結婚と離婚についてのいくつかの考察(続き)
今回は、日本と米国にまたがる離婚の問題についてお話しましょう。先月号で、日本に住む米国人と結婚した女性の例についてご紹介しましたが、今回はさらに詳しく米国と日本にまたがる離婚に関していくつかの重要な点に焦点を絞り解説します。
訴状の送達
日本で共に暮らしていた夫が米国に帰国して離婚訴訟を起こしたり、妻が日本に里帰り中に夫が米国で離婚訴訟を起こした場合にはどうなるでしょうか。米国人の夫がアリゾナ州で離婚訴訟を起こし訴状を日本にいる妻の元に送達(Service)しようした事例をいくつか見てきました。親の看病のために日本に里帰りをしていたら、突然「もう帰って来なくても良い。離婚したい」などという手紙を受け取り、びっくりして弁護士に相談する、というような例もあります。日本の弁護士に相談しても、米国の事情が把握できず法律の適用も州により異なるために、結局日本からの国際電話や電子メールで私のところに相談が寄せられることもしばしばあります。送達(Service)とは、正式に訴状などを相手に届け、裁判の当事者とすることです。つまり、離婚のケースの場合には、離婚したいという意志をもった配偶者が起こした訴訟に当事者として正式に組み入れられ、離婚訴訟の手続きにおいて裁判所で相手と公式に渡り合うことになることです。この送達の手続きを適正に行わないと、後の裁判判決が無効になったりする可能性もあります。言い換えれば、誤った送達の方法で訴状が送られたり手渡された場合には、渡された本人は、自分が当該裁判の「当事者とされていること」に異議を申し立て、場合によっては、裁判の対象となることを回避できます。
これまでに取り扱ったケースでは、夫の側が日本と米国との間の送達の規則の違いなどを知らずに、不適正な送達を行ったということがありました。夫の側は、アリゾナ州内では適正な送達方法として認められている通常の郵便による方法で日本にいる相手側への送達も十分と思い、実際に郵便で送達を試みたという例です。これらの場合、裁判の過程がある程度進行したところで、妻の側から「不適正な送達」を理由に裁判および判決の無効性を主張し、裁判過程そのものまたはその判決が妻当人に対して無効となった例もありました。また、アリゾナにいる夫が日本にいる妻に対して、これも同じく通常郵便による送達を試み、不適正であることに気づかず、欠席裁判による判決(DEFAULT JUDGMENT)を勝ち取り、子供の養育料も払わず、何らの義務も負うことなく全て自分に都合良く離婚ができたと信じていたところ、妻がアリゾナ州で弁護士に依頼し、その欠席裁判による判決を覆したという例もありました。
裁判管轄権。米国の訴状が適正に日本にいる配偶者に送達されると、その配偶者は米国の当該州裁判所の裁判管轄権を受け入れたことになります。日米にまたがる離婚においても、多くの場合が子供の存在が関わります。極端な例では、子供に米国籍がないために、または実際には米国籍があるにも関わらず父親である米国人が、それらの子供に対して当該州が「米国籍がない、アリゾナ州または米国に居住していない」という理由で裁判管轄権を持たないと主張することもあります。この場合、父親である米国市民のねらいは、米国の州裁判所がそれらの米国籍の子供たちを保護し父親に養育料の支払いを命ずることを回避することです。子供を「負担義務なく切り捨てようとする父親」には魅力的な論理ですが、母親の側では、例え米国外に居住していても米国市民であれば一番縁の深い州(この場合は、父親が離婚訴訟を起こした州)の裁判管轄権が及ぶと主張することになります。それでは、日本にいる配偶者にアリゾナ州の裁判管轄権が及ぶ、つまり離婚訴訟の当事者として裁判の過程に組み込まれるための条件とはどのようなものでしょうか。
