TPP


今回は、最近新聞などを賑わしているTPP (Trans Pacific Partnership)についてお話しましょう。TPPとは何か?すぐに答えが頭の中に浮かんでこない読者も多いことと思います。「TPP」という言葉は頻繁に日本の新聞でも米国の新聞でも扱っていますが、その内容となると、詳細はほとんど公開されていなかったためです。TPPは、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ブルネイ、日本、およびシンガポール、ベトナム、マレーシアなどの東南アジア諸国、そしてメキシコ、ペルー、チリなどの中・南米諸国を含む環太平洋国家である12か国が締結を目指す自由貿易協定です。同協定が含む項目は、食物、農業、農産物、知的財産権、インターネットの自由、ヘルスケア、薬品や医療規制など多岐にわたります。米国政府は、この協定を加盟予定諸国との同意を年内にまとめることを目標にしてきましたが、ここにきてWikileaksからの「原案(ドラフト)」のリークが起こるなど、米国議会、特に下院議員たち、またそれぞれの国の環境問題、知的財産権、農業、医療の専門家たちまた巷の人々から疑問の声が上がるようになり、年内同意成立というのは無理になってきたようです。

これまでに178人の米国下院議員(民主党員151人と共和党員27人)がTPPをオバマ政権が望むFast Tracking (特急措置)プロセスにより特急で修正無しを条件として議会において簡略審議し条約・国内法として成立させることに反対しています。

WikileaksによるTPP交渉関連情報開示

11月13日、WikileaksはTPP交渉関連の秘密情報(8月末時点での協定ドラフトの一部95ページ)を開示しました。TPPは締結されれば、過去のカナダとメキシコと米国との間で締結されたNAFTA(北米自由貿易協定)などと比較しても米国市場でこれまで最大の貿易協定となります。TPPが成立すれば、米国からの輸出や雇用が増大するというのが政府側の主張ですが、これに対してこの協定が成立すれば、逆に雇用は減少し輸出も期待するほどは増大しないと主張し、また国際条約が米国内法に優先するため既存の知的財産権その他の諸法をそれぞれ個々に議会による決議なしに変更してしまう効果があるとする批判的意見もあります。日本国内での議論を断片的ですが拾ってみると、やはりこの協定が成立すれば日本の農業は崩壊するという意見もありますが、逆に日本の農業は競争環境を経てさらに高級農産物に特化することによりブランド力を高めることができるので、これまでのような農業保護政策なしに利益を高めることができる農業に成長するという楽観的意見もみられます。雇用についても、東南アジアの経済成長率が高い諸国に日本の物品をこれまでより自由に売ることができるので、日本の輸出業界は潤い国内の雇用も増えるという意見もある反面、潤うのは輸出業者のみであり、それらの国に輸出される物品の生産はより労働力が安価な別の第三国で生産されそこから直接相手国に輸出されれば日本の雇用は増えない、また自由に農産物などが輸入されることにより日本の国内の雇用は減るという意見もあります。どちらの意見を読んでも、決定的にどちらが正しいという結論を導きだすのは難しそうです。

批判的意見の中には、TPP協定は自由貿易を奨励するという側面より、独占・寡占企業の利益をこれまで以上に保護するという一部の企業の利益を守るための保護主義的側面のほうが強いと述べるものもあります。例えば薬品について米国特許法で定められた期間より長い期間にわたり(場合によっては20年の延長)特許の効果を延長し特許切れによる製薬会社の利益減少を抑えようとする(すなわち発展途上国および米国内部における薬品の価格を本来なら特許切れでより安価になっているはずの期間についても引き続き高価に保とうとする努力…医療費を高いレベルに固定する)、医療については手術の手順を特許の対象にしようとする(現行米国特許法では特許の対象とならない例外に含まれる) 、また植物の種や生物そのものを特許の対象とするような条項もあり、それは協定交渉の中で政府交渉当事者に対する企業側のロビー活動(同協定の交渉に影響を与える企業ロビー活動者の数は600人)の結果だという主張です(Lori Wallach: 11月5日「Democracy Now」インタビュー)。彼女はまた、過去のNAFTAなどの自由貿易成立の経緯と比較しても今回のTPP協定の内容についての政府の秘密主義は異常なほどであると述べています。(同上)TPPの内容について詳しく知るためにはWikileaksのリークを待つほかなかったのですが、他の自由貿易協定についてはインターネットのサイトなどを介して自由に内容を読めたと述べています。同協定が定める国際裁定機関は民間企業代表により構成されることになり、各加盟国の国内裁判所システムに優先する権限を有する仕組みになっていることにも危惧を表明しています。(同上)

