ボリビア共和国憲法 その2


ボリビア多民族国憲法 その2

先回に続いてボリビア多民族国憲法について個々の条項を参照しながら考えてみることにします。

第一条を見ると、ボリビアは多民族的憲法、自由、独立、主権、民主的、多文化、分散化および自治を原則とする社会的に統合される国家であり、政治、経済、法律、文化、言語についても多様性に基づくものであるとしています。

第二条を見ると、原住民であるインディヘナの人々の存在が規定されています。スペイン人により植民地化される以前のインディヘナの社会をそれぞれの先祖が居住していた地域ごとに農業を営む多様な民族から構成される社会であったと歴史的な事実を踏まえ、当新憲法の下で、これらのインディヘナの人々はボリビアという統一国家の中でそれぞれの地域領土において自律、自治、独自の文化、社会的組織を保証されると規定しています。

第三条は、ボリビア多民族国の構成員を、ボリビア人の男性と女性、インディヘナの農業多民族グループの人々、多文化混合、アフリカ系ボリビア人コミュニティーの人々としています。

第四条は、ボリビア多民族国の公式な言語として、スペイン語およびアイマラ、オラオナ、ナウレ、ベシロ、カニチャナ、カユババ、チャコボ、チマン、エセ・エイヤ、グワラニ、グワラスウェ、グワラユ、イトナマ、レソ、マチャフヤイーカラワヤその他の言語を含む、全てのインディヘナの民族の言語としています。

第五条では、さらに詳しく、全ての多民族国中央政府およびデパートメント(州)政府機関およびその他の自治政府はスペイン語と共に少なくとも2つの公式言語を使用することを義務づけています。スペイン語とその地域または民族の主な言語という組み合わせです。

第九条では、国家(政府)の目的と機能が規定されています。
1.脱植民地化に基き、差別と搾取のない、社会的正義を伴う公正で調和のとれた社会を築き、多民族それぞれのアイデンティティを強化する。
2.国民、各民族、町、コミュニティーの安寧、発展、安全、保護、平等な尊厳を保証し、相互の尊敬、各文化の内部、文化間相互および多言語間の対話を奨励する。
3.国としての統合を再確認し強化し、さらに多民族の多様性を歴史的および人類の遺産として保持する。
4.当憲法において規定され樹立された原則、価値、権利、義務が実現されるよう保証する。
5.国民の教育、健康および労働へのアクセスを保証する。
6.自然資源の合理的かつ計画的な使用を推進・保証し、異なる次元とレベルにおける生産ベースを開発・強化することによりそれらの資源の産業化を奨励すると同時に、現在と将来の世代の安寧のために環境の保全する。

第十条は、ボリビアが平和国家であり、地域の人々(国々、諸民族)との協力を奨励し平和の文化と平和への権利を推進すると宣言しています。またボリビアは国家間の差異や紛争解決の手段として攻撃的戦争を認めないが、同時にボリビアという国家の独立と統合を破るような攻撃を受けた場合には合法的な防衛する権利を留保するとしています。外国の基地をボリビア領土内に設けることを禁止しています。(日本には米国の基地が各地に存在することを思い出しました)

第十一条は、ボリビア多民族国の国民が国政に参加する方法・手段を規定しています。
国政への参加は、民主主義的、参加的、代表制およびコミュニティ方式によるものとされ、具体的には、国民投票、国民による提案議案制などによる直接参加と、直接・無記名(秘密)投票普通選挙により議員を選挙する議会制による間接参加がありますが、特筆すべきは、第三のカテゴリーとしてコミュニティー方式による参加が挙げられていることです。この方式ではインディヘナ民族グループごとの独自の選挙、任命などの方法によるリーダーや代表の選出による参加です。すなわち、国民が全て同じシステムの下で国政に直接参加したり、選挙で代表を選出するのではなく、それぞれの民族において伝統的に実施されてきたリーダーシップや代表選出の制度も独自に尊重されるという点が際立っています。

