今回も、引き続き日本の税理士である染谷育子氏と共に日本における相続の問題をみてみましょう。染谷育子氏は、企業、個人の税務上の手続きを代行し、またいろいろな税務、相続などの相談にも応じています。相続に関しては、これまでいくつもの相続の案件を解決した経験に基づいて個別の状況に関するアドバイスなども得ることができますし、相続処理そのものを担当していただくこともできます。地方出張も可能です。連絡先は、(郵便番号215)川崎市麻生区千代ヶ丘4の21の53、染谷育子税理士事務所で、電話番号044・954・9777、ファックス番号は044・954・7397です。E-mailアドレスは、someya22@bg.mbn.or.jpです。相続または日本国内での税務などアドバイスをお望みの方は、私経由でも、また染谷氏に直接e-mail、電話などでご相談いただいてもどちらでも結構です。
 先回は、日本における相続の基本的概念や法律について解説していただきました。今回はもう少し具体的に考察してみましょう。
1 相続税の課税財産
 相続税が課税される財産は、原則として民法の規定により相続または遺贈(相続人でない人に贈ること)により取得した財産です。その他にも相続税法上相続または遺贈したとみなされる財産、贈与税の納税猶予の特例を受けていた農地等、相続開始前三年以内に被相続人から取得した財産も含まれることになります。
(1) 本来の相続財産
 被相続人が死亡の時において所有していた土地、家屋、事業用財産、有価証券、書画骨董、預貯金現金等の一切の財産です。登記の済んでいない不動産屋、名義の書き換えをしていない株式や、ゴルフの会員権、家族名義や無記名の預貯金・公社債・証券投資信託や貸付信託の受益証券等も含まれます。
(2) みなし相続財産
 民法上の相続財産ではありませんが、相続又は遺贈により財産を取得したことと同様な経済的効果があると認められる場合、相続税法では課税の公平を図るために、これらを相続税の課税財産としています。主なものとして、生命保険金や、退職手当金等があります。
 生命保険金
 被相続人の死亡により取得した生命保険契約の保険金や偶然な事故に起因する保険事故で死亡に伴い支払われる損害保険契約の保険金で、その保険料のうち被相続人が負担した保険料に対応する部分の保険金。ここでいう生命保険契約の保険金とは、生命保険会社と締結した生命保険契約の保険金や、簡易生命保険の保険金のほかに生活協同組合や農業協同組合の生命共済金も含まれます。ただし、健康保険や厚生年金保険等の社会保険により支給されるものは含まれません。
 退職手当金
 被相続人の死亡によりその被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金等で、被相続人の死亡後三年以内に支給が確定したもの。この退職手当等とは、その名義のいかんにかかわらず、実質的に退職手当金等として支給される金品をいいます。なお、弔慰金、花輪代葬儀料などで相応なものは、これに該当しません。
2 相続税がかからない財産
 相続税法では原則として、相続や遺贈によって取得したすべての財産がその課税の対象となります。しかし、これらの財産のうち、その財産の性質、社会政策的な見地、国民感情等から相続税の課税の対象とすることが適当でない財産は、非課税財産としてその課税対象としないこととしています。これには(1)墓地、霊廟、仏壇、仏具等、(2)宗教、慈善、学術その他公益を目的とす事業をおこなう者で政令で定めるものが相続又は、遺贈により取得した財産で、その公益事業の用に供することが確実なもの、(3)心身障害者制度に基づく給付金の受給権、(4)相続人が取得した生命保険金等のうち一定の金額(500万円×法定相続人の数)、(5)相続人が取得した退職手当金等のうち一定の金額(500万円×法定相続人の数)、(6)相続財産等を、申告期限までに国や、地方公共団体等に寄付をした場合その寄付財産、(7)相続財産等を申告期限までに特定公益信託の信託財産に支出した場合における金銭、などが含まれます。
債務も一定の枠内で控除されますが、細かい規定については、税理士などに相談してください。
相続税と贈与税の控除枠の相違

遺言
 遺言は、被相続人が自分の財産の相続に関して自らの意図を生前に明らかに記しておく文書ですが、その効力は本人の死亡時に発生します。遺言は、満 才以上で、かつ判断能力がある者であれば誰でも(親の同意がなくても)作成できます。
