市民皆保険プログラム(San Francisco Health Access Program)


今回はサンフランシスコ市における「市民皆保険プログラム(San Francisco Health Access Program)」の提案について考えてみました。
みなさんは、現在米国に4500万人以上の健康保険未加入者がいるということをご存知でしょうか。日本国民または通常3ヶ月以上日本に滞在する外国人も加入できる国民健康保険や企業や政府に勤務する者のための健康保険がある「国民皆保険」の日本と比較すると、これだけ多くの米国居住者が健康保険にまったく加入することなく生活しているという実態は驚くべきものです。このような4500万人以上の健康保険未加入者は、自分たちで保険料を支払い民間の健康保険に加入したり、健康保険料の一部または全部を負担する企業に勤務するという幸運に恵まれない者たちであり、しかも、低所得者が恩恵を受けるメディケイド(Medicaid)にも加入資格をもたない層の人たちです。この中には多くの子供たちが含まれています。
また健康保険料金は上昇する物価の中でも群を抜いて上昇率が高い項目ですから、このままの状態が続けば今後も健康保険未加入者の数は急激に増大すると予想されています。これは、米国社会全体として大きな問題となっており、11月の中間選挙の重要な争点の一つとなっています。サンフランシスコ市長は、連邦議会も政府も何もしようとしない状況で業を煮やした地方政府がイニシアチブを取らざるを得ないという批判を中央政界に向けて投げかけました。
そのような状況の中で、サンフランシスコ市長と市会議員の一部が提案した「市民皆保険プログラム」は、全国的にまた外国でも話題を呼んでいます。市政府として正式にこのプログラムを開始するには市議会で賛成票多数を勝ち取らなければなりませんが、この画期的提案の内容を見てみましょう。
このプログラムの骨子は、現在サンフランシスコ市に居住する75万人の中で健康保険未加入者8万2千人に医療サービスを提供しようというものです。このサービスを利用できるのは、サンフランシスコ市居住者に限定されており、サンフランシスコ市民であってもサンフランシスコ市外で受けた治療に関しては費用の払い戻しはされません。この意味で通常の健康保険とは異なります。同プログラムは、最低所得者と富裕層に挟まれた中間・低所得層を対象にしていますが、予防医療的側面を強調していることがその特色です。このプログラムが2007年に実施されれば、これらの8万2千の人々は、市営の病院、民間の慈善団体の病院、カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部・病院などで精神科、歯科なども含む一般疾病・傷害について診断・治療を受けることができ、薬を購入できるようになります。定住所を有しないホームレスの人々や違法滞在の外国人も法的地位に関係なくこのプログラムの恩恵を受けることができると規定しています。
アリゾナ州では州民提案法200(Proposition 200)として成立した法律により、基本的に違法滞在者が医療サービスを受けることを禁止する方向にあること、などを考えるとサンフランシスコ市の試みがいかに斬新なものか分かります。健康保険未加入であるために、病が重くなってから初めて救急病棟を訪れる人々の数が増大し、そのために医療費が急上昇する一方であるという解決法が容易に見えない状況の中で、一つの突破口を提示する可能性があります。この提案を推進するニューソム市長と市会議員たちは、間接費が増大する一方(1ドルの医療費あたり35セントと推定される)の民間保険会社に頼るばかりの医療に比べ、市や民間の病院、慈善団体クリニック、州立大学病院などで診断、手術、検査(レントゲン検査を含む)、投薬など直接医療サービスを提供し事務処理もそれぞれ現場で行うことにより医療費全体を相当に節約できると主張しています。
サンフランシスコ市は、これまですでに市内に居住する子供たちについては「皆保険(Healthy Family Healthy Kids Program)」を実施済みでした。今回の提案は、「成人も含める」という既成プログラムの拡大に当たります。同プログラムは1年に約2億ドル(加入者一人当たり1年に2400ドル)費用がかかると推定されていますが、サンフランシスコ市、サンフランシスコ郡からの分担金、企業(従業員数20人以上の企業については、従業員一人当たり1時間の労働に対して1ドルから1.6ドルの貢献分)、加入者からそれぞれの収入額に応じて月額3ドルから210ドル(平均35ドル)の料金を徴収することにより実施されるという枠組みになっています。このような市民皆保険の市による提案・実施は、全米に先駆けるものであり、市議会がこれを賛成多数で成立させ、実施されれば、今後の全国的な医療に関する議論の中で大きな影響力を持つでしょう。現在の予想では、このプログラムは市議会を賛成多数で通過する見込みです。
この住民皆保険という考え方は、サンフランシスコ市のみでなく、現在カリフォルニア州全体を舞台に争点になっています。11月の知事選挙においても、共和党のシュワルツネッガー現 知事も民主党候補のアンジェリデス氏も州内に500万から700万人いるといわれる健康保険未加入者を加入させる医療制度について提案しています。アンジェリデス氏は、特に州内の全ての子供たちに医療を提供するという政策を宣言しました。今後の成り行きを見守りましょう。