二重国籍

 

* 先回の記事中の文章の訂正:「現行憲法14条違反」は、「現行憲法修正第14条違反」と訂正させていただきます。
* 先回の記事に関する感想がいくつか「オアシス」編集局宛に寄せられたようです。その中の一つは、「パスポートやグリーンカードを常に携帯して歩くのは非現実的」という回答者(私)の意見に対する批判でした。「グリーンカードを携帯することは法律で決められていることを知らないで誤った情報を伝えている」というお叱りでした。このお叱りに対しては、次のように回答します。「グリーンカードの携帯は法律で義務付けられていますが、習慣としてみると、グリーンカード所持者の相当に高い割合が実際に毎日グリーンカードを携帯して歩かないという事実について言及したのです。私の知り合いでも常にグリーンカードを携帯しているという人は比較的少ないです。「紛失すると大変」と考えて大切に家に保管している人が多いのです。このような意味で「現実的でない」という表現をいたしました。ご理解いただければ幸いです。法律の条文に対する言及ではありませんでした。

今回は、日本と米国の二重国籍者に関係する少々怖いお話をいたしましょう。

最近起こった事例に沿ってお話します。あるアリゾナ州に居住する二重国籍者の方が米国外に旅行し、米国のある空港に戻ってきたときのことですが、移民局の係官に呼びとめられ別室に連れて行かれ数時間にわたって質問攻めに会うという事態になりました。ご本人は、米国のパスポートを持参していたので、何が問題なのか皆目わからず困っていました。係官の質問に対して「このパスポートは日本の米国大使館で発行されたものです」と申し立てましたところ、係官はコンピュータの画面を見ながら、なんと「あなたのパスポートは偽物に違いない。あなたのパスポートと同じ番号で別の人がパスポートを所持している」と主張するのでした。いくら説明しても聞く耳をもたなかった係官も、最初に許してくれなかった電話を本人に許した後に、友人が出生証明書をファクスすることにより、やっと釈放してくれました。

こんな酷い目に会ったご本人は、またいつ同じことが起こるかもしれないと恐怖を味わい、弁護士を通して当該パスポートの発行元である在日米国大使館の市民課に問い合わせをすることにしました。期限切れも近かった当該パスポートは更新してもらうことにより問題を回避できる可能性も高いと考えたのですが、やはり将来移民局のデータベースに「偽パスポートを所持していた疑いをもたれたことがあった」という記録が残れば再度空港で別室に連れて行かれ取り調べの対象になる可能性も無ではないかもしれないという心配のために、市民課への問い合わせをすることにしました。

弁護士が日本に国際電話をかけ、市民課の係官と話をすると、係官はデータベースにアクセスし、上記の方のパスポート番号を打ち込んでみました。すると驚いたことに、「ご当人のパスポート番号は偽ではないが、別のニュージャージーに住む女性が同じ番号のパスポートを所持している」というではありませんか。「そんなことがあり得るのですか」という弁護士の質問に答え、係官は「こういうことは以前にも数回あったのですよ。何らかの入力時またはいずれかの時点で間違いが起こり、パスポート番号が混乱してしまったのでしょう」というのですから本当にびっくりしました。パスポート番号という国民を一人一人識別するために国家が個人個人に与えた番号が混乱し入れ違いになってしまいそのままデータベースに保存されているなんて、そんなことがあり得るのか、というのが正直な感想でした。もちろん、間違いを引き起こしたの、パスポートを受領した本人ではなく、国の業務を行う担当役人(など)でした。しかし、その誤りの結果、酷い目に会い、他者の誤りの罰を受けたのはパスポートを発行してもらった国民だったのです。もちろんご当人に対して「こちらの誤りでした。ご迷惑をかけ(当人は酷い勢いで移民局の係官に怒鳴られました)申し訳ありませんでした」という言葉もありません。市民課の係官は、「パスポートを更新すれば、もう問題は起こりませんよ」と簡単にアドバイスをしてくれました。唖然としたというのが正直な感想でした。この方には、今後しばらくは念のため(更新された)米国パスポートとともに出生証明書(米国で出生)なども外国旅行の際には持参するようにというアドバイスをしました。

別の二重国籍者が経験した事件は、中国に旅行して戻ると米国に入国する審査の場面で移民係官に別室に連れて行かれ、これもまた取り調べの対象になり、数十分引きとめられ、質問攻めにされるという事態でした。この場合は、当人は中国に旅行するために日本人として中国に入国すると2週間まではVISAが必要ないが、米国人として入国するためには100ドル以上支払ってVISAを事前に申請する必要があったため、日本人として出国(中国の航空会社に日本のパスポートのみ提示)し、中国に2週間滞在し帰国したところ取り調べを受けるはめになってしまったのです。この場合の単純な誤りは、出国の際に米国人として出国した記録がないために、移民局の係官が「米国を出国した記録がないのに、外国から帰国するとはおかしい」という理由で取り調べを受けることになったのです。この場合は、出国の際に米国パスポートも提示し米国人として出国した記録を残すようにしなければならなかったというのが今後の教訓になりました。

以上の2例のように、二重国籍者にはそれなりに問題が起こりえるようです。もっとも米国パスポート番号が混乱してしまったという例は、二重国籍者ではない普通の米国人にも起こりえることです。

SB1070の実施も迫っています。町にいても、空港でも疑いをかけられればすぐに提示できる書類を携帯しなければ問題に直面するかもしれない状況となるため、今後はいずれにしても緊張感が高まりそうですね。しばらくの間、自分の身分を証明できる書類携帯は避けられないかもしれません。