選挙改正法


今回は最近アリゾナ州上・下院を通過した(2006年6月20日成立)選挙に関する改正法について考えてみましょう。この法律はSB1557という法案として議会に提出されましたが、上院を賛成・反対票25対3で、また下院を51対0という圧倒的多数で通過し、すでにナポリターノ知事が署名し正式に法律として成立しました。
ご存知のとおり、前回(2004年)の大統領選挙の際には、多くの州で採用された投票機器による投票および票集計に問題が起こったことが指摘されました。その中でも多くの投票機器では有権者の投票の結果の物証(紙に印字された投票結果など)がまったく存在しないために、選挙結果に問題があるという疑いがあっても真の意味で再集計して、投票結果が正しかったか否かを確認できないという状況が起こりました。
今回成立した法律は、このような問題に対処しようとするものでした。主な改正点を見てみると、これまでは法律で禁じられていた人間の手による再集計(票の数えなおし)を行う道を開いたことを挙げることができます。また、投票所によっては有権者の待ち時間が極めて長くなったという前回の選挙の際の問題を改善するために、選挙管理者に事前に各投票所毎の有権者数を確認し待ち時間を計算し適正に対処することを義務づけました。
人間の手による票の数えなおし
今回の法律の成立により、今後は全ての選挙投票後、それぞれの郡が無作為に選択した4つの選挙(大統領選挙がある年には大統領選挙も加える)について投票区の少なくとも2パーセントを無作為に人間の手によって数えなおし(投票終了後24時間以内に数えなおしを開始)、その結果を投票機による集計結果と比較して統計的に有意な差が示された場合は、もう一度人間の手による票の数えなおしを行うことになりました。二度目の人間の手による集計と投票機による票集計結果に再度統計的に有意な差が見られる場合は、投票区の数を2倍にして再び票の数えなおしを行います。その結果も再度統計的に有意な差を示した場合は、郡全体の票を数えなおすという手順を設定しました。
投票結果の紙への印字
先回の大統領選挙では、アリゾナ州も含め多くの州で投票結果を確認する物証(印字した紙など)なしの投票機での投票が多くなりました。今回の法改正の結果、投票機による投票結果を比較的短期間に印字が消える可能性がある熱転写用の紙ではなく、通常の紙に印字するという規定が新たに設けられました。投票者が投票後この印字された紙を見ることにより自分が投票した結果が正しく印字されたか否が確認できます。確認後は、この紙を透明で安全が確保された箱に投入し、記録として残すことになりました。もし、投票者の投票結果と印字された選択が異なっている場合は、その有権者は、再度投票する権利を与えられます。透明な箱に収納された紙に印字された投票結果は、後に人間の手による票の数えなおしをする際に使用されます。
待ち時間の調整
新法では、セクレタリー・オブ・ステート(州務長官)が投票所において有権者が投票するまでの最長待ち時間を規定し、事前に有権者の数を確認し各投票所における待ち時間がその最長待ち時間を超えないようにする義務がある、としています。そのような措置を取るためには、州務長官は、前回の選挙における投票者数、登録有権者数、選挙管理者や事務官の数などを計算して最長待ち時間を決定するための参考にすることになりました。先回の大統領選挙の際には、オハイオ州などで特に少数民族や大学生の有権者が多い投票所で有権者が雨の中8時間以上も待たされたなどという状況があったようですが、今回の法改正でそのよう事態が起こらないように予防的措置が設定されました。
投票機のコンピュータ・プログラムを州務長官に提出
先回の大統領選挙の際には、投票機のハッキングにより投票結果が変更された可能性についての疑いが起こりました。しかし、投票機製造業者がコンピュータ・プログラムの専有権・知的所有権などを理由に開示を拒否したために、プログラムの欠陥またはハッキングや不正操作の有無を確認することができませんでした。しかし、その後のカリフォルニア州当局などによる実験の結果、投票機のセキュリティが甘く、モデム通信や無線通信などの普通の通信手段を介して簡単にハッキングが可能であり、選挙結果を変えてしまう(当選者を入れ替えなど)ことができることが分かりました。今回の法改正により、投票機を製造した会社は投票日の10日前までにそのプログラムを州務長官に提出する義務を負うことになりました。提出されたプログラムは、安全な場所(エスクロー)に3年間保管され、選挙結果に問題があった場合には調査の対象とすることができるようなシステムができました。3年間の保存期間が終了した時点で州務長官は、これらのプログラムを破壊する義務を負います。
票集計確認委員会(The Vote Count Verification Committee)
改正法は、州務長官に自らの下に遅くとも2006年の予備選挙投票日の30日前までに票集計確認委員会を設立しその7人の委員を任命することを義務づけています。これらの7人の委員の構成としては、一つの政党から3人より多くの委員を任命してはならないという規定を遵守して任命されます。委員には、数学、統計学、任意選択法、システム・オペレーション、投票制度などの専門家を任命することになっています。委員は、過去5年間投票機の製造業者に雇用されたりそれらと関係を有していてはならないという規定もあります。これらの委員たちは、費用の立替分の払い戻しを受ける権利を有するほかは、無給でその任務を果たし、委員会として再集計を義務付けるための投票集計の差を定義する役割を与えられています。
問題点
今回の改正は、コンピュータ投票機による投票結果を人間の手により数えなおす道を開き、選挙結果をより信頼性の高いものにするという意味では一歩前進として評価できますが、いくつかの問題点もあり今後さらに改善する余地を残しています。まず、第一の問題点は、票の数えなおしが投票機による直接投票の集計のみを含むという点です。実際の投票は、投票機による投票の他にも、一時的仮投票、EARLY VOTINGと呼ばれる投票日より前の時機における投票、投票日当日に誤った投票所で投票してしまったため、身元確認がその場でできなかった場合などに使用される仮投票用紙(Provisional Ballot)による投票などがあります。しかし、投票機による直接投票の結果のみが人間の手による再集計の対象となるという規定になっているため、多くの票がどのような状況であっても再集計の対象にならないという点です。これは、議会でこの法案を通過させるために行われた数々の議論と妥協の結果といえますが、この規定により、せっかくの数えなおし制度もその威力を減少させられたといえるでしょう。今年の予備選挙、11月の議会選挙においてこの改正法による制度が適用されることになりますが、実際にはどのような役割を果たすのか注目されます。