第十四条は、性別、肌の色、年齢、性的オリエンテーション、性的アイデンティティー、出自、文化、国籍、市民権、言語、信仰、イデオロギー、政治的または哲学的所属、結婚・未婚、経済的・社会的状況、職業、学歴、障害の有無、妊娠の有無、などによる差別を禁じています。

第十五条は、全ての国民が生命および身体的、心理的および性的健全性を保持する権利を有し、拷問、残虐で非人間的、尊厳を損ったり辱めを受けない権利を有する、死刑は禁止すると規定しています。特筆すべきは、全ての国民、特に女性は、家庭および社会において身体的、性的または心理的暴力により苦痛を経験しない権利を有すると明記されている点です。強制的サービス、奴隷制、人身売買を禁じています。

第十六条は、全ての者は水と食物を得る権利を有すると規定しています。この条項を読み、ボリビアの人々が水道の私有化に反対して強力なデモを行い、最終的に私有化計画を反故にした歴史があることを思い出しました。また現在ミシガン州デトロイト市において、公共機関である水道局が水道料金未払いの顧客に対して水供給を止めるという行動に出たという報道を思い出しました。デトロイトの場合も、水道局が水供給を私企業化する計画があるとされています。第十六条は、政府が食料セキュリティ(食物の供給)の義務を負うとしています。

第十七条は、全ての者が全てのレベルの普通教育を受ける権利を謳っています。

第十八条は、全ての者が健康への権利を有すると規定しています。政府は全ての者に例外なくまた差別なくヘルスケアへのアクセスを提供することを義務づけています。

第十九条は、全ての者が住居を得る権利を謳っています。

第二十条は、全ての者が飲料水、下水、電気、家庭用ガス、郵便、通信などの基本的サービスへのアクセスを得る普遍的、公正な権利を有すると規定しています。水と下水へのアクセスは人権であり、これらのサービスは権益として第三者に付与されず、私有化もされないと宣言しています。

第二十一条は、ボリビア多民族国の国民が自分の意見をいずれのコミュニケーション手段によるものであれ、自由に口頭、書面、ビジュアルな方法で個別的または集合的に表現し広める権利を保証しています。また国内での移動の自由と出入国の自由を保証しています。
この憲法の発布より以前の時代にもボリビアの国民はデモを頻繁にすることで自らの政治的信条や社会や政策に対する不満や反対を表現してきました。現在でも、頻繁にラパス(実施的政治的首都)市内ではデモが起こり、その度に町の交通がマヒするという状況に出会います。

選挙への参加は普通選挙制度であることは上記に述べましたが、特筆すべきは、第二十七条に規定する外国人の地方自治体選挙への参加権でしょう。日本でも在日外国人の地方選挙への参加の問題は近年議論されるようになりましたが、まだほとんどの自治体について実現していません。ボリビアはこんな領域でも、先進的であると言えましょう。

