さて今回は、税法・会社法の専門家である同僚の弁護士フィリップ・グティラ氏に登場してもらいました。小規模ビジネス(商店・レストランなど)を家族経営で営む場合の、LLC(有限責任会社)法人化の特徴・利点を税法、訴訟、計画的遺産処分(Estate Planning)などの総合的な観点から解説してもらいます。フィリップ A グティラ氏は、弁護士であると同時に税法の専門家(税法修士号取得)であり、また公認会計士(CPA)でもあります。今回は、グティラ氏と私との間で数回、小規模ビジネスの法人化について税金面、遺産税、訴訟対策などの観点からディスカッションをし、フェニックス周辺でビジネスを営んでおられる日本人の方々に対してアドバイスとなるような記事を書いてもらい、私が翻訳・編集を担当しました。
 グティラ氏は、フェニックスのダウンタウンにあるRyley Carlock & Applewhiteという法律事務所で主として税法、会社法などの領域で弁護士/CPAとして活躍中です。(Tel:602-440-4845、電子メールは、pguitila@ryleycarlock.comです)今後、ビジネスの法人化、会社法に関するご相談などがございましたら、Guitilla/Kondoチームでお手伝いさせていただきます。
 多くの小規模ビジネスのオーナーは、少ない予算で事業を始めます。毎日の営業努力の中で、法人化など法律的な側面に当初はあまり関心がないかもしれません。そんなことより、月々の電気代を払うことの方が優先でしょう。しかし、長期的な観点から見ると、「有限責任」のビジネス実体とする方がずっと安全かつ経済的にも有利な投資となります。
はじめに
 今日は、有限責任会社(LLC)の長所と欠点についてお話しましょう。LLCは、通常一人以上の者または実体(会社など)がアリゾナ州当局に定款(Article of Organization)を提出することにより法人化します。LLCのオーナーは、会社の株式を所有するのではなく、パートナーシップ(事業組合:日本でいう合名会社・合資会社に近いもの)の場合と同様にメンバーとしての利益を所有します。言ってみれば、LLCは法人会社(Corporation)とパートナーシップ(Partnership)のHybrid (混合) のようなものです。アリゾナ州のLLCは、個人または会社などの実体が所有者となることができます。
 食料品店などの小規模ビジネスを営業する個人は、LLCを組織しこのビジネスそのものと資産をLLCに権利移転することと引き換えに一○○%のメンバーシップ利益(つまり、所有権)を所有することができます。LLCは、このようなメンバーシップ利益の所有者が実際に経営することもありますし、またLLCの所有権(利益)を持たない外部のマネージャが雇われて管理経営することもあります。
 LLCの形式でビジネスを展開する最大の利点は、LLCという法人がその所有者に対して法的責任上一定の保護を与えてくれるということです。LLCの個々の所有者は、LLCの負債に個人的に責任を負う必要がありません。ビジネスが失敗してLLCが債権者に対して負債を抱えても、一般的に債権者はLLCのメンバー/所有者の個人資産(例えば自宅である不動産など)から負債額の支払いを求めることはできません。例えば、食料品店が銀行から50、000ドルの融資枠を与えられた場合、LLCのメンバー/所有者が個人として保証人とならない限り、例え実際に30、000万ドルの債務残高があったとしても、銀行も商品供給業者もLLCの資産からしか負債の支払いを求めることができません。(しかし、注意を要するのは、このような支払責任の有限性は、従業員の未払い給料には適用されないということです。)
 アリゾナ州のLLC法では、LLCのメンバーは通常の法人会社としての「法的に要求される形式」を厳格に遵守する必要がありません。つまり、所有者たちは年次総会を開催したり、年次報告書を州のCorporation Commissionに提出する義務がありません。通常は、法人会社の所有者が会社法で定められた規定を遵守しない場合、法人会社としての法的責任上の(個人所有者に対する)保護を取り消される危険がありますが(つまり有限責任でなくなってしまう)、LLCの場合は遵守する規則が厳格でなく要求水準が低い分だけ、その危険も小さいわけです。
個別的な利益・損失の配分可能性
 LLCには、所有者間で利益と損失を配分することに関して、より大きな自由・柔軟性があるという利点もあります。LLCの所有者は、通常所有者同志の関係およびLLCとの関係を記述した業務同意書(Operating Agreement)を締結します。この同意書によって、他の所有者がLLCからの利益を受け取る前に一人の所有者が自らの投資に対して優先的に一定の利益を得ることがきるようように規定できます。例えば、三人の個人がLLCを組織し、三人のうち二人が当該LLCを日常的に運営する意図であり、三人目の者がLLCを運営する資金のみを提供し経営に関わらないような場合、同意書は後者(第三番目の者)が他のいずれの所有者よりも優先して当該LLCをからの投資金額の払い戻しを受け、利益のうち自らの投資額に見合った一定の割合を受け取るように規定できます。LLCはまた、それぞれのメンバーをお互い同志から保護します。アリゾナ州において二人以上の個人が、法人化またはその他の有限責任実体を組織せずにビジネスを始めた場合、そのような組織は法によりジェネラル・パートナーシップ(日本でいう合名会社に近いもの)とみなされます。このジェネラル・パートナーシップの各メンバーは、同パートナーシップの負債や他のパートナーの行動に相互に責任を負います。LLCを組織すると、そのような個人の支払責任を回避できます。
