Dream Act

21世紀も11年目を迎えることになりました。新年おめでとうございます。

「おめでとう」という言葉を大きな声を張り上げて言えるか疑問に思ってしまうほど、世の中は不景気で、巷の人々の暮らしは少しも楽にならず(またまた減税のおかげで懐がますます豊かになる人口のトップ1パーセントを占める超大金持ちはもちろん除きますが)、ホームレスが増え、フードバンクなど貧しい人々に食事を提供する団体がニーズの増大に悲鳴をあげているというニュースなどは頻繁に耳に入ります。アリゾナの失業率もやっと全国平均の9.8パーセントに比較して9.4パーセントになったという少しうれしい話を新聞で読んだのはつい数日前です。2010年のクリスマス・プレゼントを夢見る子供たちの多くがおもちゃではなく「冬のオーバーコートが欲しい」などという何か胸が痛くなるような現実的な贈り物を願ったという話もニュースになりました。

何か明るい話はないものかと頭をひねってみた結果、2011年に向けてひとつの夢について考えてみることにしました。

皆様ご存知のように、11月の選挙後、議会は「レイムダック」の名にふさわしくないほど多くの法律を成立させました。最も大きな話題となったのは、ブッシュ減税の2年間延長、「Don’t Ask Don’t Tell: DADT」(ゲイやレズビアンの人たちがその事実を明らかにした場合には軍務に就くことを禁止した法律)の廃止、ロシアとの軍縮条約の批准(START)ですが、その他にも食品安全法、911の際に最初に救出活動に参加した人々(警察や消防士、一般市民など)の治療を支援する法律などが次々に成立しました。

しかし、それらの一連の法律と同時に議会に提出されていたいわゆる「Dream Act」は、未成立に終わりました。違法移民として幼い子供のころに親に連れられて米国に入国した若者たちが、大学に2年間通学するかまたは軍務に就くことその他犯罪記録がないことなどを条件に、まずは永住権そして将来的には市民権を得る道を開くというこの法律は、60票の賛成がないと議論をする段階に進めないという現行の上院ルールに賛成57票と迫ったものの、議論の後投票へと進む道を断たれ、今回は成立を見送りました。大筋では5名を除く全民主党上院議員が同法案の成立に賛成し、数名の共和党議員を除く全共和党上院議員が反対票を投じました。

オバマ大統領は、上記の一連の法律の成立に大いに気を良くしたようですが、この「Dream Act」の失敗には心を痛めている、次の議会(この法律に大多数が反対する共和党が下院の多数派となる)でぜひ成立させるよう努力すると述べました。

正確な統計数は、もちろんありませんが現在1200万人位いると言われている違法移民のうち220万人位が、同法案が成立すれば長い過程を経なければならないものの最終的に米国市民権への道を開かれる対象者の若者たちであるということです。自分の意志で米国に違法移民として入国したのではないこれらの若者たちに対して同情的な米国民の70パーセントが同法の成立を支持しているという世論調査の結果にもかかわらず、上院では60票を確保できませんでした。違法移民であり続ければ、例え高等学校や大学を卒業できても就職の道は閉ざされ、まともに生活することが困難であるこれらの若者たちの「自分は晴れてアメリカ人として暮らしたい」という夢を実現させてやるべきだと考える人たちが多数派ですが、同時にこれらの若者の存在を合法化すればさらに違法移民を将来的に米国に招きよせることになるとしてこの法案に反対の立場を取る人たちもいます。

220万という数字が正確なものか否か不明ですが、これだけの若者たちが、米国で育ち、教育を受け、その中には大学に入学したり卒業したりする者も多数あるという現実、そのまま放置すれば自分の責任ではなくまた選択肢を与えられずに「違法移民」になってしまったという事情にもかかわらず、永遠に堂々とアメリカ人として生き、社会に貢献する道を断たれてしまうと考えると、胸が痛みます。胸が痛むばかりでなく、なんという人的資源の無駄かという思いも湧いてきます。米国は、これらの若者たちを自ら費用を投じて教育した挙句に彼らが言葉も話せず、知らない「祖国」に強制送還してしまう可能性があるというのは、非合理とも言えます。アメリカ人であると信じて、アメリカ人として教育され、育った若者たちは自分たちの祖国は米国だと感じており、米国に住み続け貢献したいと望んでいるのです。

1200万人という数の違法移民を拘束し全て国外に強制退去させることが現実的に不可能であるように、220万人といわれるこれらの米国育ちの若者たちを国外退去させることも現実的には不可能です。もし、これらの若者たちが正統にアメリカ人として生きて行くことを可能にする法律がなければ、これらの若者たちは人生の裏街道を歩く人間として生存することになり、隠れ続け、一般市民としてまともな職に就くことも許されずに一生を送ることになるでしょう。220万人がみな自分たちが知らないまた言葉も話せない「祖国」に自主的に「帰国」するであろうと信じる人は少ないでしょう。

この問題について、もう一つ別の観点からの考察を加えてみましょう。2010年のセンサスの結果が次々に発表されていますが、その中でも興味深いのが、先回2000年と比較して人口増加が最も大きいのが南部、南西部の諸州であり、北東部の諸州は人口が減少しているという事実です。その結果、人口により割り当てられるのが原則となっている下院の選挙区の線引のやり直しが当然行われ、南部、南西部の諸州、例えばテキサスは4つ議席を増やし、アリゾナ、ネバダ州などもそれぞれ1議席増やすことになり、オハイオ州は2つの議席を失うことになります。これらの南部・南西部の諸州ではご存知のとおり、現在共和党が多数を占めていますが、センサスの結果を見ると、もう一ひねりあり、これらの州では人口増加の主な部分を占めるのがヒスパニック人口であるというデータが出ているのです。フロリダ州、アリゾナ州、ネバダ州、テキサス州では過去10年間の人口増加の50%以上がヒスパニック人口の増加に起因するということであり、また事実人口増加率が最も高いのがヒスパニック系の人々なのです。共和党が多数派を占める南部および南西部の諸州における下院議席の増加は、一見共和党が11月の選挙の結果にも増して勢力を拡大するかのように見えますが、その動きの中で実はそれらの州の選挙区のいくつかでは逆に圧倒的に民主党を支持するヒスパニック人口の人口総数に占める割合が増大しているのです。増加した議席のいくつかは、将来的にはヒスパニック系の人々の票を得て民主党の議席の増加につながる可能性も云々されています。

反移民的な政策を取る共和党も、将来的には米国の人口構成が必然的に変化しヒスパニック人口の比率が上昇する傾向にあることを知っているはずであり、近い将来、選挙対策・得票のための戦略の一部としてヒスパニック系の有権者に敵視されないような政策に転換するという可能性もあります。

2011年中または次の大統領選挙がある2012年までにこの「Dream Act」が成立するか否かはまだ予想できませんが、これらの若者たちが自分たちの将来に絶望しないで済むように夢をかなえさせてあげたいと考え、2011年の年始の自分の夢に重ねてみました。

2011年が皆様にとって良いお年でありますようにお祈りいたします。