投票の権利法

今回は、6月22日に米国最高裁判所が「Voting Rights Act of 1965(1965年投票の権利法)」の第5条について出した判断についてお話します。このケースはNorthwest Austin Municipal Utility District No.1 v. Holder(米国司法省を代表する司法長官)ですが、このケースで争われた主な争点は、同法第5条が規定する人種差別の歴史がある地方自治体(アリゾナは、アラスカ、アラバマ、ミシシッピ、ルイジアナ、ジョージア、サウスキャロライナ、テキサス、バージニアなどの州および、カリフォルニア、フロリダ、ミシガン、ニュー・ハンプシャー、ノースキャロライナ、サウスダコタ各州の一部の郡や町、ニューヨーク市のマンハッタン、ブルックリンおよびブロンクス地区などと共にこのカテゴリーに入る「不名誉」を得ています)の場合選挙関連の法律や有権者登録の方法、選挙公報の方法、選挙区、投票場などを変更する場合には連邦政府(主として司法省)から事前に許可を得る必要があるという部分が米国憲法に違反するか否かという点でした。これらの地方自治体は、1964年、1968年、1972年の選挙結果の分析に基づいて選出されました(Adam Liptakによる「ニューヨークタイムス」2009年4月27日付記事)。例を挙げると、1965年におけるミシシッピ州の黒人の有権者登録率は僅か7パーセントでした(Adam Chenによる「ニューヨークタイムス」2009年5月12日付記事)。1965年法は、有権者資格試験としての識字テストなどを禁止しました(同上記事)。
今回最高裁判所は、一部の予想に反してこの規定を保持すべきという判断を8対1票の割合で出しました。第5条を憲法違反であると判断せず、原告は「Bail Out」(適用例外)の選択を許されるべきであったと結論しています。唯一この人種差別を制限しようとする規定を廃止する方向で投票した最高裁判事が唯一の黒人判事であるクラレンス・トーマス氏であったのは皮肉なことでした。
 しかし、今回の判断は、第5条の規定が米国憲法に違反するか否かという点について黒白を明確につける判断ではありませんでした。主席判事ジョン・ロバート氏は、第5条の規定が米国憲法に違反する可能性があるという見解を匂わせる意見を述べていますが、一応現時点では法律を成立させる職務を有する議会に権限を委ねるという判断をしました。市民権運動の側からは、このような意見が今回の判断に組み込まれたことで、近い将来、最高裁が第5条を再考し、「米国憲法違反」の判断を下す布石となったという危惧を抱いている人々もあるようです。

議会は2006年に1週間にわたり21回の聴聞会を行い、1万6千ページにわたる書類を調査した結果、「Voting Rights Act of 1965(1965年投票の権利法)」第5条の規定が現在でも少数民族に属する有権者の投票する権利を擁護する上で重要な役割を果たしており、廃止すべきでないと結論しました(上院を98対0票で、下院を390対33票で通過)。また、議会は15年後の2025年に第5条の規定がその時点でまだ必要であるか再考慮すると規定しています。また、議会は1982年の同法一部改正において、各地方自治体等が一定の条件を満たせば「Bail Out(適用例外)」できるとも規定しており、それ以降17の地方自治体等が各申請時点で過去10年間に差別的行為が認められなかったという証拠を提出し「Bail Out」の適用を受けています。
「1965年投票の権利法」に関連する最近のケースとしては、司法省はジョージア州で決められた、投票しようとする有権者の市民権をチェックする選挙関連手順法について、違法という判断を下しその実施を阻止しました。司法省の調査によると、「非米国市民」である疑い有りとして洗いだされた投票希望者7000人のうち半数は米国市民であったということが分りました。このような国籍チェックの結果最大の被害を被った(投票権を奪われそうになった)最大の犠牲者は黒人、ヒスパニック、アジア系米国市民たちであったことも判明し、「No-Match No-Vote」という方式で政府のデータベース上のソーシャルセキュリティー番号と住所、生年月日などのデータと有権者登録上のデータが「イニシャルやスペリングなどを含め完全に合致」しない限り投票を許可しないというシステムを設定した結果被害を被った有権者の多数がアフリカ系米国市民であったことも判明しました(2009年6月11日付「ニューヨークタイムス」論説)。同様のIDチェック手順が数年前に州民直接投票の結果法律となったアリゾナ州民としてもこのケースの成り行きは注目に値するものでした。非常に類似した法律でありながら、ジョージア州の法律が違法と判断された一方、アリゾナ州のIDチェック手順が違法でないのはなぜでしょうか。今後、アリゾナ州民もこの問題について注目すべきでしょう。