知的財産権に関する条項についての批判もあります。TPP協定の中で著作権を強化する中で、「他者の著作権を侵害している」という理由の下でインターネット接続を切断またはホームページをブロックしたりできるという条項、ISP(インターネット・サービス・プロバイダー)が著作権者の要求に応じてユーザーの通信やデータを検索し違反がないかスパイすることができるようにするという条項、法に定められた正当な手続き(Due Process)を経ることなく簡略的手続きで著作権侵害として当事者を罰することができるようにする条項の存在を指摘し、労働者保護の規定や環境保護の規定もなし崩し的に弱体化するものとして批判しています。(同上)

11月19日から24日の期間にユタ州ソルトレーク市で行われた加盟予定国間の首席交渉官会議の結果、工業品や農産品の関税撤廃、著作権や新薬の権利保護期間の延長、国有企業の優遇措置の見直し、貿易促進のための環境基準緩和の禁止などについての交渉は合意の見込みが見通しがつかないというカテゴリーに入れられています(日経新聞2013年11月26日記事)。協定の全体的交渉段階としては「協定の大枠は固まった」という表現になっています(同上)。やはり2013年内に合意成立という見通しは全く立たないようです。知的財産権の分野では米国とアジア諸国との間の溝が相当大きかったということです(日経新聞2013年11月25日記事)。日本は95パーセントの農産物の関税撤廃を提案したものの、他の加盟予定国からさらなる撤廃を要求され、国内の反対運動との関係上苦戦している状況のようです。 

TPPを巡っての議論には、勿論TPPの内容についての議論も重要ですが、12か国間で交渉されている内容が議会の議員はおろか一般国民には全く公開されていないということを問題にする議論も多くあります。交渉が成立し協定が出来上がる前に国民に知らせることは国家機密保持に反するという論理なのでしょうか。国民が協定の交渉内容を事前に知り、意見を反映させることが国家の安全や利益に反するという論理であれば、国と国民との関係はどうなるのかという疑問も湧いてきます。日本でも「特定秘密保護法」なるものが11月26日に衆議院を通過し、間もなく参議院も通過し立法化されるという見込みだということであす。しかし、「特定秘密」が何を意味するか何が特定秘密で何が特定秘密でないのか明確に定義した人はいません。誰も特定秘密の内容が分からないまま政府与党が衆議院・参議院で多数派を占めるという状況であるため議論を深めることなく簡単に法制化することができるという事実は、国民の多くが疑問または恐怖を感じる原因になるのではないかと思います。昔父母から聞いていた「戦前は怖かった。どこにも特高(特別高等警察)の目が光っていて自由にものが言えなかった」という言葉を思い出してしまいます。「特定秘密」が秘密であれば、何が特定秘密なのか知らないうちに取材していたり、調べていたりして知った情報を書いたり話したりしていたら法律に違反する結果になっていた。。。。などという状況がありえるのではないかと心配しているのは新聞社、マスコミに関わる人々だけではないようです。米国ではWikileaksの力を借りないと知ることができなかったTPPの交渉内容ですが、日本ではどうなのでしょうか?新聞などを読んでいても、あまり詳しく内容について解説している記事はありません。国民の間で広く議論されているとは到底思えません。こういう多国間協定の交渉内容などというものは、「特定秘密」に入るのだろうかと疑問を持つのは私だけではないかもしれません。今回の特定秘密保護法は、米国からの圧力もあって阿部政権としては速やかに成立させたかったのだという解説も読んだことがあります。米国が自国で秘密にしていることが日本で一般に公開されて議論の対象となっては日本から跳ね返って米国にも情報が入ってきては困るというような「秘密の語呂合わせ」みたいな政策上の考慮があったのではないかと勘繰ってしまいたくなります。今後の成り行きが注目されます。