まず第一に上記のような「不適正」な送達方法でも、離婚訴訟を起こした本人が日本にいる配偶者に対して「アリゾナ州の裁判管轄権を認め、(不適正な送達方法であるにもかかわらず)当該離婚訴訟の当事者となるという同意書」に署名して同意すれば、「不適正な」送達方法に関わりなく、訴訟を起こされた側の配偶者も訴訟の当事者となり、離婚訴訟がアリゾナ州内で当事者間の争いとして継続することになります。日本にいてアリゾナ州で離婚訴訟を起こされた場合は、相手から送られてきた書類によく理解せずに署名することのないよう注意する必要があります。まず、それらの書類の意味するところを知る弁護士などに相談すべきでしょう。それでは、日本にいる離婚訴訟を起こされた側の配偶者がこのような「同意書」に署名することを拒否した場合にはどうなるでしょうか。この場合は、アリゾナ州で離婚訴訟を起こした側の配偶者は、アリゾナ州および日本国の両方で適正と認められる方法で送達お行う必要があります。適正な送達ができなければ離婚訴訟を起こしても相手を当事者にすることができず、訴訟は先に進行できなくなります。アリゾナ州の判例では、「郵送による送達は日本の国内法(国際条約の批准も含め)で認められた方法でないので、アリゾナ州の裁判所としては送達が適正に行われたと判断できない」という判決が出ています。日本で適正と認められている方法は、一般的には二つあります。まず第一の方法は、訴訟を起こした本人が米国国務省を通じて相手に送達する方法であり、日本にいる訴訟を起こされた側の配偶者は米国の大使館・領事館を経由して送達を受けます。第二の方法としては、日本の外務省を通し(米国内の日本国大使館・領事館経由)法務省・裁判所経由で送達が実行される場合です。上記いずれの方法でも、最低数ヶ月の期間を必要とすることになり、迅速な手続きは望めません。時間がかかかるということは、訴訟を起こされた側にとっては準備する時間(米国内で弁護士を探すなど)ができるといことも意味します。その後は米国内(アリゾナ州など)の州裁判所で裁判官の指揮の下で養育料の支払い、VISITATION(親と過ごす時間)などの取り決め実行されることになります。
上記は相手が「見える」離婚訴訟の場合ですが、沖縄などでは米国人「配偶者」「同棲者」が帰国後行方不明になっており、子供の養育料を請求することもできない状況にある日本女性が多数います。通常は子供の養育料などは裁判所が関わる離婚訴訟の過程の中で裁判官が様々な要素を考慮して決定することになりますが、相手が行方不明ではどうすることもできません。通常、これらの女性たちは経済的にも逼迫していることが多く、米国本土に出かけて行方不明の「父親」を探すこともできません。最近、沖縄に2000人から3000人いるとされるこのような子供たちとその母親たちに強力な味方が現れました。アンネット・エディ・キャラガンという黒人女性弁護士です。この弁護士は、沖縄で民間開業する唯一の米国人弁護士で、これらの女性と子供たちのために「父親を捜し出し養育料を請求する」という活動をボランティア(無料)で行っています。同弁護士は、自分自身も幼い頃に父親に捨てられた経験、またシングルマザーとして子供を育てた経験があります。米国のNational Child Support Enforcement Association(養育料実施協会)の協力を得てこれまでに相当数の父親を探し出し裁判所から「養育料支払い命令」を獲得してきました。同弁護士の支援により、養育料を受け取ることができるようになった日本女性たちから大変感謝されています。同弁護士と電子メールのやりとりをしましたが、米国内にはこのような活動を全面的に支援する私立探偵も存在し、「行方不明の父親探しに限り」無料で調査を引き受けてくれるそうです。父親が父親であることを否定する場合には、裁判所から「DNAを使用してテストをせよ」という命令を勝ち取り、いくつかのケースで親子関係を確立することもあったそうです。同弁護士の事務所は、このようなDNAによるテストを実施する権限を与えられており、これまでに実施したDNAテストの結果は97パーセント位の割合で実父であることが証明されたということです。米国の政府機関の非公式の協力を得ていることになりますが、同弁護士によると日本の政府当局はこの問題に全く関心を示さないということでした。ちなみに、ドイツは米国の各州と養育料に関する協定を結んでいるそうです。アンネット・エディ・キャラガン弁護士の連絡先は、e-c_law@bigfoot.com (Annette Eddie-Callagain)です。沖縄以外でも同様な問題を抱えている女性と子供たちが存在することでしょう。このような活動が存在することを知ることにより、現状を改善できるかもしれない方が知り合いにありましたら、ぜひ知らせてあげてください。
では楽しい夏休みを。