ボリビア共和国憲法 その1


今回は、4-5月にかけて訪問したボリビア共和国についてご紹介しましょう。ボリビアは、世界で初めて原住民(インディヘナ)大統領エボ・モラレスが選出されたことで有名になった国です。ボリビアにおけるインディヘナの人口は50-60パーセントと言われ(正確には不明・・・国勢調査毎に調べてはいるが、自分をインディヘナと分類する人たちの数が微妙に変動するらしく)、スペインの植民地であったという歴史を反映して生粋の白人たちが社会の上層部を占め(過去においては100のファミリーが500年間ボリビアを支配してきたといわれている)、インディヘナの人々は植民地時代には社会の底辺で支配階級を支えた名残で現在でも経済的には社会の底辺を占めており、その中間にいわゆるメスティーソと呼ばれる両者の混血の人々がいます。少数ですが、植民地時代にアフリカから連れて来られた黒人の奴隷の人たちの子孫も存在します。しかし、その数はボリビアでもアンデス山脈中の4000メートル級の高さの酸素が薄い鉱山に連れてこられたこれらの黒人奴隷の大多数が過酷な環境下における厳しい労働に耐えきれず死んでしまったという理由で、こうした僅かに生き残った黒人奴隷の子孫たちは主にアマゾン密林地帯(低地)に移り住み、そこで現在まで生き残ってきたということです。

同じようにスペインやポルトガルの植民地であった南米の他の諸国を見ても、このようにインディヘナの人々が国民の多数派である国は他にはないということで、エボ・モラレス大統領の誕生もこのような人口構成を理由として初めて可能になったのでしょう。

そのような特殊な事情を持つボリビア、南米の中でも欧米化して白人やメスティーソの人々が大多数を占めるアルゼンチンをはじめ他の諸国の国民は一般にボリビアを「インディヘナが多く、遅れて、ぼーっとした人たちの国」と馬鹿にするのが一般的という話も聞きました。私の感想では、すばしっこくずるいという性格はあまりなく、素朴な人たちが多いという印象を受けました。なんだか日本の田舎の人たちとお付き合いしているような感じでした。タクシーの運転手さんも、優しく、礼儀正しく、丁寧で、観光客からできるだけ金を取ってやろうというような様子は皆目見られませんでした。

しかし、首都ラパスの街では頻繁にデモが行われ、一般の人たちはその度に交通渋滞が通行止めに直面する、つまり、町が機能しなくなるという場面になるのですが、スペイン語が理解できない私には何を主張してデモをしているのか皆目分からないことが多かったのです。ニュースでは、「今日はどこそこの地区には近づかない方がよい、デモがある」というような情報が飛び交っています。素朴でやさしい印象だが、自分たちの主張は堂々とする人たちなのだなという印象も受けました。このようにインディヘナの人々が権利主張をすることができるので、自分たちの代表としてエボ・モラレス氏を大統領に選ぶこともできたのでなと納得できるような気もしました。

大統領に選出されたエボ・モラレス氏が行ったこれまでに最大の影響力を持つ仕事は、2009年に行われた新憲法の制定・発布でしょう。この憲法は、ボリビアを複数民族が共存する多民族国であると規定しボリビア多民族国と国名も変更しました。このようなインディヘナの大統領を持つ政府はまた、ボリビアの国民の中で多数派を占めるインディヘナの人々の権利についても拡充して行く政策を採用しました。そのような基本的特徴を最大限に表現しているのが、この新憲法でしょう。2009年にこの新憲法草案が国民投票にかけられると、有権者の60パーセント以上の賛成を得て新憲法として成立しました。以下に、この新憲法の特徴の概要を見てみましょう。

1.土地の所有制度:国有、私的所有、協同組合、共同体という4つの土地所有形態が認められており、私的土地所有は12,400エーカー(5000ヘクタール)を限度としています。共同組合と共同体という、インディヘナの人々の間に多く見られるこれらの所有形態を正式に明記して認めたということでしょう。

2.政治行政自治体としては、それまでの地方自治体とデパートメントと呼ばれる州に類似した地域単位に加えて、新たにインディヘナ共同体および地域(Region)を自治体と認めました。

