従業員自由選択法

米国史上初の黒人大統領選出という新たな時代の幕開けとなる選挙が終わり、約1か月経過しました。最近は、各省・庁の長官候補たちの名前も取り沙汰されています。オバマ大統領が誕生することになり、上・下院とも民主党が多数を占めることになったわけですが、1月20日の大統領就任式の後、どのような変化が期待されるでしょうか?景気刺激策として雇用を増やすために、5000億から7000億ドル位の予算で米国中の道路、橋、学校などの補修などを行うという発表もありました。

今日は、労働組合に関して新しく成立するかもしれない法律についてお話しましょう。この法律は、Employee Free Choice Act(EFCA:「従業員自由選択法」)と呼ばれる法案で、2007年3月に下院を通過し、上院で審議が止まっているものです。2007年6月に行われた上院における投票では賛成票が52票(共和党員からの1票も加え)であったにも関わらず、共和党による議事妨害(filibuster)により不成立に終わったこと、今回の選挙で2009年の上院における民主党議席も本日現在で57議席となっており、まだ最終結果が出ていない2州の上院議員選挙の結果によっては2つ追加議席を得、59議席となる可能性も残っていることを考えると、オバマ政権発足後間もなくこの法案が上院を通過し、オバマ大統領の署名を得て法律として成立する可能性が大となりました。

この法案は、既存のNational Labor Relations Act (NLRA: 全国労使関係法)による労働組合結成・参加の過程に関する条項に変更を加えるものです。現在では、ある一定の職場において30%以上の従業員が組合カードに署名すると、その職場グループとしてNational Labor Relations Board(NLRB:全国労働関係局)に報告し、同局監督下で秘密投票による選挙を行い、組合結成・参加の是非を問うという仕組みになっています。EFCAが成立すると、秘密投票による選挙を経ることなく、組合カードに従業員の50%以上の署名を集めれば組合が成立することになります。会社としては、この場合法的に当該組合成立を認めることを強制されます。EFCAはまた、組合成立後の交渉がスムーズに進行しない場合は、一定の条件と時間的枠組みの中で調停から仲裁へと進むことを規定しており、会社側の都合で一方的に組合成立、そして労使の交渉を故意に遅らせることができないようになっています。仲裁の結果は、組合と会社両方に対して2年間の法的強制力があります。

EFCAはまた、会社側が従業員による組合組織と労使交渉の成立の努力に対して同法に違反して意図的に妨害する場合には、これまでより厳しい罰則と罰金(2万ドルを上限とする)を規定しています。

同法案を支持している組織としては、Association of Community Organization (ACORN), American  Federation of State, County and Municipal Employees (AFSCME), American Federation of Teachers(AFT), Alliance for Retired Americans, Allied Professional Association, American Public Health Association, Americans for Democratic Action, Asian Pacific American Labor Alliance, Center for American Progress, Center for Community change, Center for Corporate Policy, Church Women United, Democratic Leadership Council, Democratic national Committee, Gray Panthers, Human Rights Watch, Japanese-American Citizens League, Jewish Council for Public Affairs, Mexican American Legal Defense and Educational Fund, NAACP, National Council of Women’s Organizations, National Immigration Law Center, Presbyterian Church, USA, Sierra Club, United States Student Association, United Students Against Sweatshops, Unitarian Universalist Association of Congress その他などがあります。同法案に反対する組織としては、Heritage Foundation, National Right to Work Committee, Center for Union Facts, U.S. Chamber of Commerce, National Alliance for Worker and Employer Rightsなどがあります。

同法案を支持する意見としては、この法律が成立すれば、これまで組合が30%以上の署名を集めて選挙に至るまでに数週間かかる場合が多く、その間に会社側が組合を組織することの不利益について従業員を説得しようとしたり、組合を組織しようとしている従業員を解雇したり、また組合に参加したいという希望を表明した従業員を脅したりという行為が見られたが、今後はそのような行為ができないようにできるという点が強調されています。AFL-CIO労働組合の弁護士であるNancy Schiffer氏は、「…..賃金は伸び悩んできました。……1978年には会社のCEOは普通の従業員の平均賃金の35倍の給与でしたが、2005年にはこの割合は262倍になっています…..経済的公正を復活し、米国の中産階級を立て直すには組合による集団的な交渉が有効です。組合に加入している従業員の給与は非加入の従業員と比較すると30%高くなっています。女性の場合はこの差は31%、黒人の場合は36%、ヒスパニックの場合は46%です。また健康保険への加入率も、組合加入者の場合63%高くなっています。……..」と組合加入の利点について述べています。(Employee Free Choice Act/Congresspedia: www.sourcewatch.orgサイトからの引用)

同法律の成立に反対する意見としては、従業員による秘密投票の過程を無くすことは、従業員の基本的権利(組合加入の是非を自由に選択する権利)を奪うことであり、許してはならないとしています。また組合カードへの署名を勧められる従業員は、同僚からのプレッシャーを感じ自由に自分の意思を表明できないとし、調停や仲裁の過程、仲裁の結果が法的拘束力を有することにも反対しています。

大統領に選出されたオバマ氏は、選挙運動中も明確に労働者寄りの発言を繰り返してきていますし、上院議員として、同法案が上院に提出された時にもCo-Sponsorとして法案提出者になっています。大統領就任後、割合に早い時期にこの法案が上院で再審議となり、数名の共和党員の賛同を得ることができれば、共和党員による「議事妨害」を克服して成立する可能性が大きいでしょう。賛成・反対両派ともに、この法案が成立すれば組合の組織率は相当に上昇するものと予測しています。アリゾナ州はいわゆる「Right to Work: 労働権」が保証されている州であり、組合の組織率は比較的低くなっていますが、同法が成立すれば、2009年には大きな動きがあるかもしれません。今後の成り行きが注目されます。