今回は、雇用といわゆるドラッグの問題についての話をしましょう。みなさまもご存知のように米国では薬物依存の問題が生活のあらゆる面で表面化しています。学校でも職場でもこの「ドラッグ」の問題はしばしば話題にもなりますし、アルコール依存などとともに他のいろいろな問題の原因になっています。今回は、薬物の使用の問題を雇用との関係から考えてみましょう。まずここで「ドラッグ」という言葉の意味を定義しておきましょう。「ドラッグとは、法律で禁じられている薬物」です(21 U.S. Code Section 812)が、細かく名前を挙げることは省略します。
読者のみなさまの中には、レストランの経営者など企業主として従業員を雇用・管理する立場の方々もいらっしゃることでしょうし、また従業員として会社・商店などに雇用される立場の方々もいらっしゃることでしょう。
職場によっては、雇用の条件として求職者に「ドラッグ・テスト」をすることを要求する場合もあります。求職中のインタビューで雇用側から「ドラッグ・テスト」をしその結果が「ドラッグ使用の可能性なし」であることを雇用の前提条件として示されたという経験をした方もあるでしょう。その場合に、「会社はこんなドラッグ・テストを求職者に課す権利があるのだろうか」と疑問に思った方もあるでしょう。在職中に定期的に「ドラッグ・テスト」を実施する会社もあります。テストの結果「ドラッグ使用」という結果が出るとその従業員に対して一定の期間リハビリを受けることを雇用の継続の条件とする会社もありますし、時によっては解雇されてしまう場合もあります。会社は、このような解雇を実施する法律的な権利をもっているのでしょうか。
企業主として従業員を雇用する立場からは、従業員が薬物依存で業務の遂行に支障や危険をもたらしては困るという理由で「ドラッグ・テスト」を求職者に対する雇用条件また在職者に対する雇用継続条件にすることがありますが、法律に則った適正な方法と手続きでテストを実施する必要があります。公共の交通機関の運転者などに対しては、州法で「ドラッグ・テスト」が義務付けられています。
アリゾナ州法は、雇用主がドラッグ・テストまたは飲酒テストの結果により従業員に一定のリハビリやカウンセリングの義務化、勤務一時停止、解雇を行う権利を与えています。またそのようなテストの実施を拒否した場合に求職者を雇用しない権利や上記のような措置を取る権利も与えています(Arizona Statutes 23-493.05)。雇用者は、事故などが起こった場合、その直後に事故に遭遇した従業員がドラッグや飲酒の結果業務遂行能力を欠いていたか否かを知るためにテストを行うことができます(Arizona Statutes23-493.04.B.2)。雇用主はその他にも従業員、顧客、一般公衆の安全、業務遂行の効率、製品やサービスの品質、業務環境を守るためにテストを実施することもできます(Arizona Statute 23-493.04.B.3-5)。
しかしその場合には、雇用者側にいくつかの要件を課しています。その一つは、雇用者側が上記のような「ドラッグ・テストまたは飲酒テスト」に関して「就業規則」(Employee Handbook)などに記述しそれを従業員(または求職者)に配布の上または従業員用の掲示板などに表示することによって明確に示すという条件です。このような「雇用規則」や掲示には、「ドラッグや飲酒による業務遂行への支障」に関する会社としての公式な見解・政策を示し、従業員の誰がテストの対象者となるか、テストを実施する状況、どのような薬物に対してテストを実施するか、テストの方法、テストの結果またはその拒否が従業員に及ぼす影響、従業員のテスト結果を知る権利、雇用主のテスト結果の秘密保持についての政策を明記する義務があります(Arizona Statute 23-493.04)。また、このようなテスト受けることを拒否した場合、テストを実施し「ドラッグ使用」または「飲酒により業務遂行能力に支障あり」という結果が出た際には会社がどのような措置を取るかが明記されていなければなりません(Arizona Statutes 23-493.05)。「雇用規則」や掲示には、テスト用のサンプルの種類やその取り扱い方法も明記する必要があります。その他雇用者側は、このようなテストを実施する際には就業時間内もしくはその直前または直後に実施する(つまり給与の支払い対象時間とする)こと、既存の従業員に対してテスト実施する際には実質的に全費用を負担すること、必要な場合にはテストのための合理的な範囲の交通費を負担することが義務付けられています。求職者のテストに関しては、費用の負担は義務ではなくオプションとして規定されています(Arizona Statutes 23-493.02)。その他の条件として、雇用者はこのようなドラッグや飲酒による業務遂行能力の低下のテスト制度を設ける場合はこれを全ての従業員に、役職に関係なく平等に適用することを義務付けられています(Arizona Statute 23-493.04.D)。
雇用主は、ドラッグ・テストや飲酒による業務遂行能力低下のテストの結果行った措置に関して、従業員や解雇された元従業員による訴訟の可能性から守られています。アリゾナ州における契約期間などの規定されていない雇用つまりEmployment at Willの場合は、雇用者または従業員のどちらからでもいつでも、どのような理由でも(特に雇用主が悪意をもって公共の福祉に反することをしない限り)解雇したり辞職する自由があります。(雇用期間などについて規定する雇用契約書に基づいた雇用であっても、)州法は、ドラッグや飲酒による業務遂行能力低下のテストの結果解雇された元従業員は元の雇用主を訴えることができないと規定しています(Arizona Statutes 23-493.06)。ここで注意を要するのは、このような法律の適用を受けて訴訟の脅威を回避するためには上記のような開示その他の義務を適正に実施済みであるという条件があることです。悪意または故意にテスト結果を曲げて従業員を解雇した雇用主は、このような訴訟の危険を回避することはできません。また、テスト結果を故意または過失により第三者に開示してしまったなどという場合には、雇用主は、テスト結果が原因で解雇された従業員から名誉毀損などで訴えられる可能性があります。テストの結果について雇用主は、細心の注意を払って秘密を保持する義務を負います。
上記のようなドラッグ・テストや飲酒による業務遂行能力の低下についてテストを実施したい場合には、雇用主は「就業規則」などにその詳細を記して配布したり掲示板に表示したりするだけでは不十分であり、より確実に従業員がこれらの内容を読み理解したことを証明するために各従業員が「確かに就業規則の内容を読み理解しました」と認め署名した文書を保存しておく位の注意が必要でしょう。また、「ドラッグ使用」「飲酒による業務遂行能力の低下」の疑いがあるという理由で雇用期間などを定めた雇用契約の下で雇用されている従業員を解雇することは法的に問題を引き起こす可能性があることを知っておく必要があります。客観的かつ科学的なテストの結果が確実に書面により表示されており、従業員側に通知されるべきです(Sanders v. Parker Drilling Co., 911 F.2d 191 (9th Cir. 1990)。
従業員・被雇用者の側からみると、上記のようなドラッグ・テストや飲酒による業務遂行能力低下のテストの結果解雇されたような場合に失業保険などの適用を受けられない可能性があるということを知っておくべきでしょう。