破産法改正案について
今回は、現在議会で最終的な法律の成立に向けて調整中の破産法改正の要点について説明しましょう。
今年3月に下院では306対108票の差、上院では83対15票の差で相互に類似した「破産法改正案」が通過し、現在上・下院間の調整委員会で最終的な法律案をまとめているところです。この破産法改正は、「第7章破産」があまりにも簡単にできてしまい、債務返済を逃れる消費者が多いこと、「第11章破産」で簡単に破産し債務を逃れるビジネスが多いことを理由として議会に提出されたものでした。
1970年代以降、米国ではクレジットカードの普及率が次第に高まりました。1970年には、米国民の約15パーセントがVISAやマスターカードというようなクレジットカードを所有していましたが、1983年にはその率は43パーセントになり、1998には68パーセントになりました。また18才から25才の学生の4人に1人が少なくとも4枚のクレジットカードを所有しているというデータもあります。クレジットカードの普及につれ破産する人の数も増えてきました。「米国破産研究所(American Bankruptcy Institute)」の情報によると、1999年には1300万人の人々が個人として破産を申請しました。ここ1、2年は好景気で個人の破産数は減少していたのですが、今年はその数が増加するという予測もあります。
今回の法改正の主なねらいは、消費者による「第7章破産」をより困難にし、より多くの人々が「第13章破産」をする方向に向かわせるためです。以前の破産に関する記事で憶えていらっしゃることと思いますが、前者は清算破産(つまり借金は帳消しになる)であり、後者は一定の期間収入の中から一定額を返済する計画を立て実行させるものです。つまり、今回の法改正が成立すると、一般の消費者が破産する場合により厳しい条件の下でしか「第7章」破産が選択できなくなり、多くの場合に「第13章破産」による返済を強制されることになるわけです。債権者にとっては、債務の「取りはぐれ」を少なくするというメリットがあります。
第7章破産から第13章破産へ
具体的にはどのようにして「第7章破産」の申請者を「第13章破産」のカテゴリーに振り向けるのでしょうか。上・下院両方の法案において、財務状況を分析するテストが適用されます。それぞれの地域ごとに月平均の収入、住宅ローン支払い、家賃、食費、衣料費、交通費、娯楽費などが設定されたガイドラインがあり、それに従って「どの位の額が債務返済に振り向けられるか」が決定されるような枠組みになっています。場合によっては、平均より高い住宅ローン支払いや家賃を抱えている者が家を売らなければならなかったり、より家賃の安い住宅に引っ越さなければならないこともあります。このような計算をして5年間の「剰余所得」が1万ドルを超える場合は、「第7章破産」の対象からはずれます。つまり、残る選択肢は「第13章破産」か破産による保護を受けないかのどちらかになるわけです。
弁護士による証明
今回の法改正により提案される大きな変化の一つは、破産を申請する者についての財務状況を担当する弁護士が証明するという要件ができることです。担当の弁護士は自ら証明した財務状況報告書が虚偽の記述を含む場合に民事罰則の対象になることになります。このような新しい規定は、弁護士により注意深いサービスを要求することになり、罰則を恐れて弁護士が関与することを避けようとするケースが増えると予想されます。弁護士の中には「破産」関係のサービスを提供することを止めてしまう者もあるでしょう。これは、破産を申請したいと望む消費者にとっては、なかなか担当してくれる弁護士が見つからない、という不便をもたらすこともあるでしょう。最終的に成立する法律がこの点についてどのように規定するか注目する必要があります。
債権者による挑戦
新法案が成立すると、債権者の権利は一層拡大されます。上記の財務状況テストの結果に対しても、債権者の側で挑戦・抗議できるようになります。また「第7章破産」ではなく「第13章破産」が適用されるべきであるという主張の下に裁判所に対して審理を求める権利を与えられることになります。
ホームステッド例外
破産法は米国連邦法ですが、州毎に「ホームステッド例外」というかたちで破産管理上の例外が設けられています。アリゾナ州はこの例外額が10万ドルであることを憶えていらっしゃる方もあると思いますが、州によってはフロリダ州やテキサス州のように上限額が設定されていない場合もありました。これまでの破産法の下では、これらの州では大富豪が破産して数百万ドルの豪邸に住み続けている、つまり売却して債務の返済をすることを合法的に逃れているという債権者の側からまた社会的に見ると明らかに「不当」な保護が存在しました。破産寸前に資産をかき集めてフロリダ州に数百万ドルする豪邸を買い債務返済義務を逃れるような「賢い」富豪破産者もありました。
今回の法改正は、このような「悪知恵」を働かせる余地をなくそうとするものです。今回の法改正では、ホームステッドの例外上限額を上院案では12万5000ドル、下院案では10万ドルと規定しています。アリゾナは現在既に上限値が10万ドルですから、影響はないことになります。
年金積み立て例外
みなさまは、民事訴訟で敗北したO.J.シンンプソンが元妻の家族に対して裁判所が支払いを命じた賠償金の支払いから彼の1月数万ドルという年金支給額およびその積み立て済み原資に関して適用除外措置を受けていたことを憶えておいででしょうか。従来の破産の場合も、年金については例外として適用除外されていましたが、今回の法改正では上限額が100万ドルまでと規定されています。つまり、数百万ドルの年金積み立てが存在する場合は、100万ドルのみを例外として、それ以外の剰余額は債務の返済に充当されるということになります。上限値は、通常のIRA口座の残額にも適用されます。しかし、新法案でもいわゆる401Kからの収入は適用除外となっています。この点に関しては、年金積み立て額が100万ドルを超える相当に裕福な人々にのみ関わる問題ですが。
養育料・配偶者扶養料
新法案の下では、離婚した者が支払っている子供の養育料、元配偶者への扶養料は一定の優先順位を得ます。つまり破産管財人の費用、その他の管理費より高い優先順位ですが、滞納した税金の支払いに対してはより低い優先順位となります。つまり、破産法の下で抵当に入っている家を売却した場合、売却からの収入はまず滞納した税金の支払い、そして子供の養育料、元配偶者への扶養料などを支払い、その後破産管財人費用、管理費用、その他の債権者への支払いに回されるということになります。
カウンセリング要件
新法案では、破産申請者は実際に破産を申請する前に「債務カウンセリング」を受けることを義務付けています。つまり、実際に「債務カウンセリング」を受けたという「宣誓書」に署名し破産申請と同時に提出することが求められます。
簡単に今回の破産法改正案の重点をまとめてみました。最終的に法律として成立する内容、その影響についてはまた別の機会に解説します。
では厳しい夏の暑さ、モンスーンの嵐に負けずにお楽しみください。
(今回の参考資料:モA New Chapterモ pp.46-50, ABA Journal, July 2001