テナントの権利

今回は、現在全米で問題になっているForeclosure(差し押さえ・抵当権実施)とアパートや家を賃貸している人々(「テナント」)の権利の問題についてお話しましょう。読者の中には、賃貸している家やアパートの持ち主がローンの支払を怠ったために自分は毎月家賃を支払っているのに、突然銀行から家やアパートの明け渡しの通知を受けたり、全く通知無しに突然Foreclosureの実施を行うシェリフなどが家にやってきたり、鍵を取りかえる職人が勝手に鍵を変えてしまったりというような困った経験をした方もあるかもしれません。全国的にForeclosureの率が高いアリゾナばかりでなく、全米で同じようなことが多くのテナントに起こっています。

ホームレスおよび貧困に関する全米法律センター(National Law Center on Homelessness & Poverty)というNGO(非営利団体)が出版した「Without Just Cause(正当な理由なく)」という全米におけるForeclosureにおけるテナントの権利の現状について解説した調査書を参考に全米、そして特にアリゾナで何が起こっているか見てみましょう。(2009年2月25日に出版)

「Dollars & Sense」の2009年3月/4月号に掲載された「Real World Economics (本当の世界経済)」という記事によると、2008年中200万件以上の物件がForeclosureになったということです。その数は、ここ数年で1000万件までに増大すると予想もしています。またForeclosureに直面している家族の40%がテナントであるということです。テナントが強制退去となった建物・家屋の多くが、必ずしもすぐ売却できるような市場の条件ではなく、多くの物件が空き家となり、全ての台所、風呂場備品や銅のパイプなどを盗人に引き剥がされ廃墟同然となるなどというのはよくある話であり、つい1年前までは活気あるコミュニティーであったところが、廃墟の町、犯罪の巣になってしまったという話もよく聞きます。反面ではテナントをホームレスにし、住んでいた建物を廃墟化し、コミュニティーを破壊し、空き家を増やすForeclosureによるテナントの強制退去。。。これは地方自治体にとっても、住民にとっても、コミュニティにとってもまた経済的視点からもまったくプラスにならない、困った現象です。

皆様ご存知のように、現在のForeclosure危機はいわゆるサブプライム住宅ローン問題から始まり、全国的にサブプライムでないローンの借主たちにまで広がり、経済危機、失業の波、更なるForeclosereへと悪循環を続けています。アリゾナは住宅価格の高騰のバブルがカリフォルニア、ネバダ、フロリダなどと並んで最も大きく膨らんだ州でしたから、バブルがはじけた後の状況も最悪の3、4州に名前を連ねています。当然のこと、Foreclosureの数も多く、新しく開発した町に偶然足を踏み込んだら、軒並み連ねて新築で誰も住んだことも購入したこともないような家がForeclosureになっている様子をみることができます。近所に住む人々にとっては、周囲がゴーストタウン化し、住宅価格がさらに低下し、犯罪の温床にもなるということで不安な町になります。

Foreclosureには大きく分けて2種類あります。より正式な裁判所を介して行う手続きは時間もかかり、煩雑な手順・費用が必要とされます。裁判所を介さないで行うForeclosureはより簡単で短時間にできます。全米の各州を比較すると、36州において両方の手続きが許可されており、14の州およびワシントンDCにおいては裁判所を介してのForeclosureしか許可されていません。両方の手続きが許可されている州では、ローンの貸し手である銀行、住宅ローンの会社などは、ローン契約書に契約違反(返済不履行など)があった場合には簡略手続きでForeclosureを実施し対象物件を売却できるという文言を入れることにより、比較的簡単にForeclosure し物件を売却できます。アリゾナ州はこうした裁判所を介さない手続きが許可されている州の一つです。これらの州では、裁判所を介する手続きと介さない簡略手続きが両方許可されていても、銀行や住宅ローン会社にとって都合の良い簡略的かつ裁判所を介さない手続きが圧倒的になります。

