Proposition 200(住民提案法案200)その2

大統領選挙投票も終わり、一応の結果が出ています。オハイオ、フロリダ、その他の州で有権者登録数より投票数の方が10万のレベルで多かったなど、特に紙の投票用紙をスキャナーで数えた場合、コンピュータ投票機を使用した場合などに限定して不思議な結果が出て、現在ニューハンプシャー州、フロリダ州の一部、オハイオ州全州の投票地区(Precinct)で票の数え直しが始まっています。選挙の結果そのものは変わることはないかもしれませんが、不思議な投票パターンに関してどのような説明が出てくるのか興味あるところです。極端な例ではオハイオ州のある投票地区では、約700人の有権者登録者総数に対して、ケリーに約260票、ブッシュに約4800票という「奇跡的?」投票パターンを示したところもあったようです。歴史的に正確な予測に用いられてきた投票所出口調査(Exit Poll)の結果ではフロリダ、オハイオともにケリーの勝利という予想であったのが、票数を数えてみるとブッシュが大きく水を空けて勝利するという、これもまた説明が難しい現象もあったようです。
先回解説しましたアリゾナ州のProposition 200(住民提案法案200)ですが、これも賛成多数で法律として成立することになりました。今回は、この住民提案法について、実際にどのような影響があるのかというご質問をいただいておりますので、現在の段階で分かることを書いてみようと思います。アリゾナ州に居住する日本人の中には、市民権を取得せずグリーンカード(永住許可)のまま暮らしていらっしゃる方々、また市民権取得の対象とならない方々もいらっしゃることと思います。学生VISAやその他のVISAで米国に滞在していらっしゃる方々も含め、今回の法律成立はどのような意味があるのでしょうか。
結論的にいうと、「不明」という回答になります。法律の禁止条項そのものが不明瞭かつ曖昧な表現になっているために、それが何を意味するかという解釈はすでに複数あり、訴訟も少なくとも2つ賛成、反対の両側から起こされており、アリゾナ州司法長官の法的見解も出ており、これらが最終的にどのような正式解釈となるかは、まだ誰にも分からない、というのが現状です。米国市民以外の、さまざまな滞在許可者、または滞在許可を持たない者たちへの具体的な影響がどうなるのかは、広範な解釈が採用されるか、狭い範囲の解釈となるかによって相当に異なることになるでしょう。この法案を推進した運動体の人々は、勿論、最大限度に広範囲な解釈を求めており、狭義の法的見解を公表した州司法長官の解釈に反対して訴訟を起こしました。
皆様もご存知のように、この住民投票による法案が実際に投票の対象にされるべきではないという主張の訴訟も同法案に反対した側から、投票に先立ち起こされ、これは「あまりにも投票の直前である」という理由で裁判官に却下されました。この反対運動者側も、特にヒスパニックの人々の権利擁護運動に関わる人々がすでに提訴の意図を表明しています。
前回お話いたしましたようにProposition 200は大きく2つの部分に分かれています。1つは、選挙投票人登録の際に市民権を証明する書類を示すことを条件とする、また実際の投票日にも身分を証明する書類を示すという条件を課すものです。この部分は、もちろん米国市民としての基本的権利である「投票権」の行使に関わる部分であり重要ですし、詳細に分析する必要もありますが、それは次の機会に譲ることにして、今回は2つ目の「州およびその他の地方自治体に勤務する者に公共の福祉の恩恵を受けることを希望する者から移民法上の地位を証明する書類を提示させる義務を課し、その者が移民法違反者であればこれを移民局に書面により届け出る義務を罰則付きで課す」という部分に焦点を絞ってみたいと思います。
法律の条文