遺言には、(1)自筆証書遺言と(2)公正証書遺言、(3)被密証書遺言の三通りがあります。
(1)自筆証書遺言とは、公証人に作成を依頼せず、被相続人自らが自筆でしたためる遺言です。この場合には、この自筆の遺言以外にその存在と内容を証明するものは他にありません。被相続人本人が遺言の全文、日付、および氏名を自筆で作成し、印を押します。日付、氏名、印のどれが欠けても無効になります。(印に関しては、拇印でも認められています)全文という要求項目は、厳格で、加除する場合も変更部分について被相続人自身が場所を指示し、変更した旨を附記し、署名し、変更の場所の上に印を押さなければ無効になります。被相続人の死後遺言を発見した場合には、速やかに家庭裁判所に届け出、「検認」を受ける必要があります。「検認」とは、その遺言書の形式その他の状態を確認し、将来における偽造、変造を防止して保存を確実にするための証拠保全手続きのようなものです。遺言の有効性を判断する手続きではありません。検認手続きには、相続人全員(またはその代理人)が立ち会う必要があります。
(2)公正証書遺言は、公務員である公証人に「原本」、「正本」、「謄本」の三通を作成してもらい遺言者は、「正本」と「謄本」と受け取ります。公務員が作成するために、公正証書遺言は公文書になります。「原本」には、遺言者本人と証人二人が署名します。「正本」は「原本」と同じ効力を持ち、不動産の移転登記をするには普通はこの「正本」が使用されますが、「謄本」でも代用できます。「謄本」にも公証人が署名するので、いわゆるコピーではありません。いわば、遺言公正証書の控えとも言えるものです。「謄本」があれば、金融機間で預貯金を払い戻したりできます。「正本」と「謄本」が失われても、「原本」が公証人役場に保存されていますので、「原本」に基づいて「正本」と「謄本」を再度作成してもらうことができます。公正証書遺言は、相続人が公証役場で遺言を作成したという事実をさえ知っていれば、「正本」「謄本」が紛失または破棄されていても、全国規模の「遺言検索システム」で検索することができる便利な制度です。別の相続人に「自分にとって都合が悪い内容」として「正本」や「謄本」が破棄されてしまっても、検索システムを使って「原本」に辿りつくことができるわけです。しかし、自筆証書遺言である場合は、一端誰かが破棄すれば、二度とその効力を発揮することができません。公正証書の遺言を残していると、被相続人の死後、「正本」や「謄本」を司法書士のところに持参するだけで、他の相続人の同意書や遺産分割協議書作成の必要もなく、即時不動産の登記などができます。
 公正証書遺言を公証人に作成してもらうためには、次ぎのような項目が必要となります。
1 遺言者の印鑑証明書
2 遺言人と相続人の関係が分かる戸籍謄本(相続人に「相続」させるという遺言公正証書を作成するとき)
3 受贈者の住民票(相続人以外の者に「遺贈する」場合)。受贈者が法人である場合は、法人登記簿謄本その他受贈者の資格を証明するもの)
4 不動産登記簿謄本・固定資産評価証明書(遺産の中に不動産がある場合。)最近の固定資産納税納付通知書でも代用可能
5 証人二人の住所、職業、氏名、生年月日を記した書面(公証役場でも証人の斡旋をしているので、その場合は不用)
6 その他。保険契約書(遺産の中に遺言者が受取人になっている生命保険があるとき)
7 実印(証明書作成当日に持参)
(3)被密証書遺言 これは遺言の存在は明確にしたいが遺言の内容を秘密にしておきたい場合に作成します。遺言書は、被相続人本人が書き署名して印を押します。自筆でなくワープロで作成することも可能です。加除訂正には自筆の遺言書と同様の基準が要求されます。日付の記載は不要です。作成した遺言書を封筒に入れ、遺言書に使用した印で封印し、印鑑登録証明書と共に、証人二人を伴って公証役場に出向きます。公証役場では、公証人に対してその封筒の中身が自分の遺言書であることと、自分の住所氏名を述べます。公証人は、その封書に日付を記入し、本人・証人二人・公証人がそれぞれ署名・捺印します。本人は実印が必要ですが、証人は認印を使用できます。公証人はその封書を本人に返しますが、公証役場には本人がその日に秘密証書遺言を作成した事実、本人と証人の名前の記録が残ります。しかし、遺言の内容が残っていないために、遺言が紛失すると役にたちません。この場合も、本人の死後家庭裁判所に提出し「検認手続き」を経る必要があります。検認の前に封印された遺言書を開封しはならない規定があることに注意しましょう。封印された遺言書を開封するためには、相続人全員が立ち会う必要があるために、相続人の中に海外居住者がある場合など、極めて煩雑で時間がかかることがあります。封印がない遺言書の場合にはこのような立会いは必要ありません。