賃貸契約の終了
大多数の州において、Foreclosureの手続きが開始されると、自動的に当該物件に関する賃貸契約も終了するという仕組みになっていますので、Foreclosureが起これば、テナントは最終的に追い出されることになります。この場合も、テナントに対するForeclosureの事実に関する通知が問題になります。ある日突然「Eviction(強制退去)」となるというような状況を避けるためには、自分が賃貸している物件について所有者がローンの支払いをせず債務返済不履行となっており、Foreclosure手続きが開始されているという通知が来れば、新しい住宅を探すなどの準備ができます。しかし、このような通知を銀行やローン会社に義務付けている州は全米で17州と少数派です。ということは、大多数の州で、テナントは突然賃貸している住宅から投げ出される可能性があるということです。家賃を毎月支払っていても、遅延していても結果的には同じ運命に遭遇することになります。時には、新しい住宅を手配する時間もなく、また保証金(デポジット)を返してもらえず、新しい家主に払う保証金がなく極端な例ではホームレスになることもあります。

極めて稀な例ですが、ニュージャージー州とワシントンDCにおいては、Foreclosureとなっても当該物件に関して賃貸契約をしているテナントは強制退去の対象にならず、契約はそのまま継続すると法律で定めています。またメリーランド州、ミシガン州、ネバダ州、ロードアイランド州などでは、テナントに対する通知を銀行や住宅ローン会社、ブローカーなどForeclosureを実施する者たちに義務づける法案を提出していますが、まだ法律として成立していません。

Fannie Mae、Freddie Macによる方針の転換
Fannie MaeとFreddie Macは半官半民の住宅ローン会社で多くの返済不履行となったローンを買収して抱えこみ破産寸前になり、政府から援助金を得ました(Bail Out)が、これらの会社もForeclosureを通じて多くのテナントを強制退去していました。Fannie Maeによると、現在同社は67,500件余りのForeclosureとなった物件を抱えています。テナントによる強制退去を中止させようとする訴訟などが起こり、社会的にも批判されたことから、そしてまた両社自体が政府の管轄下におかれるようになったことからくる政策上の指令により、Foreclosureに伴う自動的強制退去を中止しました。Fannie Maeは、1月13日に同社が実施するForeclosureに関わるテナントについては、引き続き賃貸を続けるかまたは新たに住宅を探すまでの費用の一部を支払うという政策を採用し、Freddie Macも1月30日に同様に同社が関わるForeclosureに関し、テナントと月ごとの賃貸契約を結びそれまで通りかまたは該当する市場賃貸料のどちらか低い方を支払うことにより、引き続き当該住宅にとどまることができるようにすると発表しました。このような政策の変更により、現在Fannie Maeが抱えるForeclosure物件のうち7,000から10,000件においてテナントが引き続き賃貸しているということです。

アリゾナ州における状況
最近アリゾナ州下院に提出された法案HB 2733は、Foreclosureに際するテナントへの通知を義務付ける規定を含んでいました。この規定によると当該物件の所有者はForeclosureの可能性について30日前までにテナントに通知する義務を負い、裁判所もForeclosureの手続きが開始されて訴状が裁判所に提出されてから30日以内にテナントに通知する義務を負うことになるはずでした。しかし、この法案は議会で未成立に終わりましたので、テナントの通知を受ける権利は強化されないままです。同じく議会に提出されペンディングになっているアリゾナ州法案HB 2269は、毎月契約を履行して家賃を支払い続けているにも関わらずForeclosureにより強制退去の対象となってしまったテナントを保護するための法律を成立させようとするものでした。現状では、アリゾナ州のテナントはForeclosureに際してなんらの保護も受けていないままです。

このForeclosure問題は、空き家率が全米でも高い州の一つであるアリゾナ州では深刻な問題であり、テナントの保護についても迅速に対策を行う必要があります。テナントへの通知がないままにForeclosureの手続きが実施されてしまうという現状から、極端な例としてはフェニックス市内でForeclosure手続きの一環として鍵を付け替えにきた鍵屋を通知を受けていなかったテナントが強盗と間違えて銃で撃ってしまったケースもあります。新たに法律を成立させてテナントの権利を擁護することが必要でしょう。