先回信託の目的の一つとして「裁判所による遺言の検認(Probate:プロベート)を回避する」ことを挙げました。アリゾナ州の場合遺言なしの場合、そして遺言を残した場合も遺産が$50、000を超えれば裁判所による検認(プロベート)の対象になると説明しました。具体的には、どの程度の費用・時間のコストが必要になるのでしょうか。遺族は、実際にはどのような状況になるのでしょうか。
 この$50、000という遺産がプロベートの対象となるとなるか否かの境目になる額は、どのようにして計算するのでしょうか?これは、死亡した当人が所有していた全ての資産の合計です。不動産ばかりでなく、401 資金や生命保険の給付金、車、株、債券、時によっては会社年金なども含まれます。$100、000の市場価値のある家に住んでいて以前にその家を購入した時の価格が$30、000であったとすれば、ローンの残高がまだ$20、000あったとしても、すでに死亡時に当人の所有となっていた額は$80、000ということになります。例え、配偶者がいて当人の持ち分がその半分の$40、000であったとしても、家の中にある家具、家財道具、車その他の資産の推定価格(今の時点で購入するといくらかという計算の仕方をする場合が多いので、思っていたより相当に高い評価額になる)を加算すると、あっという間に$50、000は超えてしまうでしょう。1999年1月8日付けの「USA TODAY」新聞の“Boomers Inherit A Legal Messモ (Sandra Block著)というタイトルの記事によれば、2040年までにベビーブーマー(日本でいう団塊の世代)たちは両親から総額で 兆ドルの遺産を相続することになると予想されます。彼らの4分の1が$50、000以上を遺産として受け取ることになると予測されているにもかかわらず、$50、000ドル以上受け取ると思っている者は パーセントしかいないという調査結果があるそうです。彼らの多くが、今のままで何もしなければ両親が亡くなった時点で思いがけずプロベートの過程に関わらざるをえない状況に至るでしょう。
裁判所による遺産検認(プロベート)の実際
 経済的・時間的なコストがどの位か知るために、プロベートがどのようなステップを必要とするか概要を見てみましょう。当人が死亡すると、遺族はプロベートの手続きを開始します。まずプロベートの専門の弁護士を雇うことが多いでしょう。その次ぎにその弁護士の支援を得て裁判所に請願書を提出します。そこで裁判所に手続き料を支払います。裁判所は、遺産配分のための遺言執行者(Executor)を任命し、全ての家族および受益者にプロベートが行われる旨の通知が出されます。次ぎに、全ての債権者に対してプロベートが行われる旨が同様に通知され、それぞれの債権者が請求権を提示するまで待ちます。この期間はアリゾナでは、最短で4か月位です。遺言執行者は、死亡者の全資産の目録を作成しそれらの項目の現在の市場価値を評価させます。(専門家のサービスを要するので費用が掛かる)次ぎに全ての債務、掛かった費用(弁護士料、裁判所への諸費用、資産評価のための費用、遺産税)を支払います。それぞれの支払いを実行するために、遺産の一部を売却する必要があっても、裁判所の許可なく売却することはできません。ここで問題になるのは、連邦遺産税(Estate Tax)の支払期限は当事者が亡くなって9か月目であり、その時点で支払い義務があるということです。プロベートが終了していない状態で、この税を支払う現金が別口で手元になく、資産の一部または全部を売却しなければならない場合でも、裁判所の許可が必要になるのです。何らかの都合で税の支払いが遅れれば、IRSは容赦なく9か月目から利息を課します。全ての支払が終了し、しかも手続きの全てのステップが法に則って適正に実施されたという認証を裁判所から受けてから、初めて遺族その他の受益者に遺産の配分が行われます。このような煩雑かつ時間が掛かる手続きの最中に、当該遺書に対して異議を唱える親戚などが申し出たり抗議したりすれば、その都度裁判所の判断を仰ぐ必要があり、全体としての手続きは更に遅延します。このための弁護士費用、最悪の場合は裁判で争うための費用が増大することになります。