まず法律の条文そのものを見てみましょう。今回の法改正では、公共のベネフィット(恩恵・給付)を受ける者の移民法上の地位確認に関してアリゾナ州法第46章に新たに140.01という節を追加しました。この部分では、「…state and local public benefits that are not federally mandated…(連邦法が義務付ける公共の恩恵・給付以外の州および地方政府の公共の恩恵・給付)」を司る係官に対して以下の項目を義務づけ、(1. 受給資格を確認、2.州およびその他の州政府機関の係官に対して受給者の移民法地位を知らせるかまたはそのような情報を移民局から取得し確認する支援をする、3.交付当局が当該受給者の移民法上の地位および当該給付受給資格を確認しない限り、運転免許証などの政府当局が交付した書類を、当該受給者の身分確認または受給資格確認のために受け付けない、4.いずれかの給付の申請者が連邦移民法違反者であることが判明した場合には、A.移民局に書面により報告する)、違反した者は罰せられる(B.当該報告義務に違反する場合は軽罪クラス2違反者として罰則対象となる)としました。最も特徴的なのは、「C.いずれの市民も上記違反についていずれの州政府機関に対しても提訴できる」という点でしょう。このような規定があるため、州政府またはその下部機関(郡、市当局など)は、いつ提訴されるか分からないまま戦々恐々とすることになるでしょう。
争点
投票前の反対運動側からの訴訟でも問題になったことですが、上記の法律条文で最も厄介で、誰にも答えが分からない(つまり、回答、解釈が複数存在する)のは、「連邦政府が義務付ける以外の公共の恩恵・給付」というのが何を意味するかという点です。この法律を提案した側は、できる限り広範囲に解釈しようとしていることは言うまでもありません。そのような広範囲の解釈を恐れ、法成立と同時に、フェニックス市内のヒスパニック系住民の中には保育園に子供を通わせるを止めてしまった者も多くいたようです。「何が移民局への報告義務の対象になるのかということが不明」であるためにすでに大きな不安が引き起こされているようです。
州の司法長官の法的見解
11月12日、アリゾナ州司法長官であるテリー・ゴダールド氏は、今回の法改正に伴って「禁止対象」の定義に関する州司法長官としての法的見解を発表しました。彼は、今回の州法改正は、連邦法の規定を変更する効果はなく、州法の第46章(A.R.S. section 46-140.01)のみに限定する改正であり、「連邦法で規定される以外の州および地方政府の公共の給付」とは、主としてこの州法46章に規定する「ウェルフェア(生活扶助)の受給」のみに限定される禁止条項」であり、今回の法改正条文で触れていない第38章の公的保健プログラムに関する給付、また連邦法で保証されている学校教育などは含まないという法的見解を示しました(Attorney General Opinion by Terry Goddard, Attorney General, State of Arizona Office of the Attorney General, November 12, 2004). 法案そのものに反対の立場を表明していたナポリターノ知事も恐らくこれに近い立場であろうと思われます。
フェニックス市の対応
不安は、給付を受ける側のみでなく、「公共のベネフィット(恩恵・給付)」を司る立場の人々をも襲っているようです。「市民は、誰でも当局を提訴できる」などといつ規定があるのですから、不安になるのも自然のことでしょう。上記のような混乱の中、先日フェニックス市は市の職員1万人以上に関して、「これらの人々がいずれかの者に今回成立した法律の下で訴えられた場合には、市が訴訟に備えて用意した準備金(つまり税金)を費して弁護に当たる」と宣言しました。現時点で誰にも、「禁止対象」の定義が明確に分からない状況では、フェニックス市が採用した自衛手段は妥当なものと言えるでしょう。これに対し、今回の法改正を主導した人々は早速、この決定を「州民の税金を使って当該法律に違反した者を弁護しようとするのは、今回の法改正の意図をないがしろにするもの、つまり州民の意志を踏みにじるものであるから、このような措置は禁止されるべき」として既に提訴しました。訴訟合戦の泥仕合の幕開けです。
医療扶助・救急医療
