クレジットカード関連規則

2009年5月22日、オバマ大統領はCredit Card Accountability, Responsibility and Discloser (CARD) Actという法律に署名しました。同法は、上院・下院をそれぞれ95対5と361対64の票差(先月下院を通過した類似法案は、357対70の票差でした)で通過し、2010年2月22日に発効します。クレジットカード関連規則の変更については、「オアシス」の2008年12月号に書いた記事で取り扱いました。今回の改正法は、Federal Reserveが行った規則改正を正式に法律として成文化したと言えるもので、実施の期日も2010年7月から2月に前倒しされました。改正の内容としては、Federal Reserveの規則改正と類似しています。
 主な改正点は、下記のとおりです。
1. すでにある残高に対して、60日以上の返済不履行がなければ利率を変更できない。
2. 利率の変更については、45日間の猶予期間をもって通知しなければならない。
3. すでに返済済みの額に対して利息を課す(請求期間平均残高として残高を返済済みの額も加えて平均算出することにより利息を課すという現在行われている請求方法)ことを禁止する。
4. 21歳に達していない者については、親の許可(親の保証)または本人による返済が可能であることを証明する資料の提出がなければクレジットカードの発行を禁止する。(大学生などは、カードを発行してもらうため、または共同名義のカードの上限額を変更するためには親または保護者の許可・保証を必要とする。)
5. 請求日から支払い締切日までの期間は少なくとも21日間なければならない。
6. 大学のキャンパスなどで学生向けカード発行のプロモーションとしてTシャツやピッツァを無料で提供することを禁止する。
7. 大学や大学の同窓会などは、当該大学の学生カード発行につき、カード発行会社との契約の内容を公表しなければならない。
8. (支払い遅延などにより)利率を引き上げた場合も、カード所持者が6か月間遅延なく支払いを続けた場合には元の低い利率に戻す。
9. この改正法に違反するカード発行者には$5,000の罰金を課す。
10.一つのカードで支払いの遅延が起きた場合に、別の会社が発行する別のカードが利率を引き上げることができるいわゆる「Universal Defaul」のシステムを廃止する。
11.カード発行者は、カード所持者がいわゆる最少限度必要な支払い額(Minimum Payment)を毎月支払い続けた場合に完済するための期間がどのくらいになるか、また12か月、24か月、36か月で完済したい場合は毎月の支払い額がいくらになるか開示しなければならない。
12.クレジットカードの契約内容をオンラインで閲覧できるようにする。
13.同一のカード使用に対していくつかの異なる利率が適用される場合、Minimum Paymentを超える支払い額はまずより高い利率の残高に適用される(過去と逆転)。
14.最初にクレジット・カードの口座を開設した当初の利率は1年間は変更できない。
15.プロモーション用の特別に低い利率は、少なくとも6か月継続しなければならない。
16.限度額を超えた使用については、そのような取引を許可するべくカード所持者が署名した場合を除き罰金を課すことができない。

今回の改正法は、最高利率については規定していません。この点が最近日本で実施された法律と異なる点でしょう。またこの改正法は、個人が所持し使用するクレジットカードのみに適用する法律で、会社や組織名義のクレジットカードには適用されません。

今回の法改正について銀行などのクレジットカード発行側は、このような法改正はその意図とは逆に利率上昇やカード発行対象者の減少、限度額引き下げ、年会費の導入や引き上げなどをもたらし、消費者によるクレジットカード使用はより困難、かつ不便になるであろうと警告しています。News.xinhuanet.comの5月23日付けの記事によると、米国の全世帯の80%がクレジットカードを所持しており、カード債務は過去10年間に25%増大し今年の1月には9,630億ドルに達したということです。またR.K.Hammerコンサルティングのロバート・ハマー氏は、今回の法改正により銀行などのカード発行会社の利息からの収入が100億ドル減少するであろうと予測しています。

2009年3月15日付け「USA TODAY」の記事(「Bank Credit Card Fee」)によると、前述のロバード・ハマー氏は、銀行などのカード発行会社は2008年に支払い遅延についての罰金、上限額を超えた場合の罰金など合わせて190億ドル稼いた実績に比し、2009年中205億ドルを罰金として稼ぐであろうと予測していました。また、2008年末には、全クレジットカード数の5.6%が少なくとも30日支払いが遅延した状態にあり、1991年にFederal Reserveがこのような統計を取り始めて以来最高率であったということです。

改正点は、消費者保護の立場からは改善と見ることができ、より透明なクレジットカード契約となります。しかし、実施までに9か月もあるということ、その間に銀行などのカード発行者がどのような変更を行うかということが予想できないという点も考え合わせると、容易に今回の改正法が消費者のクレジットカード債務の状況を改善するとは予想できません。今後2010年の2月22日までの9か月間に、どれほど多くの人々が継続する恣意的な利率変更(ほとんどが引き上げ)、信用供与枠(貸付限度額)の急激な縮小、カード自体のキャンセル、支払遅延罰金、等々に悩まされるか、また一定割合の人々が返済不能に陥り、破産などに追い込まれる可能性も大きいことを考えると、一応の成果は認めるものの、すぐに一般の消費者を救済する法改正ではないと言わざるとえません。金融機関へのいわゆるBail Outがほとんど何らの規制もなく待ったなしに迅速に行われたことと比較すると、一般消費者の救済が優先順位として高くないのだということを改めて認識させられる法改正です。カード発行業界の政治力の影響もあるでしょうし、カード発行者である銀行やその他の金融機関がサブプライム住宅ローン債権の焦げ付きに次いで、今度はクレジットカード債権の焦げ付きで大規模な救済を必要とするようになることをオバマ政権は恐れているのではないでしょうか。