを一時釈放し「米国市民である子供たち」のケアをさせるように米国政府に訴えています(North Country Times, 2006年12月14日)。

「不法移民狩り」に居合わせたら
今回の「不法移民狩り」では、拘留された人々の中には偽グリーンカード所持者または真のグリーンカード所持者、米国市民が混在していたという情報があります。また、多くの場合、弁護士との連絡を許されず、拘留されている場所も明らかにされないまま、一挙に逮捕・拘留、強制送還が連続して行われたために、ヒスパニック系の真の永住許可者や米国市民がメキシコに「強制送還」されてしまったというような例があるのではないかと推測されています。現に逮捕されて手錠を掛けられた者たちの中にはヒスパニック系の外観であったために「不法移民狩り」の対象になってしまったことに抗議している米国市民の女性の証言もありました。
 不法滞在者であるか、永住許可者であるか、米国市民であるかにかかわらず、全ての人々が移民法関連の証明書などを常に身につけているわけではありませんので、合法的な居住者が「不法移民狩り」に巻き込まれる可能性もあります。下記は、Human Rights of Immigrants (1-888-575-8242)による、「不法移民狩り」実施時の注意事項です。

1. 移民局の係官は、当局が取り調べの対象とする特定区域および取り調べの対象となる者を指定した上で、雇用主(一般家屋である場合は家主)の許可、または裁判所命令なくして職場(または家)に入ることはできない。当局係官が「この職場(家)に入ってよいか」と尋ねた場合、簡単に「はい」と答えないこと。雇用主(家主)の許可、裁判所命令を見せるように要求すること。
2. 当局係官は、不法滞在者であるという「合理的な嫌疑」がある場合にのみその対象となる者を逮捕することができる。当局の係官が職場に入った場合は、静かに歩いてその場を退場することができる。走ったりすると「合理的な嫌疑」が生じてしまうため、絶対に走ったり逃げたりしない。英語が話せないというだけでは「合理的な嫌疑」とはならないはず(建前上)。
3. 質問されても、自分がどこの出身であるか、移民関連書類を所持(または所有)しているか答えないこと。質問に回答せず、「弁護士と話したい」と要求すること。当局は、質問の対象者の出身国、その他必要な情報がない限り、強制送還の手続きができない。「弁護士と相談するまでは何も情報を与えることはできない」と主張すること。弁護士と会見する前に出身国、移民法上の地位、いずれの方法で米国に入国したかなどの情報を係官に一切与えないこと。雇用者がすでにそれらの情報を係官に与えてしまっている場合もあるが、いずれにしても、弁護士との会見が最優先。今回の取り締まりのような状況では、「不法移民狩り」に遭遇する前に、弁護士と相談しておき、そのような状況に遭遇したときの手順を決めておくことも良い準備となる。
4. 常に公衆電話を掛けるためのコイン、弁護士の電話番号などを所持するようにする。もし、逮捕された時点で弁護士の電話番号がわからない場合は、家族、友人などに電話をして弁護士を手配してもらえるようにする。
5. 当局の係官は、逮捕後「自発的に米国を出国する」というような趣旨の宣言書に署名させようとするであろうが、弁護士と相談する前にこのような宣言書・合意書などに決して署名しないこと。再度、「弁護士と相談したい」と主張すること。
6. (万一所有している場合でも)偽のグリーンカード、ソーシャルセキュリティ・カード、運転免許証などを決して当局の係官に渡さないこと。即刻強制退去を実施する理由を与えてしまう。
7. 真のグリーンカードなどを所持する場合も、必ずしもこれを係官に提示する必要はない。職場で事前に相談するなどして、職場の全員が(移民法上の地位にかかわらず)係官に情報提供を拒否し、弁護士との会見を要求すれば、職場の同僚が不十分な証拠で即刻拘留・強制送還の対象となるという事態を回避できる場合もある。
8. 「不法移民狩り」に遭遇して問題に直面した場合は、Travelers Aid Service: 800-566-7636に電話する。(英語以外の言語でも可)

以上。

2007年、民主党が主導権を握る新議会でどのように移民法改正が行われることになるのか、今後の成り行きを見守りたいものです。

みなさまにとって2007年が良い年でありますように。