モンサント保護法


今回は、3月26日、連邦政府の機能停止を回避することを目的として民主党と共和党両党に支持された9月30日までの政府歳出を決める緊急(仮)予算(HR933:The Agricultural Appropriations provisions)にオバマ大統領が署名した際に「便乗(Rider)」条文(Farmer Assurance Provision)として人目を引くことなく挿入されていた通称「モンサント保護法」(第735条)なるものについてお話します。この条文は、例え連邦裁判所が「GM(遺伝子組み換え)作物について安全性の懸念からさらに研究が行われるまで植えつけや販売を中止するように」という命令を出した場合でも、そのような命令に従う必要なしとするもので、GM作物の種の相当部分を生産しているモンサントおよびその他の企業に裁判所を上回る力を付与する内容になっています。

この便乗条文を最初は無記名で挿入し後にその事実を認めたミズーリ州選出の共和党上院議員で、上院バイオテクノロジー委員長であるロイ・ブラント(Roy Blunt)は、「モンサント保護法」の法案を作成するに当たり世界最大の作物種生産会社であるモンサント社の社員の助けを借りたことを認めています。同議員がモンサント社から多額の政治資金の寄付を受けていることは周知の事実です。緊急予算そのものが6か月を期限として成立したため、便乗したこの「モンサント保護法」も期限は一応6か月となっていますが、その後延長される可能性もあります。

この「モンサント保護法」が有効である限り、現在進行中のGM作物(主に大豆、トウモロコシ、その他)の安全性についての研究の結果「人体や環境に危険性あり」という結論が出て、裁判所が生産中止を命令しても、農務省はそれらを栽培している農場、農民、農場の管理者、生産者の要請があれば、それらに対して裁判所命令にもかかわらず、耕作や種の生産・販売を一時許可することができるいうことになり、結果としてモンサント社その他のGM作物の種を生産する会社にとって大きなリスクを回避することができます。

全米環境政策法(The National Environmental Policy Act:1969年)の下で、個人は政府が重大な影響を及ぼすことになる意思決定を行おうとしていると信じる場合に裁判所の判断を仰ぐべく訴訟を起こすことができます。しかし、今回の「モンサント保護法」条文の下では農務省は裁判所命令を無視する権限を付与されることになります。消費者の健康や環境に害があるという証拠が見つかっても、さらに連邦裁判所が「生産・販売中止」という命令を出しても、GM作物の植えつけ・栽培、種の販売は中止しなくてよいというのがこの条文の趣旨ですから、この環境政策法による個人が訴訟を起こす権利を無効にする効果があります。「超法規的」というか「企業至上主義」ともいえる非常に奇異な条文であるといえるでしょう。連邦最高裁判所が出した「会社は人格を持ち、言論の自由を享受する権利(上限なく政治献金をする権利)がある」としたCitizens Unitedの判例(Citizens United v. Federal Election Commission, 558 U.S. 310 (2010))に続く、驚くべき法律といってもよいでしょう。多くの議員がこの便乗条文がHR933に挿入されていたということを知らずに賛成票を投じたという報道を見て驚きは更に大きくなります。

「モンサント保護法」条文に反対しているのは、The National Farmers Union、American Civil Liberties Unionや Stonyfield Farms、Nature’s Pathなどの有機農業生産企業、食の安全活動家、人権団体、環境保護団体などです。ホワイトハウスには、オバマ大統領宛にこの法案に署名しないようにという嘆願署名が25万人分寄せられたということです。

モンサント社は、作物種の生産会社であると共に、農薬(Roundupなど)、牛用成長ホルモン剤(rBGH)、DDT、PCB、ベトナム戦争中使用されたオレンジ枯葉剤などの化学物質の製造会社としても知られています。GM作物についてラベルを付けることを義務づけている州に対して訴訟を起こすと警告を発したり、モンサント社に起源を有するGM作物の種を他から入手したり、モンサントから購入して栽培した作物の次世代の種を保存して植えつけした農場主に対し訴訟を起こしたりして、次第に種ビジネスの寡占化を推進してきました。現在では、 モンサント社は、デュポン社や他のGM作物種の生産会社と共に世界の種市場の50%近くをコントロールしているとされています。

消費者側の運動としては、無農薬や有機野菜や果物にラベルを付けると同時にGM作物にGMであることを表示するラベルを付けることを強制するシステム作りを提言していますが、これはモンサント社などGM作物の生産者からの強い反対があり、実現できていません。今回の「モンサント保護法」条文は、このような消費者の運動と全く逆の方向性を示しています。長期にわたる安全性評価をしないままに「GM作物、野菜、果物その他」は安全であるという前提に立ってラベルも必要なし、安全性についての疑いがあってもGM作物の植えつけ、栽培、販売を中止しなければならなくなる可能性をゼロにしようとするモンサント社の方針を貫こうとしたのが今回の便乗法です。6か月後の政治的状況の如何により、そのまま延長となるか、消費者側の運動が強くなれば、場合によっては廃止という選択もありえます。消費者の知る権利、選択する権利と企業の利益の最大化という異なる目的がぶつかり合うことになるでしょう。