Estate Planning(計画的遺産処分)
 LLCのもう一つの利点は、メンバーが自ら所有するLLCの利益を子供や孫にEstate Planning(計画的遺産処分)の一部として贈与できるということです。二○○○年には遺産および贈与税の控除は675、000ドルですが、ある個人の遺産が675、000ドルを超える評価を受けた時、675、000ドルを超過する分の額が生存する配偶者の所有とならない限り、その額は35%から60%の範囲の課税対象となります。ある個人が675、000ドルを超過する額を所有する場合、生前にLLC利益を子供、孫その他に一定の額づつ毎年贈与することによって、課税対象額の部分をできる限り最小限にできます。各人が一人年当たり10、000ルのキャッシュまたは(LLCの所有権などの)財産を自分で選んだ個人に(人数は限定されない)贈与でき、課税額を減少させることができます。この方法を採用すると、LLCの部分的所有権は所有者が選択した者に毎年、各人が持つ免税枠(つまり一生涯に二○○○年であれば、675、000ドル)を取り崩すことなく10、000ドルづつ贈与できるわけです。LLCの所有権利益全体から贈与済み部分の割合にかかわらず(つまり、当該所有者が所有する権利が僅かになってしまっても)、LLCの所有者/経営者兼贈与者本人は、生存中運営上のコントロールを自らの遺産相続人に渡す必要はありません。投票権のないLLC利益を贈与することにより、ビジネス上のコントロールを維持できるのです。そして、当人が亡くなった時点では、遺産税対策は万全に出来ている、つまり課税対象にならないまたは相当実質的に節税ができているということになります。
不動産
 LLCは、不動産利益を所有するための理想的な手段です。不動産の所有権をLLCの形式で所有すると、当該不動産に関する「滑って転んだ」たぐいの負傷事件などの訴訟から同一人物が所有する別の資産を保護することができます。一般的には、不動産を会社所有とすることは避けるべきですが、LLCの場合は別です。課税条件上不利になることなくLLCに不動産の権利を移転したり、再びLLCからLLCの所有者に権利移転できます。
税法上の利点
 LLCは、課税方式としては二重課税(つまり個人レベルと会社レベルで二重に課税される)ではなくほとんど個人の場合と変わりません。メンバーが一人しかいないLLCの場合、Schedule C上のオペレーションからの業績を所有者の1040税申告書に報告するだけで済みます。夫と妻というような場合も含む、二人以上の所有者がいるLLCの場合は、パートナーシップ課税申告書(書式1065)を提出することになりますが、書式1065ではそれぞれのメンバーにSchedule K-1が発行されます。そして、それぞれのメンバーが各自の利益または損失を自分のForm1040申告書のSchedule K-1に記入します。メンバーが一人だけのLLCは、別に雇用者ID番号を登録する必要はなく、自分のSocial Security Numberを納税者IDとして使用します。二人以上メンバーがいるLLCのばあいは、当該LLCの雇用者ID番号を取得する必要があります。
その他の利点
 LLCの利点は、この他にもいつくかあります。銀行やその他の金融機関は、個人より有限責任(保護がある)のビジネス組織へより優先的に融資する可能性があります。LLCとしてまたはその他の有限責任実体として組織されたビジネスは、当該ビジネスを購入したり、当該ビジネスに投資したりする可能性を探る第三者に対し、よりプロフェッショナル(専門性が高い)で実質的な存在感を与え、「売却価値」または「投資価値」が高まり、また「売却」、「投資」が有利かつより容易になる可能性があります。
不利な点・経済的負担
 LLCには有利な点が多くありますが、当初の経済的負担などもあります。LLCを組織するためには、通常800ドルから1000ドル位の費用がかかります。この費用は、5年間にわたり減価償却の対象になります。LLCという形式で組織化すると、「定款(Article of Organization)」、「業務合意書 (Operating Agreement)」、「拠出合意書 (Contribution Agreement)」などを作成する必要もあります。「拠出合意書」は、メンバーがLLCに拠出する資本(資金や資産)と引き換えに当該LLCのメンバーとしての資格を得るという契約書です。すでに述べましたように、「業務合意書」はLLCの業務を規定し、メンバーは当該LLCのビジネスの運営を同「業務合意書」を遵守して行うことを保証します。二人以上のメンバーがいるLLCの場合は、すでに述べたようにLLCとしてそのビジネスに関する税務申告を別にする必要があります。アリゾナ州では、LLCに事業免許税は課されませんが、州によっては、LLCに事業免許税を課す場合もあります。カリフォルニア州やテキサス州はそれらの州でビジネス業務を行うとして登録されたLLCに事業免許税を課します。
 こうして概観すると、LLCとして法人化する利点は数多く、不利な点(主として書類作成などの煩雑性)や経済的負担を大きく上回るように思われます。LLCとして法人化すべきかまたは他の有限責任法人化を採用すべきかを決定するためには、多くの要素を考慮し、税法などに関する幅広い知識も必要です。ご自分のビジネスの組織としてLLCの形態がふさわしいとお考えの場合は、一度弁護士とご相談の上、最適な形態を選択してください。
 次回は、会社として法人化することの利点と不利な点について解説します。どうぞお楽しみに。