 しかし、「検認」を受けるためには、封印のあるなしにかかわらず検認申立書、遺言書、遺言者の除籍謄本、相続人、受遺者の戸籍謄本および住民票、遺言者の手紙・日記など筆跡照合できるもの、などが必要となり、大変な手間がかかることは事実です。「検認」の手続きは、主として悪意による遺言書の改竄を防ぐためです。
海外居住者に対する遺産・贈与に関わる課税
 先回の記事で、海外居住者は基本的には「制限納税義務者」のカテゴリーに入ること、つまり日本国内にある財産に関して課税されるが、海外にある贈与(相続)財産には課税されないという原則について、そして2000年4月1日からこの「相続税の納税義務者の特例」が創設され、課税対象がさらに詳細に規定されることになったことをお伝えしました。実際の課税方法については、今一つはっきりしませんが、どのようにして課税・非課税の区別をするのかという基準が多少見えてきました。
 これまでは、受贈者または相続人が米国に居住する場合、日本の両親などから相続・贈与を受けてもその相続財産が海外(米国など)にある場合には課税されませんでした。しかし、日本の税務当局もこのような「税逃れ」を封じ込める対策に出たわけです。日本の税法では、相続にしろ贈与にしろ財産を受け取った者が課税される制度を採用していますから、海外にある財産に関する海外に居住する日本人受贈者への課税が行われませんでした。法改正後(4月1日以降)では、まず受贈者(相続人)が日本国内に居住するか否かをチェックし、日本に居住する場合は日本国内・海外を問わず全ての相続・贈与財産が課税対象になり、海外居住者であればさらに受贈者(相続人)の国籍をチェックし、外国籍(米国籍など)では日本国内の贈与(相続)財産についてのみ課税対象となります。国籍が日本であれば、次ぎのテストに進むわけです。受贈者(相続人)である日本国籍者が贈与(相続)の時にすでに5年を超えて海外に居住しているかチェックし、超えていない場合は日本国内・海外を問わず全ての贈与(相続)財産が課税対象となります。もちろん、これは理論上で、日本の国税当局がどのようにそうした海外財産の実体を調べるのかは大きな疑問です。また二重国籍者の扱いはどうするのかも疑問です。(おそらく日本人として扱われることと思います)受贈者(相続人)である日本国籍者の海外居住が5年を超えている場合は、さらに次ぎのテストに進みます。つまり、今度は贈与者(被相続人)側の居住条件をチェックします。贈与者(被相続人)である日本国籍者が海外に5年を超えて居住しているか否かを調べるわけでが、答えが「YES」であれば日本国内の贈与(相続)財産に対してのみ贈与税(相続税)を課すことになります。もし居住が5年以下であれば、日本国内・海外を問わず全ての贈与(相続)財産が課税対象になります。この場合贈与者(被相続人)が外国籍の場合はどうなるのでしょう。その答えは、現段階でははっきりしません。
 大変複雑なテストを何段階も経て行わないと、明確に答えがでない枠組みとなっていますが、簡単にまとめてみると、日本人が国外財産(皆さんの場合には米国にある財産)の贈与(相続)に関して日本の国税当局の課税を逃れるためには、受贈者(相続人)および贈与者(被相続人)双方が贈与(相続)以前にすでに5年を超えて海外に居住していなければならないことになります。
 ご質問、コメントなど歓迎いたします。
 次回は、海外で出生する子供たちの問題についてご一緒に考えましょう。* 参考文献
1 清水勇男著 「遺言をのこしなさい」講談社 (主として遺言に関する部分の執筆の参考)
2 北田朝雪著 「相続ならぬ“争族”を避けるために」(「日経ビジネス」2000年4月17日号P123)
3 三宅茂久著 「封じられた究極の相続税対策」(「日経ビジネス」2000年6月5日号P101(主として「海外財産の贈与・相続に対する課税」の部分の執筆の参考)