現行の連邦法の下では、合法的滞在VISAを取得していないいわゆる不法移民と呼ばれる人々も救急医療の対象とされています。つまり、法律的にはこれらの人々が郡の経営する病院などの救急医療部門で治療を受ける場合に拒否されないことになっています。もちろん、実際には人種的偏見や連邦法の規定を知らないためにこれらの人々が救急病院で治療を受けられず追い返されるということも多々あります。今回の住民提案法200は、あくまでも州法ですから、一般的な連邦法と州法との間の矛盾に関しては連邦法が優先的に適用されるという原則がありますので、上記の連邦法を変更する法的効果はありません。おそらく、いわゆる「不法移民」の人たちが医療などのコストとして最も大きな額を費やすのはこの救急医療の部分であろうと思われます。その費用の大きな部分は連邦政府の負担となりますが、州も負担することになります。今回の法改正を主張した人々の考えとしては、「国民(州民)の税金を「不法移民」に費やすのはもううんざりした。是非止めたい」というものであったはずですが、結果としては連邦法で規定されている部分、つまり合法的な市民であろうが、米国滞在VISAを取得している者であろうが、「不法移民」であろうが、郡の病院などがこれらの人々に対して救急医療を提供することを止めさせることはできないことになります。
これまでにもあった現象ですが、貧窮している者たち、「不法移民」の人々は健康保険に加入している人数が少なく、予防的な目的で医療を受けることはほとんどなく、病気になってもすぐに病院には行かず、生死を争うような重病人になってから初めて救急病棟に行く(つまり無料の医療)というパターンが多いのです。今回の法改正は、このようなパターン、つまり病院側にとっては最も高額な医療費を負担せざるとえない場合を減らすことは無論のことなく、「移民局に密告されることを恐れる不法移民の人々」はますます、隠れて生活するようになり、ほとんど手遅れになってからでないと病院には行かないという現象を益々増やすだけでしょう。いずれにしても、「不法移民の医療費を国民(州民)の血税で負担しない」という目的は、全くと言ってよいほど達成できないことになります。
MEDICAID(医療扶助)などにおいては、給付の資格として合法的移民(特例として限定された者のみ)であるか米国市民がその対象になっており、すでに給付資格は連邦法ですでに限定されており、また各取り扱い政府機関の係官も報告義務を負っています。報告は主として、書類により給付を受けている者の中に不法滞在者などがいる疑いがある場合はこれらの者の住所氏名などを移民局に知らせるというものですが、今回の住民提案法200のような刑法上の罰則は特に設けておりません。そしてさらに問題を複雑にするのは、裁判所がこれまでに、「MEDICAID(医療扶助)は資格が限定されいるにもかかわらず、不法移民であっても重い腎臓病などで透析を必要とするような場合には医療扶助が提供されるべきである」という判例も出していることです。(In Greenery Rehabilitation Group v. Hammon, 893 F. Supp. 1195 (N.D.N.Y. 19xx) アリゾナ州またはその下部機関の設備で医療活動に従事する者(医師、看護士、病院など)は、一方では「不法滞在者」に緊急医療を税金負担で提供した場合、州民の誰からでも訴えられる可能性があり、他方では不法滞在者が重病であり、その治療を行わなかったことが理由で病人が亡くなったり、重大な障害を持つようになった場合、上記のような判例に基づいて、当該病人やその家族などから訴えられる危険もあるわけです。現時点では、何が違法で何が訴訟の対象となるのか、明確に理解することは不可能に近い上、両方から訴えられる危険を抱えて日常的な医療活動に携わることになり、精神的不安が深まることでしょう。今後、何が禁止されたベネフィット(恩恵・給付)であるのか定義できるようになるまでには、すでに始まっているような訴訟またこれから起こるであろう多数の訴訟が進行し、判例を積み重ねる必要があるので、何年かかるのか誰にも見当がつきません。
