雇用平等

2009年の幕開けと共に1月20日オバマ新政権が誕生しました。上院・下院ともに議会も民主党が多数を占め、オバマ大統領も就任するやいなや矢継ぎ早に大統領令を出し、ブッシュ政権時の政策を覆す作業をしています。

このような状況の中で、法律的にも多数の変化が起こりつつあり、記事を書くトピックには困りません。今回は、上院を通過し(賛成61票、反対36票)、下院でもほとんど同じ法案がすでに一度承認されているところから再度通過するであろうと予測されている「同等の労働に対する平等な給与」を保証する法律(「Lilly Ledbetter Fair Pay Act」)についてお話しましょう。両院を通過すると、数日中にオバマ大統領が署名し、法律として成立する可能性はほぼ100%でしょう。ちなみに、昨年も類似の法律が議会に提出されましたが、ブッシュ前大統領が「拒否権」発動をちらつかせる中、上院で廃案の憂き目に遭いました。

この法律が提案された背景としては、2007年の最高裁判所の判決があります。この判例(Ledbetter v. Goodyear Tire & Rubber Co., 550 U.S. 618 (2007))は、最高裁裁判官たちが5対4の割合で出した判決でした。Goodyear社に19年間にわたって勤務したLedbetterさんは自分と同等の仕事をしている男性社員と比較して女性である自分の給与が相当に低かったこと(最高額を支払われ手いた男性と比較して40%、最低額を支払われていた男性と比較して15%少ない額)を知らずにリタイアしようとしていましたが、無記名のメモ情報として「給与差別があった」という事実を知るに至りました。間もなくLedbetterさんは、「雇用平等委員会」にGoodyear社について差別の事実を報告し、「1964年公民権法タイトル7」と「1963年Equal Pay Act」に基づいて1998年に訴訟を起こしました。この裁判でアラバマ州の地裁は、会社側はLedbetterさんに380万ドル支払えという判決を出しました。会社側が控訴し、高等裁判所はこの額を36万ドルに下げる判決を出しました。この事件は、最初の訴訟から約10年経過し遂に最高裁の判断を仰ぐことになりましたが、最高裁は「訴訟は差別が始まってから180日以内に起こさなければ無効」という判断を示し、Ledbetterさんは敗訴しました。この敗訴にもかかわらず、彼女はその後も、それなら法律を変えなければと各地で講演し、給与の差別は年金や401kその他のベネフィットなど長期にわたりその影響が生涯続くことになるので許してはならないと説いて回り、法改正にも大きな力となりました。

今回の法律成立で、2007年の最高裁判決は覆されることになります。雇用差別禁止、特に給与支払いの差別については訴訟を起こす根拠となった「1964年公民権法」で「180日以内」という時効が定められており、2007年の最高裁の判決は、それを文字通り、しかも差別が生じた日から180日以内という法解釈をしたものでした。Ledbetterさんは、差別を知らずに過ごした19年間の後、差別を知ってからすぐに訴訟を起こしたものの、「時間切れ」と門前払いを食ったことになります。Ledbetterさんも、最高裁で少数派意見を表明した最高裁判事ギンズバーグ氏も会社内では通常社員の給与額については公表されておらず、極秘情報として取り扱われるため、自分が差別されていてもその事実を証明する情報を得ることはほとんど不可能であるところから、差別が開始されてから180日という時効の設定は非合理であると主張しました。今回の法律の成立で、この「180日以内」の意味が「給与支払いの小切手が発行される度にその日から180日以内。。。つまり給与支払いを受けている間は常に時効が180日づつ延長される効果を与えたことになります。

このような法改正の意味は大きく、反対派は「会社側が、訴訟を起こされる危険が大きくなり悪法だ」と主張していましたが、性別(米国の女性は、同等の仕事をする男性と比較して平均して約78%の給与しか支払われていない)、人種別、その他の理由による給与差別を受けている人々に会社側と交渉したり、訴訟で争う際に大きな力となることは確かでしょう。今後雇用差別の領域で大きな影響力を与える法律となることでしょう。今後は労働者寄りの政策を打ち出しているオバマ政権の下で、労働組合の組織化をより容易にする法律の成立も予想されています。