国籍法第12条関連の判断

今回は、2015年3月10日に日本の最高裁判所が出した国籍法第12条関連の判断についてお話しましょう。海外に暮らす日本人にとって、また国際結婚のカップルの方たちにそしてそれらの人々から生まれる子供たちに関わる重大な判決でした。

国籍法第12条は、海外で生まれた日本国籍者(この定義が複雑ですが)については3か月以内に日本国籍を留保する旨を日本国大使館・領事館などに届けしないと出生時に遡って日本国籍を喪失すると規定されています。

日本国籍取得
日本国国籍法は第2条により下記の条件を満たす場合に出生により国籍を取得すると規定しています。
(出生による国籍の取得:第2条)
第二条  子は、次の場合には、日本国民とする。
一  出生の時に父又は母が日本国民であるとき。
二  出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。
三  日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。
また、国籍法第3条は父または母が認知することにより子が国籍を取得すると規定しています。
(認知された子の国籍の取得:第3条)
第三条  父又は母が認知した子で二十歳未満のもの(日本国民であつた者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。
2  前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。

上記のように日本国籍を取得できるのですが、海外で出生した場合には制限が付きます。日本国民として上記の条件を満たし生まれても、両親が海外に居住していた期間中、または何らかの理由で海外で出生した子供でその国の国籍を出生により取得した者の場合は、親がその子供の日本国籍を留保する旨を出生から3か月以内に在外日本国大使館・領事館等に届け出ないと出生時に遡って日本国籍を喪失してしまうのです。一時的に日本の企業か海外転勤を命じられた家族が海外に滞在中に子が出生した場合は両親ともに日本国籍者であり将来は日本に戻る予定の子供でも、親がこの法律を知らなかったり、うっかり3か月以内に届け出る機会を失ったり、忘れてしまったりすれば、日本国籍を喪失してしまうという規定ですから、該当する件数は相当あるのではないかと推察されます。

今回の最高裁の判決は、このような国籍法第12条の国籍留保届を3か月以内に提出しない場合は、出生した子の日本国籍は出生時に遡って喪失するという規定を原告ら(15人)が違憲として提訴したものでした。原告らは、フィリピンで国際結婚した日本人父とフィリピン人の母との間に生まれた子ら(嫡出子)でした。日本で生まれていれば問題なく日本国籍を取得していたはずであり、その後も日本国籍留保届を義務付けられることなく、問題なく日本国籍を保持できていたはずのケースです。しかし、父母が国籍第12条の規定を知らなかったために出生後3か月以内に国籍留保届を出さなかったという例でした。第12条は法の下における平等を謳う日本国憲法に反するものであり、違憲であるという原告の主張を最高裁判所は却下し、「国籍を付与するか否かは立法府の裁量判断に委ねる趣旨のものであり、二重国籍を避けるとする立法目的は合理的かつ合憲」であるという判決を出したのです。

最高裁の判決は「合理的かつ合憲(つまり合理的理由のない差別には該当しない)」という判断を示していますが、実際はどうでしょうか。嫡出子であった子がもし非嫡出子であった場合は、3か月というような期間の制限なく、胎児認知であっても、または出生後の認知であっても、子が20歳未満であれば日本人父が海外に居住中であっても認知し、海外からでも届出をすることにより子が日本国籍を取得できる道が開かれているので、嫡出子の方が不利な立場に追いやられ日本国籍を喪失してしまう可能性がより高いという「逆差別」的な結果を生み出していますので、「合理的・合憲」と割り切る理由が見当たらないと思うのは当事者や私のような者ばかりではないでしょう。日本の国籍法というのは、諸条の規定がそれぞれ相互に矛盾を含みながら、恰もバラバラに相互の意味合いや実際の運用の矛盾などを考慮せずに立法したまたは改正してきたというような様相を呈しています。

国籍法第12条撤廃を提案する運動のホームページにアクセスすると、この規定の歴史的な流れについて解説しています。それによると、この留保届制度は、明治32年に旧国籍法が制定された当時は存在していなかったということで、北米・中南米などへの日本人移民が多くなった大正13年の改正で、日系移民がそれぞれ移民先の国により溶け込めるよう、また日本国側からは二重国籍者を回避するという動機で定められたとされています。

一度日本国籍を喪失した子らは、国籍法第17条による国籍再取得の道が開かれていると一般には言われていますが、また第12条規定による国籍喪失が重大な差別には当たらないという主張の根拠として挙げられるのですが、この規定を利用して日本国籍を再取得するというのは、実際には海外に居住している両親や子にとっては容易なことではありませんので、簡単に国籍回復の道があるということはできません。国籍法第17条は、日本国籍を喪失した子は、日本に住所を有する時には、届出により日本国籍を再取得できるとしています。しかし、実際にそれを目的に海外から物価の高い日本に来て、短期滞在の在留資格(VISA)を取得し、当該在留資格を定住者や日本人の配偶者等に変更し、仕事を探し生活する一方で子供が15歳以下の場合には、日本の家庭裁判所において「親権者指定の申し立て」を行い、単独親権を得て法務局に対して国籍再取得の手続きを行う必要があります。これら一連の手続きを行い、日本で生活できる経済力がある両親または親がどれほどいるでしょうか。大きな経済的負担が生じます。(JFC <Citizen’s Network for Japanese-Filipino Children>ネットワークホームページ)

海外で働いたり、国際結婚などにより海外に暮らす日本人が数百万人のレベルでいるといわれる今日、日本国国籍法はそのような国際的な環境や人の動きを反映した現代に即した法律と言えるでしょうか。私には奇怪なあちらこちらに論理の破たんを示す、寄せ集め、かつ差別意識や非合理的な、何が何でも「重国籍者」を減らそう。。。つまり日本国籍者の数を減らそうとする日本国政府(政府を構成する一部の人たち)の主張を表現しているに過ぎないと思えてなりません。国籍法そのものの内部整合性、日本という国のあり方、日本人とは誰なのかということをもう一度根本的に考え直し、整合性を持った合理的な法律に改正する時が来ているのではないでしょうか。みなさんはどう思われますか?