3月23日付け日本の国籍法関連東京地方裁判所の判決


3月23日付け産経新聞の記事によると、日本人父を持つフィリピン国籍の男女27日が日本国籍の確認を求めた訴訟の判決が同日出て、(現在の国籍法で定める国籍留保の届出制度は)「法の理念として合理的」であり規定は合憲という判断が示されました。原告側は判決を不服として控訴する方針と述べています。

今回の判決は、日本国籍法12条と戸籍法第104条などによる、国外で生まれ当地の国籍を取得した場合、出生後3ヶ月以内に日本国籍を留保するという届出を日本国大使館・領事館など在外公館かまたは日本の市町村役場を介して行わなければならないといういわゆる留保条項に関するものでした。原告たちの日本人父とフィリピン人母たちは、この留保条項を知らず、子供たちの出生時に届けをしなかったために、この規定により、日本国籍を失った(得られなかった)というものです。出生した時点では、日本人の父から生まれた子供であり、留保届けをすれば日本国籍を留保できたということですから、出生の瞬間から留保届けをしなかったために日本国籍を失った(得られなかった)時点である3ヶ月後までは日本国籍であった(少なくとも潜在的に)ことになります。しかし、上記の規定では、留保しなかった場合には「出生時に遡って日本国籍を喪失する」となっています。幻の日本国籍とも言えます。

今回の場合は、これらの子供たちの父母は結婚しており、子供たちは嫡出子です。これらの家族が日本に暮らしていれば出生した時点で父などが市役所、区役所などに届出をして戸籍に子の出生を届け出れば、当然日本の国籍が得られていた子供たちです。
原告たちは、「出生地による差別は日本国憲法第14条の「法の下の平等」の原則に反し憲法違反である」と主張しました。東京地裁の判決は、これに対し国内外での出生を比較し「日本との地縁的結合に差異があるのは明らか」と主張し、憲法違反ではないと判断しました。

日本の国籍法は、一方で第17条により上記の場合に出生後に日本国籍を留保しなかった場合も、その後子供が未成年である間に日本での居住実体が認められれば国籍を再取得できると規定しています。

3月2日付けJFCネットワークニュースによると、2011年12月31日現在、同組織が受理したケースを見ると、父が日本人で母がフィリピン人という場合は婚内子(嫡出子)は472人であり、その内341人(72.25%)がフィリピン生まれ、その内111人(32.55%)が日本国籍を留保し、230人(67.45%)が日本国籍を喪失していたということです。現在までに日本国籍(再)取得できたケースは、僅か31件(13.48%)に過ぎないということです。
日本国籍が無いということは、日本人の父の戸籍に記載されていないということになるわけで、将来的には日本における生活も難しくなる(滞在許可を日本国政府からもらい外国人として日本に入国しなければならない)、また父が亡くなれば日本での相続の問題なども起こります。日本の相続は戸籍を確認して相続人が誰か確定することから開始されますので、戸籍に掲載がないということは、相続の際に「存在しない者」として無視され相続が終了してしまうという事態が予測されます。

一旦3ヶ月以内に留保届けを出さなかった子供が未成年のうちに日本に「居住して」日本の国籍を再取得するということも、条文に書かれているほど簡単ではないようです。上記のように、日本に入ること自体が難問かもしれないし、日本に来ても今回の場合のようにフィリピンに生活の実態があれば、「円高」の日本にやってきて「居住している」ことを証明し、日本のお役所仕事である国籍再取得(経験者によると、個々の窓口の役人の裁量により国籍取得が可能であったり、時には理由を示されずに却下されたりする)に至るまでの間待っていることができる人(数ヶ月かかるということです)がどれくらいいるか疑問です。当人は未成年であるわけですから、日本人父が付き添って来日しなければならないわけで、フィリピンに生活の実態がある場合、数ヶ月来日するということも簡単には実行できないでしょう。今回の27人の子供たちの年齢は、4歳から25歳ということですから、すでに20歳以上の原告にとっては、日本国籍再取得の道は閉ざされていることになります。

今回の地裁の判決は、原告側が控訴するとすでに発表しているので、今後の高裁、さらに最高裁の判断を待つべきではありますが、過去に関連の最高裁の判決が2008年に出ています。2008年の最高裁の判決は、日本人父と外国人母の婚外子に関するものでした。この裁判では、日本国籍法の第2条1項の規定である婚外子の場合、日本人父が子の出生前に認知していれば子は出生時に日本国籍が取得でき、出生前に認知していない場合でも、父母が子の出生後に結婚し子を認知すれば日本国籍が取得できるとしてる規定について(国籍法第3条1項)、父母が子の出生の後に結婚しない場合でも(婚外子として留まる)、父が認知すれば日本の国籍を付与されるべきであるという原告の主張についての判断でした。原告は、子の日本国籍取得の可能性が父母が結婚しているか否かによって差別される合理性はない、基本的人権の問題であり、憲法の国民の平等の原則に反すると主張しました。最高裁判所は、家族の実態も時代と共に変化しつつあり、父母が結婚しているか否かにより、子が日本国籍を取得できるか否かを決定する合理的理由はないとして、国籍法の第3条の規定を憲法第14条違反であり違法と判断しました。

今回の裁判では、原告側は2008年の最高裁判所の判決にも触れ、2008年の国籍法改正で未婚の日本人父と外国人母との子は父親の認知があれば20歳まで「出生から3ヶ月以内の留保の届出」の規定に関わらず国籍取得が可能になったにも関わらず、婚内子の場合にはこの留保条項に縛られることは、不均衡な法の適用であると主張しました。

