中間選挙とProposition 200


2004年の大統領選挙の時に州民提案法として成立したProposition 200について記憶していらっしゃる方も多いと思います。前回お話いたしましたようにProposition 200は、2つの部分から構成されています。1つは、選挙投票人登録の際に市民権を証明する書類を示すことを条件とする、また実際の投票日にも身分を証明する書類を示すという条件を課すものです。もう1つは社会保障・公的医療サービスなどを受けるためには米国市民または合法的永住者であることを証明しなければならないという部分です。今回は、同法の前者の部分に焦点を絞ってお話しましょう。この部分は、もちろん米国市民としての基本的権利である「投票権」の行使に関わる部分であり極めて重要です。この法律は、州民投票で成立した後も多くの問題を引き起こしてきました。2004年の大統領選挙および一般選挙の際には、まだこの法案は通過していなかったために実際の影響はありませんでしたが、同法成立後の有権者登録にはすでに影響し、今年の9月に行われた予備選挙の際には投票所においても初めて実施されることになりました。11月7日に予定されている知事、州議会、一般(連邦)中間選挙においても、投票時に有権者に対して米国市民であることを証明する書類を提示させるという制度が実施されることになっていました。
しかし、2004年に法律として成立すると間もなくこの法律の実施に反対する訴訟がアリゾナ州に対して起こされました。この訴訟の原告団は、アリゾナインディアン諸部族委員会、ホピ族、アリゾナ女性有権者同盟、ラテンアメリカ市民連合(LULAC)、アリゾナ権利擁護団体(AzAn)その他の団体と個人の集合体です。訴訟を担当している弁護団は、市民の権利のための弁護士委員会、アリゾナACLU基金、AARP(アメリカ退職者基金)関連弁護士等です。同訴訟の目的は、この法律の実施を差し止めようとすることでした。原告側の主張は、有権者登録および選挙の際に、当事者が米国市民であることを証明する書類である、パスポート、アリゾナ州発行の運転免許証、公共料金の請求書で当事者の住所と氏名が書かれているもの、アメリカインディアン諸部族の場合には各部族政府が発行する部族所属証明書の一つを提示することを義務づけるこの法律は、米国市民の基本的権利である投票権を阻害するものであり、米国憲法に違反する(第24条:証明書の取得にかかる費用約25ドルは投票権という既存の権利を有料化し有権者に違法な負担を課すという理由。第14条:不必要に有権者の投票するという基本的権利に制約と負担を課すという理由。)ものであり、また「全国有権者登録法(National Voter Registration Act: NVRA)」にも違反しており、アメリカインディアン原住民、ヒスパニック系、その他の少数民族、貧困者、障害者、高齢者などの層を不当に差別するものであり実施すべきでないと考えます。
 この法律は、有権者登録に際して申請者の出生証明書、パスポート、運転免許証(現在の住所と運転免許証の住所が合致していなければならない)、帰化証明書のいずれかの提示を求めており、選挙の際には投票所において投票の前に写真付きの身分証明書の提示を義務付けています。写真付きの身分証明書がない場合は、公共料金の請求書(当人の名前と住所が書かれているもの)や銀行口座のステートメントなど、当人の住所が確認できる証明を二つ提示してもよい、となっています。これまでに、マリコパ郡選挙管理部門の調査によると、同法実施後、有権者登録を申請した者のうち、30パーセントが同法による要求を満たしていないという理由で無効となったということです。9月の予備選挙の際に、どのくらいの数の有権者が投票を拒否されたかについては詳しいデータはなく、「全てスムーズに運び、問題は極めて少なかった」という当局の表明以外は不明なようですが、予備選挙における投票者の数が通常の大統領選挙・一般選挙や中間選挙そのものと比較すると圧倒的に少ないことを考えると、後者に同法が及ぼす影響というのはまだ不明というのが妥当でしょう。
最近、同法の実施に関して、慌しい動きがありました。上記の訴訟は、連邦地裁第一審では原告側が敗訴し、連邦高等裁判所(第9巡回裁判所)に控訴されていましたが、高裁は正式な判決を出す前の段階で今回の選挙に関しては同法を実施してはならないという「とりあえず」の差し止め命令を今月前半に出しました。それに対してアリゾナ州司法長官テリー・ゴダール氏は米国最高裁判所の緊急判断を仰ぎ、最高裁はこれも数日前に「とりあえず」高裁の差し止め命令は実施してはならない、つまり、従来とおり、同法を実施せよという命令を出しました。高裁の正式判決自体がまだ下されていない段階ですから、この最高裁の命令自体も仮の命令となるもので、最高裁の正式判断は高裁の正式判決が出された後、もしどちらかが控訴し、最高裁がこれを取り上げて判断を下すという選択をした場合は将来のいずれかの時点でこの件に関しての正式な判決が出されることになります。最高裁による今回の仮の命令は、「まあ、実際に中間選挙を行ってみて、有権者の投票権がどの程度本当に阻害されるのか、またどのくらいの非米国市民たちが投票しようとするのを止めることができるのかという実験を行って結果を出してみること」というような判断であったようです。つまり、現段階では、同法が米国憲法に違反するものか否かという正式判断は、高裁でも最高裁でも出されていないということになります。この判断については、将来どうなるものか注目されます。
今回の最高裁の仮命令に対して、上記の訴訟の原告となったグループの中には、すでに、「ある一定の有権者の投票権が阻害されるか否かという実験をしてみるという行為は、既存の基本的権利自体を軽んじるものである。投票を禁じられることになる市民の権利を阻害するということは、それが例え少数の市民の権利であっても許すべきではない」という意見を述べています。
最高裁の上記の仮命令をもって、今回の11月7日の選挙においてはProposition 200の選挙に関わる部分が実施されることになりました。有権者である方々は投票所に向かう際には、上記の写真付き証明書を忘れずご持参ください。また、現住所と有権者登録の住所が同一であることを確認してください。両者の住所が異なっていると、投票できなくなる場合もあるでしょう。一応、このような場合には「仮投票用紙(Provisional Ballot)」による投票が許されることになっているようですが、実際に投票所ごとにどのような処理がなされるかは当事者(投票所のボランティアなど)の知識レベルおよび判断にまかされることになるので、実際の票の行方は大きな疑問の種です。前回の選挙ではさまざまな理由で行われた仮投票用紙による投票は結局票に数えられることなく、仮投票用紙そのものが捨てられたなどという事例も多々あったようです。
この面倒な手続きを回避する方法としては、郵便による投票(Vote by Mail)を行うという方法もあります。この方法を選択すると、米国市民権を証明する写真付きIDの提示という面倒な手続き、潜在的な問題を避けることができます。また、今回の選挙ではいわゆる州民提案法案が19もあり、投票所では有権者がブースの中で長時間考え込む、つまり、長蛇の待ち行列ができるという可能性がありますので、郵便による投票は最善の策であるかもしれません。私もすでに、郵便による投票を済ませました。郵便による投票の手続き申し込みは、10月27日まで可能です。マリコパ郡のRecorder’s Office選挙管理部にお問い合わせください。今回は、将来の米国の政治、社会を大きく変える可能性がある選挙と一般的に見られています。有権者の方々は、投票することをお忘れなく。