法的後見人について
気が付いたら2002年の1月も終わろうとしています。本当に時が経つのは速いものです。今回は、最近受けたいくつかの相談に対し、判例、法律などに照らして考えた結果である解決策について基本的な解説をしてみましょう。
最近日米両国とも、人口の高齢化が進行しています。加齢することにより現れる可能性のある病気、問題、死にまつわる問題など、両国に共通の事態が起こることも多々あるようです。日本でも、米国でも高齢化する人々の中には、不幸にしてアルツハイマー病に罹ったり、その他の原因で痴呆になったりする者も増えています。このような現象は、私たちにとって考えたくない問題であることは確かですが、同時に「完全な他人ごと」として無視することもできません。何故なら、誰でもアルツハイマー病に罹ったり、その他の原因で知的作業を行う能力が次第に衰えたりする可能性があるからです。そしてそればかりでなく、大切な両親のうちのどちらかが痴呆症になり身体的な問題も抱え、その世話で明け暮れているという人々は日本にも米国にもたくさんいることでしょう。自分の周囲を見回すと、親の世代も含め痴呆症に罹った、または精神的能力、知的能力、日常生活を独立して営む能力がなくなった人々を介護している友人、親戚などがいる人の数は相当に多いことでしょう。
法的無能力者とは
お正月に日本に帰国した時に、日刊紙各紙、また週刊誌などの広告欄を見る機会がありましたが、法的にいわゆる「無能力者」となった人々のための後見人制度についての解説や実際の後見人任命手続きの勧誘などの広告が、「遺言信託」などの広告と同様に目につきました。米国の法的制度は、特に財産の所有制度として相当日本とは異なっているので、米国独自の問題があることも確かです。アリゾナ州では、カリフォルニア州その他西部の各州と同様、そしてみなさまご存知のように、夫婦の間ではコミュニティ・プロパティ(共同財産)制度を採用しています。家族の中に痴呆症や知的能力の衰え、判断力の衰えなどを原因として問題を起こす者が出た場合には、どのような事態になるのでしょうか。そして、それに対する解決策はあるのでしょうか。判断力の衰えというのは、高齢化による痴呆、アルツハイマー病を原因とする場合ばかりではありません。麻薬中毒、治療用に医師から処方される医薬品の過剰な使用、アルコール中毒、鬱病などが原因で極端に非常識な行動をとったり、自己破壊的、他者に向けて攻撃的、破壊的な態度に出る者も多くあります。
このような病理を背負った人々は、共に暮らす家族にどのような問題をもたらすのでしょうか。もちろん、被害は身体的な危害、精神的な虐待、その他諸々ありますが、今回は金銭的な問題に焦点を当ててみましょう。私のところに寄せられる相談の中には、配偶者の金銭にまつわる破滅的行動で生活を脅かされている人々からのものが相当にあります。収入より大きな額をクレジットカードでどんどん浪費してしまう人、毎月のクレジットカードの支払いがいわゆる「最小支払い額」を支払うだけで数千ドルになってしまい生活費が捻出できなくなってしまった人、高齢になり身体的な障害を抱え他者の世話がなければ生存できないのに突然「女狂い」になり毎日甲斐甲斐しく世話をする妻以外の女性に数千ドルもする宝石を買い始め、共同名義の当座預金が急速に目減りし妻を不安に陥れる人などです。そしてそのような人々の配偶者(これまでの相談では全て女性)が、途方に暮れて「何とかできないでしょうか」「何とか止めさせられないでしょうか」と相談してきます。このようなケースは、配偶者にとって将来の生活も含め死活問題になる可能性が大です。なぜなら、夫婦の共同財産制である以上、自分が知らないところで配偶者が蓄積した借金も共同責任者として返済義務があるからです。実際に、夫の死後亡夫が残した債務の処理に悩むということもありえます。
実際、このような状況は「何とかなる」ものなのでしょうか。もちろん、まずは奇妙で迷惑な行動をしている配偶者と話し合いをして「改心」してもらう努力が必要です。しかし、多くの場合、何らかの理由でここまで極端に判断力が低下している場合、話合いで問題の解決ができるという可能性はあまり大ではないでしょう。「実力行使」が必要な場合がほとんどでしょう。実力行使の一つとしては、「奇怪な行動」を取る者を法的に「無能力者(Incapacitated Person)」と規定し、金銭的な意志決定をする法的能力を奪うことが挙げられます。具体的なステップとしては、対象者が「無能力者」であると裁判所に認定してもらうための嘆願書を裁判所に提出するところから始まります。