モンサント保護法(2)


今回は、引き続き5月13日に連邦最高裁判所が全員一致で出したモンサント関連の判決についてお話しましょう。この事件では当初はモンサント社から種を購入したが、のちには新たに毎年種を購入することなく第三者から購入した種(この中にはモンサント社の種から再生産した種も混入していることを前提として)から育てた作物を耕作したことが同社の特許侵害に相当するか否かという争点で同社から告訴された農民、バーノン・ボーマンが控訴裁判所の判決に引き続き敗訴しました。

この裁判の争点は、特許の対象となっている種(この事件では大豆)を購入した者が特許所有者から許可を得ることなく(特許料を支払う、つまりその都度種を購入することなく)その種から次世代の種を再栽培して収穫してもよいか、という問題でした。今回の最高裁判所の判決は、「ボーマン氏はモンサント社に対して特許料を支払え」というものでした。ここでは、特許の対象ではあっても、いわゆる種無しスイカのように次の世代を再生産できない生物ではなく、畑に植えれば育ち次の世代そしてその次の世代の種を再生産できる生物が問題となりました。

この判決をついて聞くと、すぐ頭に浮かんでくるのは、最高裁判所が命令した特許料の支払いはいつまで続くのかという点です。秘密にモンサントの大豆の種から再生産された種を毎年保存し10年間栽培したとしたら、この10年。。。そして最初の特許期間が切れるまでの間ずっと特許料を払い続けるという論理になりますが、特許料そのものはどのように計算するのでしょうか。ボーマン氏はモンサント社に対し、特許料、裁判費用、損害賠償金として8万4000ドル支払うよう命令されました。ボーマン氏は8万4000ドル支払う経済力があるのでしょうか、モンサント社がこの裁判費用として8万ドルを遥かに超える額を投入したことは明らかですし、8万ドルという額はモンサント社にとっては雀の涙位の金額でしょう。しかし、ボーマン氏にとってはどうでしょうか、心配になります。

モンサント社の種を当初特許料を払って使用した後、周囲のモンサント種以外の大豆が混入し混合種ができ、その子孫が数世代にわたって栽培された場合は、特許料をどのように計算するのか。そもそも人為的ではなく自然に生まれた混合種に特許が適用されるのか(栽培主が混合種を作る意図が全くなくても)など、疑問は次々に浮かんできます。今回の最高裁の判決は、後者の場合までも含める大きな範囲の判決ではなかったようです。つまり、ボーマン氏が意図的に「モンサントの種の子孫である種が混入しているだろう」という期待をもって第三者から種を購入したことが重大な争点になりました。しかし、両者の差はそれほど大きいものとも思われません。栽培主が意図的であったか否を問わず、自ら混合したりしながらも次世代を再生産する能力を示すのはこれらの作物そのものの「生物力、生きて進化する力」です。しかし、この判決が及ぼす心理的、実際条の影響は大きそうです。

例えば、途上国の自給自足に近い農民が自分の家族を養うために混合種の大豆を育て収穫した場合(意図的であろうとなかろうと)、今回の判決の論理を推し進めるとあくまでもモンサント社の特許、すなわち知的財産権、企業利益が農民の生きる権利を上回る絶対的権利であるということになってしまうでしょう。貧しくモンサント社に特許料を支払って大豆の種を毎年購入する余裕がない農民は、飢えても仕方がないということになってしまいます。または、高価なモンサント社の種を購入し続けることにより借金地獄に落ち、インドの多くの農民が辿った自己破滅への道を突き進むことになる可能性も大でしょう。自ら次世代を作りだす能力を持つ作物、周囲のモンサント以外の種から栽培されている作物と混合種を自然に作り出す能力がある作物、これらは生きて、再生産し、しかも自らを変革して生き残ることができる生物であるわけですが、このような生存し変化する能力というものは特許で所有権を狭く定義できるものではなく、生物の進化の過程そのものであるといってもよいでしょう。そのような進化する力そのもの生きる力そのものは特許の所有によって一つの企業が例え一定の期間にわたってでも独占してよい性質のものでしょうか?しかも、今回の判決は人間が生きて行くために必要な食物となる作物を対象にしています。いかにも論理的また企業の経済的権利を守ろうとする立場からは正しいようにみえる最高裁判所の判決も、もっと根本的に生物、人間の生存の相互依存関係を考えると何かおかしいと考えるのは私だけではないでしょう。世界中の作物の種が全部モンサント社の種になってしまったら、世界中の農民はどうなるか、また消費者はどうなるかと考えると恐怖を感じいます。現在米国で栽培されている大豆は、「有機無農薬(Organic)」と特に表示されていない限りほとんどがGM版の作物です。このような大豆から作る豆腐もGM版ということになるでしょう。

勿論モンサント社その他の食物・作物生産会社は、このように自らの知的財産権(特許)について、特許料を徴収することが保証されなければ、将来のために発明を継続する動機を失ってしまうと訴え、今回の最高裁の判決を大歓迎しています。