今日のトピックは、家庭内暴力や離婚に関してのお話です。ここのところこのような問題に関する相談ごとが増えています。あまり明るい話題ではありませんから、「法律相談コーナー」のトピックとして選ぶことには多少の躊躇も感じますが、私のところへ州外からも(日本の母親を介しての紹介)相談がくるということは、潜在的にこのような問題でお困りの方の数は多いのではないでしょうか。そこで、いくつかの相談を受けた件に共通な問題点や注意を要する点について書いてみようと思います。
 以前にも「法律相談コーナー」で少し触れたこともありましたが、米国人と結婚して米国に居住しながら、家庭内で暴力の被害を受けている日本の女性の件でいくつかの相談を受けました。このような組み合わせばかりが家庭内暴力の被害者を生み出しやすいということではないと思いますが、私のところに相談が来た例は全てこのような結婚の例でした。
 私のところに相談が来る例というのは、被害者がそのような状況を変えようという勇気と意識があるということ、そして行動を起こさなければという意識の表れですから「比較的まし」な例であるといえるかもしれません。一番恐ろしいのは、被害者が第三者に訴えたり、行動することができないほど心理的に怯えている場合でしょう。被害を受けても密室の中のことですから、誰の目にも耳にも触れずに、救いを求めることもなく耐えつづけるという危険の中に生き続けることになります。
被害を届けた場合は
 それでは、勇気を出して被害を他者に知らせるという行動をとると結果はどうなるでしょうか。アリゾナ州には、家庭内の暴力を刑法上の罪とする法律が存在しています。例えば妻が夫から暴力を受けて警察に通報すれば、警官がやってきて、家庭内暴力の疑いが強いと判断すれば、夫を逮捕して警察署に連行することになります。このような家庭内暴力の事件を最初に取り扱うのは、市、郡などの警察署および裁判所です。夫が加害者(勿論妻が加害者の場合もありえます)の場合、その嫌疑があるということで市の検察当局が加害者としての嫌疑をかけられた夫を起訴することになります。その際に、アリゾナ州では逮捕されて拘留された後、夫(または妻)が帰宅すれば再び妻(または夫)に暴力をふるうという恐れがある場合には、妻からの申請がなくても市の裁判所が独自に「Protection Order(保護命令)」を出し、加害者がら被害者を守る措置をとります。この「保護命令」が出されると、多くの場合加害者は被害者の居住する場所に近づくことを禁じられます。夫婦で住んでいた家であっても加害者の夫(または妻)は、帰宅できなくなるわけです。家庭内暴力の多くの被害者がこのような「保護命令」を申請するだけの勇気がない場合や、復讐を恐れて申請できない場合を考えて、裁判所による独自の「保護命令」を許すこのような法律が制定されたのでしょう。
別居の生活資金
 このような別居の事態で、次に問題になるのが生活のための費用です。家庭内暴力の問題で裁判所命令の結果別居することになった場合でも、夫が妻に対して離婚訴訟を起こして一方的に別居した場合でも、共通の問題が起こり得る点です。どちらの場合にも妻が専業主婦であったり、高齢者であったりして全く収入がないこともあるでしょう。その場合、どうすればよいのでしょう。一時的にDepartment of Economic Securityに申請することにより一定の資格が満たされれば(特に幼い子供がいる場合には優先的な待遇を受けることができます)Food Stampやキャッシュの提供を受けることができます。また、裁判所に配偶者に対して「生活費用の支払い」を命ずる仮命令を出してくれるように申請することもできます。
 相談を受けたいくつかのケースに共通していたのは、夫と別居した時点でその日から生活に困るという状況でした。「労働許可証、永住許可」、「運転免許証」がない、「英語が話せない」、「幼い子供を抱えている」、「米国で働いた経験が皆無」、「高齢」などが原因で働いて収入を得ることができないのです。夫と妻との間で性別役割分担をして長年暮らしてきた生活形態が、夫との別居という形になった途端に「専業主婦」であった女性たちを即、「生活できない」状態にしてしまいます。
もちろん、このような状況は日本で暮らしていても起こり得ることです。しかし、外国である米国でこのような状況に陥った場合には、日本人の女性はより大きな困難に直面することになります。例え永住許可を取得済みであったり、米国籍を取得済みであって夫まかせも、それだけで状況は好転しません。
夫まかせの落し穴
 いくつかの相談を受けた結果考えたことの中には、「日本では主婦である女性が経済的決定権を握っていること(いわゆる「財布の紐を握っている」こと)が多いのに、米国で米国人の夫と暮らしている日本人女性たちの中にはなぜ全面的に経済的決定権を夫にまかせきりにしてしまう人たちがいるのだろうか?」という疑問でした。夫と別居という状況に陥って、第三者に相談する時点で、多くの女性が夫婦の共有財産に関して把握しておらず、独自に「自分の銀行口座」を持たず、無収入で、「明日から生活に困窮する」という状況になったのです。これまで生活費用を得ていた「ジョイント(共同名義)口座」は、夫が家を出ていったときに空にされてしまったり、「ジョイント口座」そのものを持っていなかった女性もあります。毎週夫が渡してくれる現金で生活している場合もあります。