 実際には、プロベートの費用とはどの程度掛かるのでしょうか?弁護士料ですが、アリゾナ州ではプロベートの料金として時間当たりいくらという料金設定が一般的です。弁護士によって時間当たりの料金は異なりますが、$150〜$250というのが一般的な相場でしょう。プロベートがどの程度複雑になるかによって必要な時間数は異なりますが、容易に数千ドルの単位になってしまうことが予想されます。裁判所により任命される遺言執行者も同様に数千ドルの料金となることがあります。プロベート費用は、平均的に遺産の額面総額(不動産の場合ローンの残高を差し引く前の額)の4パーセントから パーセントの間と考えられています。遺産総額が$150、000ドル程度で諸費用は$10、000に近い数字になることも珍しくありません。
 プロベートには、どの位の時間が掛かるのでしょうか?上記のステップの全てを完了するのに、1、2年掛かることも珍しくありません。どんなに簡単な場合でも、9ヶ月位は掛かるようです。全てのステップで裁判所を満足させなければならず、その裁判所はいつも沢山のケースを抱えて混雑しているからです。
独身で身よりが米国にいない人の場合
A 遺書がない場合
 米国在住で米国市民権をもっている元日本人で親戚が日本にしかいない独身者の場合を想定してみましょう。このような人が亡くなった場合は、勿論プロベートの対象になります。遺書もなく身よりも米国にいないため、全面的に裁判所の主導で弁護士が任命されてプロベートが行われることになると予想されますが、裁判所がこのような弁護士の協力を得てどの程度日本にいる親戚に連絡を取る努力をしてくれるでしょうか?遺書があり、「遺産は、日本にいる兄弟の誰々に譲る」という意志表明がされていない限り、遺族へのプロベートの通知がどれ位徹底されるか疑問点が残ります。また、日本にいる兄弟姉妹、姪、甥などが当人の死亡を知り米国に駆けつけてきて、プロベートの過程に弁護士、代理人、通訳などを雇って関わらない限り、彼らの権利がどの程度保証されるのか不明な部分が残ります。プロベートの過程に直接関わることができたとしても、数ヶ月極端な場合は数年もかかるプロベートの期間米国に滞在したり、英語で行われるプロベートの過程を理解するためには通訳を雇う費用など経済的負担も大きくなります。日本でまだ現役で仕事をしている人の場合は、負担が大きすぎて米国に数ヶ月も滞在できないでしょう。最悪の場合、誰も死亡した当人の親戚の居住する場所(日本の住所)または連絡先が分からないままに、「遺族なし」と決め付けられてしまう場合もあるでしょう。その場合、最終的に当人の遺産は州の所有になってしまうことさら考えられます。一生掛かってした蓄積した貯蓄、不動産、現金、退職資金などを自分が渡したいと思っていた相手に渡すことができなくなるという結果になるわけです。
 遺書がある場合
 では遺書があった場合はどうでしょうか。「遺産の受取人不明」ということで遺産が州の所有物となってしまうことはなくとも、日本にいる「遺産相続人と指定された人」は、遠く太平洋を隔てた米国で行われるプロベートの結果に全面的に左右されることになり、上記のプロベート諸費用支払いの後でなければそれらを差し引いた額を受け取ることができません。遺書を作成してあっても、自分が意図した相手に期待した額を残すことができず、また遺産を受け取る者にも大きな負担を与えることになるのは上記の場合と同じです。
 また外国人への遺贈は、連邦税法上の制限の対象になるという問題点も含みます。連邦遺産税は、遺産の受け取り手が米国人である限り一定の額まで無税になっています。例えばその額は、1999年では$650、000という額ですが、今後少しずつこの額は上昇し、2006年には100万ドルになる予定です。しかし、遺産の受け取り手が外国人の場合このような控除の対象になりません。
 次回は、連邦遺産税とその影響についてディスカッションしましょう。夫婦のどちらかまたは両方が米国市民でない場合、無税で遺産相続が許される額が夫婦とも米国人の場合と大幅に異なりますので、良く理解してトラスト設定など、将来の計画を立てる必要があります。