このような嘆願書を提出できる者は配偶者とは限りません。基本的に、「対象者」の成人した子供、他の利害関係者でも構わないのです。嘆願書が提出されると、裁判所が任命した調査者が嘆願書の「対象者」が実際に痴呆などの原因で自己の身体的、日常生活上、また金銭的な利益を守る能力が欠如する状態であるか否かを同じく裁判所が任命する医師、心理学者、精神科医などと協力して調査します。またこの調査手続きが開始される前に調査の「対象者」のために裁判所が弁護士を任命します。つまり、法廷で嘆願書を提出した者と「無能力者」であるか否かの調査の対象になる者とがそれぞれ弁護士をたて法的に争うことになります。正式に裁判所がその対象者を「法的無能力者」であると認定すると、法的に定められた優先順位を考慮に入れながら、裁判所がその「当事者」の利益を最優先として後見人を任命します。後見人は、必ずしも「対象者」の配偶者、成人した子供、親戚とは限らず、第三者の個人または組織、会社などである場合もあります。一般的な法的後見人(Guardian)ばかりでなく、それと別に財産管理者(Conservator)を任命する場合もあります。
もちろん、自分の財産を自由に処分したり費消したりする権利という、人間としての基本的権利を奪うという極端な実力行使ですから、裁判所は慎重に審理します。しかし、一端後見人が決定されると、裁判所が定めた意志決定権限の範囲に応じて、最も広範な例では、「無能力者」と規定された者が生活する場所(施設、病院など)、日常生活のスタイル、財産の管理、日常の金銭の出し入れの方法など、後見人は自由に決定することができます。第三者である医師、精神科医、心理学者、看護婦などが診断し、「無能力者」と定義するためには、相当程度に「自己の利益を守る能力、自己を身体的、財政上の被害・損害から守る能力」が欠如していると判定される必要があります。「法的無能力者」の裁判所による認定というのは極端な手段ですが、本当に配偶者が将来の老後の生活用貯蓄、資産の全てを費消してしまう恐れがある場合などでは、真剣にこの裁判所による手続きを行うことを検討すべきでしょう。配偶者にとっては、共同財産のうち自分の持ち分まで危険にさらされることになるわけですから、正当防衛であると言えます。緊急を要する場合には、相手側当事者、関係者などへの通知という法的に必要な手順を省いて即時裁判所の判断を仰ぎ、「対象者」の権利を擁護する弁護士を裁判所が任命する前に「無能力者」として行動の自由を奪う手順を踏むことも可能です。この場合には、後見人は「臨時後見人」として機関を限定して(一年以下)任命され、後に裁判所が適正と判断すれば、長期的な後見人として再任される場合もあります。
「対象者」が非常識な判断で行動するが、医師、心理学者、精神科医、看護婦などが診断する際には「普通の人」になるという優れた能力の持ち主である場合には、別の手段を採用する必要があるかもしれません。どうしても話合いに応じず、行動様式を変えようとしない「対象者」に対しては、「離婚訴訟」を起こすことにより、最小限共同財産のうち自分の持ち分(通常、結婚前からの個人の別財産がない限り、共同財産の50%)だけは救うことができます。離婚訴訟を起こすと同時に「正式な別居」となりますので、そのように「正式な別居を実施、離婚の手続き中であり、今後は配偶者が独断で借りる債務については責任を有さない」という宣言をそれまでの夫婦共通の債権者に対して行います。この正式な宣言が重要です。この宣言をすることにより、その時点までの共有の債務は反故にできませんが、それ以降に配偶者がする借金の返済義務を引き続き「共有」しないで済みます。注意しなければならないのは、「偽装離婚」「偽装別居」の場合には、上記の別居、離婚による法的効果が無効となるということです。離婚訴訟を起こし、別居し、しばらくしてまた同居したりすると、「正式別居の法的効果なし」とみなされます。もちろん、その場合には「私には返済義務はありません」と言っても相手が一時別居後に作った借金の返済義務を逃れることはできません。
新年早々、あまり明るい話題ではありませんでしたが、明るい将来、不安のない生活を築いて行くためには、自分の足下を一歩一歩固めて行くことが大切です。優しさの中にも、厳しさを持ち受け身で生活を破壊されないよう、しっかりと目を開いて生活することをお忘れなく。今年は、異常に寒い日が続いたりしています。みなさま、お風邪など召しませんように、お元気でお過ごしください。