万が一に備えて
「いつ自分が家庭内暴力の犠牲者になったり、一方的に夫から離婚を申し立てられ別居されるか分からないので準備をしておこう」、というような考えで毎日生きることは悲しいことですし、そのような意識で生きることには反対ですが、何が起こっても当座さしあたって1、2ヶ月生活できる位の預金やキャッシュを自分の(夫との共同名義でなく)銀行口座に入れておく位の準備をしても良いのではないでしょうか。「信頼して全部夫にまかせていましたので、どことどこに銀行口座があるか、いくら資金が入っているか、株や債権などもっているか、全く分かりません」というような発言を何回もききました。「信頼して」いた相手が「信頼に値しない」態度をとった時には、途方に暮れることになります。そのような事態にならないにこしたことはありませんが、「万が一」そのような事態になったら、それでも最低生活が数ヶ月できる位の準備をしておいて方がよいのではないでしょうか。配偶者が急死することも可能だと考えて、ある程度の準備をしておくようなものでしょう。夫婦の共有財産について、例えば家、自動車、その他の不動産や動産)についても、何がどれ位の価値であり、借入金の担保としてどれ位の金額が付いているのか、生命保険、年金など自分が関わるものがあるのか、給付の対象になっている場合はどれ位の金額なのか、というようなことをある程度把握しておく必要があるでしょう。別居状態から、離婚に至る場合には、財産分割の際にこれらのことを知っている必要があります。相手と利害関係が生じることになるのですから、相手しかこれらの情報を知らないということは大変不利です。知識だけでなく、コントロールができない状態ですと(つまり管理が相手まかせ)、相手が離婚を考えた途端に知らない間に共有財産を相手に都合の良いように処理してしまい、財産分割のときには適当に隠されたり、既に買い物をしていたり、第三者の口座に移転されてしまったり、というようなことが起こります。つまり、公平な財産分割ができなくなるわけです。
共有財産制
 アリゾナ州の「Community Property(夫婦の共有財産制)」法についても理解しておくべきでしょう。不幸にして別居から離婚に至る結果を迎えた場合には、原則的に夫婦の間で結婚して期間中に蓄積した富金、株式・債権その他の全ての資産)は夫と妻の共有財産ですから、例え妻が結婚期間中仕事について収入を得たことがない場合でも、公平に 相当分づつの分配となります。退職金、年金なども夫婦の共有財産とみなされて例え夫のみが年金の支払いに寄与した場合でも、受け取る資格は 相当づつになる場合が一般的です。しばしば、別れようをする夫は「収入がなく全く寄与していないおまえには財産分割を要求する権利はない」と妻には全くなんらの権利もないように印象づけようとします。妻の方で、夫のことばを鵜呑みにして信じていた例も多くあります。
自分の権利と義務を知る
 米国、そしてアリゾナ州に暮らしている以上、その法律に規制され、その法律に守られて生活しているわけです。結婚している期間中も、離婚という事態を迎えた場合でも、その法律に則ってそれぞれの権利が規定されることになるのですから、普段から少しづつ自分の権利と義務を知るようにしましょう。そして、「備えあれば憂い無し」のことわざとおり、万が一の不幸な事態にも「自力では生活できない」という事態にならないようにしましょう。不幸なことに、「病めるときも苦しい時も、死が二人を分かつ時まで永遠に」と誓った結婚も、家庭内暴力の問題に直面したり離婚という事態を迎えないという保証はどこにもありません。普通はリタイアメント(退職)している年齢( 才以上)になって、収入の道がないのに、突然夫が離婚を申し立ててくる、そしてできるだけ財産分割の妻の取り分を少くしようと操作しようとする、などという事態がないという保証もありません。結婚していても、何かが起こったときは、また自分一人(または幼い子供を育てながら)、夫に頼らず個人として生きて行かなければならない事態も起こり得るわけです。
 そして別居、離婚というような事態が起こったら、できるだけ早い段階で、相手が共有財産を勝手に処理したり、自分に有利なように操作したりする時間的余裕を与えないように、弁護士、裁判所などの力を借りて、そのような一方的な行動を止めさせるための「仮命令」や「差し止め命令」を出してもらうようにしましょう。
相互扶助組織の必要性
 これまでのいくつかの相談をとおして考えたことですが、「アリゾナ州に住む日本人女性の会(Japanese Womenユs Association of Arizona)」のような組織を作って相互に情報交換や助け合いをしてはどうでしょうか。問題に直面したときには、互いに資金や、子供の世話、情報の交換、通訳、翻訳、心の支えが必要になります。基金を募れば、本当に大変な状況にある人に対して緊急の支援ができるようになるでしょう。私もできるだけのことをしてきましたが、個人のレベルの支援の限界を超えていると思うこともしばしばでした。緊急の際には、基金から「借り入れ」して、後に状況が好転してから返済し、次ぎに必要になった人が「借り入れ」ができるようにすることができます。
 このような会に参加なさりたい方、また在アリゾナ日本人の相互扶助を支援したいというお考えをお持ちの企業の皆様、どうぞお申し出ください。