2008年の最高裁判所判決についても、今回の東京地裁の判決についても、基本的には日本の国籍法は大前提ではいわゆる「血統主義」(子の出生時に父または母のいずれかが日本国籍である場合には、子は日本国籍)という原則を適用しながら、付随的な条項では「生地主義」(米国のように子が米国内で出生した場合には自動的に米国籍を付与する)または「地縁主義・居住地主義」(子が生育する場所、家族が居住する場所を原則とする)が複雑に入り混じっており血統主義が時として無視される場合があるという矛盾または問題点が生み出したケースであるといえるでしょう。例えば、血縁主義の原則を貫くのであれば、2008年の最高裁判所の判決でも解決できないケースがあることが浮き彫りにされます。父が日本人である場合、「認知」という壁が子供と日本国籍取得の間に立ち塞がっているのです。父母の結婚の有無についての差別はこの判決で解消されたかもしれません。しかし、父が日本人であっても、父が「認知」する意図が全くなく、子と母を遺棄した場合はどうでしょうか。子は日本人の父から生まれたわけですが、父が否定するまたは積極的に自分の子供であることを認めない、認めたくない都合である場合などでは、子の権利(日本国籍を取得する資格がある)は否定されることになります。母が日本人である場合と比較すると大きな差があります。母が日本人である場合には、母が誰と結婚していようが、また結婚していない場合の婚外子でも原則的には日本の国籍は取得できます。国籍の取得というような基本的人権に属するような領域で、これだけ大きな差別が存在してよいという合理的理由は見当たりません。

特に、米国の場合、DNA鑑定などで父子関係が科学的に証明されれば父の「意図」に関係なく子の扶養義務が生じ裁判所は「養育料」をその子の存在を認めたくないまた自分の子であることをできれば否定したい父にも支払うよう命令します。以前に、いわゆる「一夜限りの関係」の結果生まれた子供に対し、十数年後にその子の存在すら知らなかった父に裁判所が養育料の支払いを命じたというケースに遭遇したことがありました。ある意味では「合理的な判断だな」と感心したことが思い出されます。父であるご当人またその現在の家族にとっては「寝耳に水」の話であったのですが、子の立場から言えば、両親に養われる権利があるということを裁判所が正式に認めたことになります。

このような論点かみると、日本の国籍法は子を遺棄したいと思っている、できれば自分の子として認めたくない日本人父には都合のよい法律ではあります。遺棄された子の立場から見れば、日本国籍を取得できる権利を奪われ、父から「養育料」を支払ってもらえるべき権利も無視され、踏んだり蹴ったりの扱いを受けるということになるわけです。将来このようなケースの子本人が日本の裁判所に「日本国籍確認」裁判を起こした場合はどうなるでしょうか。日本国裁判所が、国籍法の規定に則り、子を遺棄した日本人父の味方になり(味方をしているように外国から見れば思えあるでしょう)門前払いをしたら、大きな不協和音になるのではないでしょうか。DNA分析で父子関係が証明された場合でも、父が認知しないという理由で門前払いをして国際世論が納得するでしょうか。その子またはそれらの子たち(フィリピンなど東南アジアの国々にはそうした父が日本人の「遺棄された子」が多数存在するようです)が集団的に国連の人権委員会などに対して「日本はこれらの子の基本的人権を奪っている」と訴え出たらどういう結論になるだろうか、などと、私の想像力は掻き立てられます。21世紀になった今、そしてDNA鑑定が誤った刑事事件判決で真犯人ではないのに刑務所に収監されていた人たちの無罪の証明に使われたり、最近では東日本大震災・津波の被害者の身元確認に使用されている時代となったにも関わらず、生きている親子関係の証明は「父の(一方的な)認知」によるのみという法律の合理性が社会的に通用するでしょうか。そう遠くない将来に、日本の裁判所はこのような判断を迫られるのではないでしょうか。DNA鑑定では簡単に父子関係が証明できるのに、父の都合で一方的に子の国籍取得の権利が侵害される、養育料の支払いを受ける権利を剥奪されるということが日本国憲法14条の「法の下の平等」の原則に反しないと堂々と反論できるでしょうか。

朝日新聞2008年6月5日付けの記事によると、「駆け込み寺」であるJFCという組織の情報では2007までに扱ったケースを見ると日本人父とフィリピン人母との間に出生した子のケースは848件あり、そのうち養育費や認知などについて解決できたのは僅かに約18%に過ぎないということです。

今回の地裁のケースも、最高裁判所の判断を仰ぐところまで行く可能性はあります。今後の展開を見守りたいと思います。

憲法第14条1項(法の下の平等):すべて国民は、法の下で平等であって、人種、信条、性別、社会身分または門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

国籍法第ニ条 (出生におる国籍の取得)子は、次の場合に日本国民とする。
1. 出生の時に父または母が日本国民のとき。
2. 出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であったとき。
3. 日本で生まれた場合において、父母がともに知らないとき、または国籍を有しないとき。

国籍法第三条 (認知された子の国籍の取得)(改正後)
父または母が認知した子で20歳未満のもの(日本国民であった者を除く)は、認知をした父または母が子の出生の時日本国民であった場合において、その父または母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であったときは、法務大臣に届け出ることによって、日本の国籍を取得することができる。

国籍法第十二条  出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものは、戸籍法 (昭和二十二年法律第二百二十四号)の定めるところにより日本の国籍を留保する意思を表示しなければ、その出生の時にさかのぼつて日本の国籍を失う。

国籍法第十七条  第十二条の規定により日本の国籍を失つた者で二十歳未満のものは、日本に住所を有するときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。