ハーグ条約


今回は、日本政府が参加を決定したといわれる「ハーグ条約」の関連で最近ニュースになった事件についてお話ししましょう。

離婚の裁判で米国の現在片方の父親(米国人)と居住する子供たち(日米二重国籍)に、日本に居住する日本人の母親が日本国内で会う場合には親としての養育権の行使であるにもかかわらず、またこれまでに子供たちを日本に引き留めようとしたという経緯も全くないにもかかわらず、日本に子供たちが戻る前に母親は(父親が万一のときに裁判費用などに使えるように)保証金5万ドルを積むようにという判決が出たことは以前の記事でご紹介しましたが、最近のニュースを見ると、この他にもいろいろな事件がハーグ条約関連で起こっていることが分かります。今回はそのうち二つを見てみましょう。

日本テレビウェブニュースは、11月22日付で日本人女性が「娘を夫の元に戻す」という約束をして刑事罰を軽くしてもらうという司法取引をしたということを報道しました。この女性は以前米国に暮らしていましたが、その時に結婚していた元夫との離婚係争中に未成年の娘(当時8歳)を連れて2008年に日本に帰ってしまいました。その後、夫は米国ウィスコンシン州裁判所から単独親権を取得、女性の側は日本でそれより後の時点で日本の(神戸)家庭裁判所から親権を取得しました。女性と元夫は日本での裁判で親権や面会権について争っていましたが、日本の家庭裁判所は、親権は女性にそして元夫(父親)にも日本と米国での面会権を与えるようにという判決でした。(産経新聞ウェブ版2011年5月27日付記事)家裁の裁判官は「子供は日本になじんでいる」として親権は母親が取得すべきとし、一方では「父親の生活や文化にも触れた方が子供の可能性を広げる」として父親との面接も日本で約2週間、米国で約30日とし、さらにウェブカメラで週に1時間、電話で週30分の交流を義務付けました。(同記事)

そのままこの母子が日本にいれば、今回の事件は起こらなかったのですが、母親の女性が永住許可(グリーンカード)更新のために渡米した際に「親権妨害容疑」で逮捕されてしまったところから事件は別の展開となってしまいました。母親は重罪容疑者となり、刑事事件の被告となってしまったのです。この女性はもちろん無罪を主張しましたが、ウィスコンシン州の裁判所から出た「父親が単独親権を有する」という判決が生きており、父親の訴えで法廷侮辱罪による指名手配がなされていました。この罪名で有罪が確定すると最高で懲役20年が課される可能性もありました(産経新聞ウェブ版2011年10月28日付記事)。外務省は、子供を連れて帰国した日本人が指名手配された国に再入国するのは異例であり、身柄拘束は過去に例がないとコメントしています(同記事)。

日本政府が加入を表明しているハーグ条約はまだ正式加入となっていないため、母親が現状維持として日本に留まっていれば、日本の家裁の判決が生きており、母子ともにそのまま日本にいて「保護」されている状況を続けることができたと思いますが、「米国で30日間の面接権」を父親に与えるよう日本の家裁が命令したことと母親がグリーンカードの更新をするために単独で渡米したことと関係があるかもしれません。母親は、子供を連れて父に会わせるためにグリーンカードを更新しなければと思ったのかもしれないと想像します。しかし、綿密に調査をすることなく渡米してしまったというのは判断が甘かったと言えるでしょう。渡米する前に、ウィスコンシン州での「父に単独親権」という判決を変更してもらう手続きを取る、確実に「法廷侮辱罪」で出されていた指名手配を解除してもらう。。。。という一連の手続きを踏み、それらが確実に実行されており、渡米しても逮捕される可能性が全くないということを確認してから渡米すべきでした。

この事件の場合も、母親が日本に8歳の子供を連れ帰った際の事情は詳細に解説されていないので、ドメスチック・バイオレンスDVや児童虐待が関連するのか否かは明らかではありません。しかし、このような形で両親が争い、一時的に日本で安定して生活してきた子供を突然「判決だ」という理由で母や祖父母と引き離し、父の元に送り返すという体験は子供にとってトラウマになるでしょう。刑事事件の被告人となったしまった母親に面接権が米国内で将来的に保証されるのか否かについては記事は触れていませんので、不明です。母親が10年以上の懲役刑になるよりはと子供を手放す決意をしたことが書かれているばかりでした。どう考えても、ハッピーエンドとは思われない結末です。母親が釈放されて日本の戻ったとしても、再度日本の家裁の判決を実施するよう訴えでることはできないでしょう。米国ウィスコンシン州の離婚を扱った裁判所に母親と父親の共同親権に変更するよう嘆願しても、女性が一度法廷侮辱罪で逮捕された経緯があるのでその要請が受け入れられる可能性は低いでしょう。8−9歳の娘にとって、母親と会えなくなることはトラウマとなることは確実でしょう。なんとか父と母が円満に子供が双方の親と交流しながら養育されるように、交渉できなかったのかと思います。

日航に対して提訴!

もう一つ注目を集めたはは、日本人の元妻が息子を連れ去ることを見逃したとして、米国人男性が日航と旅行会社を提訴したという記事です(日本テレビニュースウェブ版2011年4月18日付記事)。2008年に日本人妻が当時2歳の子供を連れて日本に帰った際に、ロスアンゼルス地域の外に子供を連れ出してはいけないという裁判所命令が出ていたにもかかわらず日本航空と旅行会社の不注意により妻と子供が日本に帰ってしまったことを理由に日航と旅行会社に対して損害賠償請求を行ったということです。この裁判の成り行きはまだ不明ですが、このようなことが頻繁に起こると、航空会社や旅行会社のチェックはますます厳格になって行くことでしょう。現在では、片親でも子供のパスポートを提出すれば里帰りなどで国際便に乗ることができますが、次第に両親の許可(書面による承諾書など)がないと航空会社は未成年の子供を国際便に載せないというような暗黙のポリシーが出る可能性もあります。

ハーグ条約からみでいろいろ事件が出てきていますが、難しい点は、例えハーグ条約に日本が加入しても、このような問題はなくならないでしょうし、場合によっては、ますます複雑により困難になるのではないかという危惧です。

日本の国内法の整備も気になります。日本では離婚の際には「共同親権」という制度はなく、あくまでも父か母のどちらかに親権が与えられ、親権を持たない親は面接権を与えられることが多いのですが、それは確立した権利というよりは、親権を有する親が相当恣意的にコントロールできる条件に過ぎないようです。日本で私が周囲で見聞きした例でも、また一般的な例でも、親権を持たない方の親が再婚すると面接権をキャンセルしてしまう場合なども多いようです。どう考えても子供の安寧を最優先した制度(法的制度と慣習的制度の両方から)とは思えません。

このような国内の状況は日本人同士の結婚・離婚でも様々な問題を引き起こしているのですから、ハーグ条約加入により、共同親権を前提とする先進諸国の法制度とどうすり合わせをするのでしょうか。想像もつかないほど難しそうだな、という感想しか思い浮かびません!