TPP (Trans Pacific Partnership: 環太平洋戦略的経済連携協定)大筋合意


このような記事が新聞紙上を賑わしたのは10月5日のことでした。最初に参加諸国が交渉を開始してから5年間、困難に直面し何度も合意に至らないのではないかと思わせていましたが、そのような予測や期待を裏切って、今回の大筋合意が成立しました。

大筋合意が成立したといっても、合意内容の多くが交渉中に国民に知らされていないままであったのですが、今でもその状況にあまり変わりがありません。合意が成立しても、正式に参加各国の国会や議会での批准を経ないと国際協定としてもまた相当する国内法としても実施できないので、日本や米国でも批准の過程が必要となります。

TPPそのものは、現段階では12か国(カナダ、米国、日本、メキシコ、ペルー、チリ、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール)が参加国となっていますが、将来的にはその他の諸国も加わる可能性があります。これらの12か国は現在世界のGDPの約40パーセントを占める経済圏です。ちなみにEU諸国は、総合的に世界経済(GDP)の約25パーセントを占める経済圏となっています。またカバーする領域は広範囲にわたるものであり、農産物や知的財産権の領域などで特に交渉が難しかったようです。

今回は、特に農産物の領域について見てみましょう。この領域では特に日本側としては、協定の詳細な内容が公表されずに交渉が進められてきたために、事実が不明なままにさまざまの賛成論や反対論が各方面から述べられてきました。政府が推進する賛成論の主なものとしては、自由貿易が推進され、消費者にとってはより安価な輸入商品が入ってくるために物価が下がり、家計を潤すことになるという議論があります。反対論としては、農産物の生産者は現在でも関税・補助などを介して保護されることによりやっと生き残っているものであり、農産物の輸入において関税が撤廃され価格が下降すれば、国内生産者は農業を継続できなくなる、または食の安全に関して日本国内に存在する規則の撤廃を外国から要求されることにより、国民の健康を守るために作られた条例、規則、検査要件などが緩和される結果をもたらし、国民の健康を守ることがより困難になるという指摘もありました。
今回新聞紙上に紹介された「TPP 大筋合意」の記事を追いかけても、以前からの疑問や懸念を晴らし、明確また詳細にわたり今回の合意内容を解説する記事はありません。国民は協定が合意した後にも蚊帳の外にいるわけです。今回の各国間の交渉については、日本政府も何とか合意にまでこぎ着けたいという意図は明確に表現していましたが、交渉している協定の内容について広く公表し国民の意見を聞き、その結果として国民の意志を代表する交渉を進めたわけではありませんでした。それは日米両国で共通のやり方でした。国民不在でありながら、「国民の利益のため」と両国政府は大義名分を表明し続けたわけです。

具体的には、この大筋合意において最終的に(関税の撤廃や率減少はそれぞれの産物により異なる時間的スケジュールで行う)は農産物の品目数2328のうち81パーセントにおいて関税を撤廃し、19パーセントを関税撤廃の非対象とすることになりました。

食の安全に関しては、依然として不明な部分が多いままです。政府側の発表によると、食の安全の領域においても交渉中に各界から示された懸念であった遺伝子組み換え食品や添加物の使用や、それらのラベル表示などに関しても、日本のより厳格な規定が米国などからの政治的圧力などによりより低い基準に無理やりに合わせさせられるというようなことはなく、各国が独自に基準を決めることができると主張しています。このような主張は、具体的にどのように懸念が払しょくされたのかについての解説なしの言葉の上の主張であるため、それらを読んだり聞いたりしただけでは、それらの言葉が何を意味しているのか皆目分からないというのが実情でしょう。

過去における食の安全にかかわるTPP関連の懸念の一つは、食品検査にかかわるものでした。(小倉正行著「Business Journal 」2014年3月8日付け記事)この記事によると、2014年現在日本において、輸入食品の検査にかかわる検査官の数はわずかに399人であり、輸入商品にかかわる行政による検査率は2011年に約2.8パーセントでした。これを補う形の民間による検査を入れても約11パーセントであり、関税が段階を追って撤廃または減少するであろう中で輸入食品の量は増加すると予想されるにもかかわらず、検査官を増やすという政府による計画もない中で、輸入食品に対する検査率は大幅に減ることが見込まれている。

防かび剤(ポストハーベスト)や防腐剤なども含める添加物についても、また食品の材料に遺伝子組み換え材料を使用できるか否か、またそれらの有無を製品ラベルに表示する義務があるか否かについても、日本と他の国(特に米国)との間に基準の相違がある場合、どのように調整するのかという点に懸念が残りますが、この点についても政府側は「大筋合意後」も詳しく明快に説明していないので、国民は明確に協定内容を知り、安全かどうかを判断できない状況が続いています。これでは、TPP関連の食の安全についての懸念は、容易に払拭されることはないでしょう。

新聞やテレビのニュースでも、少しづつ合意した内容が明らかになってきています。今後も上記のような懸念がどれほどのスピードで、どれほどの明確性をもって発表されるのか注目に値します。そしてさらに言えば、政府の発表というものはとかく自分に都合がよろしいことを優先的に述べる、または独自の解釈で相手側が必ずしも合意していない内容も合意したとみなして発言する場合などもあります。実際には、協定が国際条約として各国により批准され、実際に適用された時に、相互の理解の矛盾が表面化して初めて問題的や矛盾点が表面化することになるでしょう。相手側に「そちらのやり方はTPP協定違反である」、と主張されて初めて相互の解釈のずれが表面化して紛争に発展するというような展開もあり得るでしょう。今後、長い時間の流れの中で見守って行く必要があります。