上記のような問題の他にも、別の現実的な問題が存在します。皆様のご存知のように、メキシコ国境を越ええて(毎日数百人が砂漠を越え徒歩で国境を越えてくる)米国に来る「不法滞在者たち」は、少しでも自国よりよい賃金の仕事をし、故国に待つ家族に送金するというパターンがほとんどです。命がけで砂漠を徒歩で渡って米国に入国する覚悟のある人々を、今回のような法改正があったからといって止めることは誰にもできないでしょう。このようにして米国あるいはアリゾナに越境してくる者たちを止めることができないとしたら、それらの人々の状況を現在より悪くするということはどのような結果をもたらすでしょうか。公衆衛生に携わる人々の中には、医療活動がこれらの人々に現在よりさらに及びにくくなることで、結核その他の伝染病予防の上で一般州民にも不利な結果を招く恐れがあると警告しています。また、市民権運動関係者、公衆衛生関係者の中には、両親が不法滞在であるために、米国で生まれた米国市民権を有する子供たちが本来は権利であるはずの医療給付の対象となることなく、「アンダーグラウンド化」し健康を害する危険もあると警告しています。
運用上の問題点
これまでのところ、何が「禁止条項対象」なのか明確でないこともあり、特に米国市民権を有さない合法的VISAを取得した米国滞在外国人に何か不利になる点があるかという疑問ですが、現在のところ明確に回答できません。これらの人々は、すでに生活保護や医療扶助などを受けるという点で制限を受けていますので、その点で今回の法改正が特に立場をより一層悪化させたという結論を導くことはできません。法律の条文としての内容を問えば、既に連邦法で制限されている給付内容について、罰則付き報告義務を足し、市民による提訴を許可したという以外には、変更はないという解釈も成立します。州の司法長官の見解が今後の裁判で支持されるような判決が出続ければ、そのような結果になるでしょう。しかし、今後の裁判で、より広範囲の禁止条項対象という解釈が勝てば、様々な公共のサービスを得る上で、米国市民でないが在留許可を得ている人々にも不便がおよぶ可能性があります。極端な例とすれば、公共の図書館で図書カードを交付してもらうためにパスポートを提示しなければならなくなるということもありえます。
また、法律の条文の解釈のみでなく、運用の場面で不便や権利の侵害を受ける可能性もあります。法改正を支持した者も、反対した者も、州の司法長官も、知事も、裁判所も含め、法律の専門家でもまだ誰もこの法律をどのように解釈するか確答できないのが現状なのです。いつになれば確答が出るのか現時点では見当もつきません。しかし、法改正は規制事実ですから、不明なままに州、郡、市などの係官は日常的にこの法律の実際の運用を行わなければならなくなります。運用する当事者にも、法解釈が不明なままに、人々は翻弄されることになるでしょう。いつでも提訴される心配があるのですから、「念のために、疑わしきは全て届け出よう」とばかりに、白人以外の「外国人と思われる者」が申請した場合には、数多くの届出をする係官も出るでしょう。その場合、「外国人と思われがち」な有色人種の人々が「優先的」に疑いを掛けられる場面が多くなるものと予想されます(いわゆるRacial Profiling)。皆様もよくご存知のとおり、米国で何かの事務的間違いが起こった場合に、それを訂正するのに膨大なエネルギーを必要とします。電話料金が誤って請求された場合など、何日もかけてやっと電話会社に訂正してもらったと思ったら、それから数ヶ月訂正結果が表示されず困ったなどという経験がない人はないでしょう。移民局に対して、「自分は正当な許可を得て米国に滞在している」と証明するのは、それより多くのエネルギーを要する可能性が大です。
数年前にカリフォルニア州で類似した住民提案法案(Proposition 187:1994)が成立し、違法移民の子供たちを公立学校、病院などの医療施設から閉め出し、公立学校の教師たちに「違法移民の子供たち」を移民局に報告させる義務を課したのですが、この法律は結局、多くの訴訟を引き起こし、現在裁判所の判決の結果、実際の施行が停止されたままの状態です。アリゾナのPROPOSITION 200も、もし住民投票の結果法律として成立しましたが、沢山の訴訟を招くだけで結局カリフォルニアの場合と同じ結果に終わるかもしれません。しかし、このような予想があるにも関わらず、アリゾナの法改正に勢い付けられ「反移民」的な住民提案法案が多くの他の州で提出されそうな気配です。今後の成り行きが注目されます。