3.全ての選挙で選出された者がリコールの対象となると規定しました。

4.裁判官を以前の議会による任命ではなく、選挙により選出されるものとしました。

5.自然資源をボリビア国民が専有するものとしそれらの資源は国家政府が(国有)管理するものと規定しました。

ボリビア共和国憲法 序文

ユニークかつ感動的な序文なので、その全部を英語訳から訳してみました。

「太古の時代、山々は隆起し、川は流れを変え、湖ができた。アマゾン川、平地、高地や平原、谷には花が咲き乱れ、草が青々と茂っていた。この聖なる母である大地には多様な異なる顔を持った人々が住むようになり、その時からすでに我々は、全てのものに存在する多様性、人も文化もそれぞれ異なるものであることを理解していた。そして複数の民族が形成され、人々は宿命的な植民地時代の苦しみに直面するまで人種差別など知らなかった。

多数の民族からなるボリビアの人々は、このような歴史の物語の深みから、過去のインディヘナの人々によるによる反植民地抵抗運動、独立運動、人々による自由解放闘争、インディヘナまたは社会的および労働組合解放運動による多くのデモ行進、水をめぐる10月闘争、土地や領土を求める闘争などの過去の戦いからインスピレーションを得て、そしてまた過去の闘争において殉死した者たちを思い起こしつつ、新しい国家をここに樹立する。

新たに樹立される国家は、全ての人々への尊敬と平等主義に基づき、国民主権、誇り、相互補足性、団結、調和、社会的生産物の配分および再配分における平等を原則とし、国民の安寧を最大の目標とする。すなわち、この国家においては、この地に暮らす人々の経済的、社会的、法的、政治的、および文化的多様性を尊重し、全ての人々が水、仕事、教育、健康および住宅を手にし、共同のコミュニティとして生きることができるようにする。

過去において、我々は植民地政府、共和国および新自由主義的国家を経験しがしたが、今それらを離れ、共に協力して、共同体的多民族法に基づく社会統一国家を樹立する挑戦に立ち向かう。この新たな国家は、民主的かつ生産的なボリビアという国を造るという目的を統合し明確に表現し、また平和を推進・奨励し、多民族間で統合された開発と多民族それぞれの自己決定を実現する。

我々女性と男性(訳者注:女性が先となる順序に注目)は、議会を通じてまた人々が有する固有の権限に基いて、この国家の統一性と統合性への我々のコミットメントをここに表明する。

我々は、母なる大地(パチャマンマ)の力を借り、また神に感謝しつつ、我々多民族国の国民の意志を実現しつつ、ここにボリビアという国を再樹立する。

この新たな歴史を可能にしてくれた、自由解放闘争において殉死した人々および有権者たちの偉業に名誉と光栄を」

この序文を読んだ時、最初に頭に浮かんだのは、インカ帝国以前にチチカカ湖に近い高原地帯に築かれていたティワナク文明の遺跡を訪れた際に見た半分地下に沈んだ神殿らしき建物の中の四方の壁から突き出ていた多様な石造の顔たちでした。それぞれの顔は多様で一人一人が表情豊かで、顔だちを見て行くとどうも異なる民族の人たちの顔だなと思わせるだけの多様性がありました。紀元前から西暦1000年前後位までの間に人々が住んだと思われいるこの遺跡の神殿か集会所のような建物に飾られていた多様な民族のまたは様々な表情を持った人たちの顔。一つ一つ見て行くのが大変面白かった表情豊かな顔たちでした。何の目的でこんなに多数の異なる顔を集めて表示したのか、とその時は不思議に思ったのですが、新憲法の序文を読んだ後では、ああ、この時代にすでに同序文が明記する「この聖なる母である大地には多様な異なる顔を持った人々が住むようになり、その時からすでに我々は、全てのものに存在する多様性、人も文化もそれぞれ異なるものであることを理解していた。そして複数の民族が形成され、人々は植民地時代の苦しみに直面するまで人種差別など知らなかった」と叙述される意識で人々は互いを認め合い暮らしていたのかと納得ができた思いでした。

次回には、新憲法の内容をもう少し詳しく見てみましょう。

注:今回参照し、序文を日本語に訳したボリビア多民族国新憲法は、Apuntes Juridicosに掲載されたGeorge Couthbertによる”Text of Political Constitution of Plurinational State of Bolivia”という記事中に英語で記載されていたものです。