多民族国としてのボリビアは、原住民であるインディヘナの人々を特別に尊重・保護する規定を憲法の中に設けています。第三十条は、スペイン人による植民地化以前には農民であったインディヘナの各民族(全部で36の民族が認知されています)は、文化的アイデンティティ、言語、歴史的伝統、組織制度、領土および宇宙・世界観を共有し、植民地化以前から存在していた集合的なグループとして認められており、下記の権利を有するものと宣言されています。
1.自由に存在する権利
2.文化的アイデンティティ、独自の信教、精神性、実践、伝統慣習、宇宙・世界観を持つ権利
3.ボリビアの市民権を有すると同時に各文化的グループの一員として登録簿、パスポートその他の身分証明書に登録する権利
4.自己決定と領土的権利
5.自らの組織・制度をボリビア多民族国の国家構成の一部とする権利
6.集合的に土地および領土を耕作する権利
7.各民族の聖地を保護する権利
8.独自のコミュニケーション(通信)システム、手段、ネットワークを創設する権利
9.独自の伝統的知識、知恵、伝統的医療、言語、祭礼、シンボルおよび衣類(衣装)に対して価値を付与され、尊重され、それらを推進する権利。
10.健康な環境において適正なエコシステムの取り扱いと使用と共に生きる権利
11.独自の知恵、科学、知識についての知的財産権を有し、かつそれらに価値を付与し、推進、開発する権利
⒓.教育制度の全てにおいて、独自の文化内、文化間、および多言語教育を受ける権利
13.独自の宇宙・世界観や伝統的システムを尊重する普遍的かつ無料のヘルスケア制度への権利
14.独自の政治、法律および経済的システムを自らの宇宙・世界観に従って実施する権利
15.自らのコミュニティーが影響を受けるであろうと予測できる立法および行政上の制度変更が行われる際に、事前に適正は方法により、特にそれぞれの独自の制度に従い相談を受ける権利。この権利については、特に、再生不能な自然資源を各民族グループの領土内の土地から採取する際に、政府側の義務付けている。この条項を見て、米国内で現在問題になっている石油や天然ガスの採取に関して、例え自分の土地の地下で行われることであっても土地の所有者が石油やガスの採掘業者から何ら事前の相談を受けないし、なんらかの被害が生じても損害賠償の権利を必ずしも保証されておらず泣き寝入りになりがちであることを考えると大きな差です。
16.自らの領土内の土地から採取された資源から得られる利益を分割取得する権利。
これも、例え土地の所有者であっても、その権利は地上権に留まり、地下の資源に対して全く無権利状態の米国の例と比較すると、米国の法律がいかに企業側(資源採取する主体)にのみ有利な法律として存在するかということが明白です。ボリビアの憲法は、その土地に暮らす住民優先となっています。
17.独自の自治の対象となる領土における行政の権利、特に第三者が合法的に購入した権利に関わらず、独自の領土内の土地に存在する再生可能自然資源の使用と排他的管理の権利。これも資源をその土地に暮らす住民が意思決定し管理する権利を有するものと明確に規定している点で大変ユニークです。
18.ボリビア多民族国の国家組織・制度に参加する権利

第四百十一条まであるボリビア多民族国の憲法、全ての条項を解説することは不可能ですが、特に、他の国の憲法には見られないであろう特異な条項について考察してみました。また日を改めて、別の興味深い条項についても考えてみたいと思います。

ボリビア旅行中、いわゆる農村地帯、田舎を自動車で走る機会がありましたが、途中の景色で際立っていたのは、貧しい農村地帯の至るところに新しく学校が建設されていたことでした。村々で最も大きな、立派な建物はしばしば中学校や高校でした。ラパスの街で見かけた子供たち、特に中学生や高校生たちは、送り迎えの親たち(多くが原住民にインディヘナの女性の独自のファッションである幾重にも重ねたロングスカートにユニークな帽子を被ったチョリータと呼ばれる女性たち)よりも数段背も高く、体格も立派でした。次世代の子供たちが大切にされていることが伝わってきました。

最近のニュースでは、ボリビア政府が12歳以上の児童による労働を「親の監督下にあること、学校に通学していること」などを条件として許可したという報道もありました。これは先進国では一般的に禁止されている児童労働を認めることになるため、異論も様々あったようですが、子どもたちが家計に貢献しないと家族として生存できない人々もまだ多数存在するという現実に直面し、政府が妥協したとみることもできるでしょう。憲法の条文に最低生活の基本である水、食料を確保するのは国家の義務、また国民は教育を無料で受ける権利がある、住宅を保持する権利があると規定しても、現実としては中央政府はまだそれを実現するだけの力がないと評価することもできるでしょう。

そのような現実があるとしても、新憲法にここまで明確に国民の権利、政府の義務を規定しているという事実は、国としての基本的な方向性を示すという意味で、それなりに大きな意味があるのではないでしょうか。石油、天然ガス、銀、すず、銅、レアメタルなどの資源、また広大な国土(カリフォルニア州とテキサス州を合わせた大きさ)における農業の可能性など、ボリビア多民族国家の将来は期待できるのではないかと思います。10年後に再び訪ねてみたらどんな国になっているでしょうか。興味が湧きます。