偽の結婚届を出されたら


今回は実際に相談を受けた例に沿って日本で偽の離婚届けを出された場合についてお話ししましょう。みなさまご存知のとおり、日本では合意による離婚(協議離婚)である場合、区・市役所などに離婚届けを提出することで離婚が簡単に成立します。本当に配偶者間で離婚をするということ、親権などの条件についても合意が成立している場合は、アリゾナ州の場合のように配偶者のどちらかが離婚訴訟を起こさないと離婚できないという制度と比較すると、離婚届けの提出という行為のみで離婚が成立するため、費用もほとんどかからず、簡単に即日離婚できるというメリット(?)があります。

しかし、区・市役所の窓口の担当者は、この離婚届けなる書類については形式的に必要な項目が記入されているか、署名欄に各配偶者の署名があるかなどをチェックするのみで、形式が整っていれば、それ以上調査することはありません。つまり、配偶者のどちらかが勝手に離婚届けの各項目を記入し合意を得ていないもう一方の配偶者の偽りの署名を記入して提出しても、形式が整っていれば、実際に両方の配偶者が合意したのかという事実関係の調査やチェックなどは一切せずに離婚届けを受理してしまい、離婚したという「事実」を戸籍に反映させます。親権などについても、偽って離婚届けを提出した当事者である配偶者が自分に都合がよい内容を書き込んでいた場合でも、形式的には離婚が成立しその事実と親権者を戸籍に記入してしまいます。そして、その戸籍は偽りの離婚届けを基礎に記入されたものでも、公式な「離婚が成立し、親権者はXX」という身分関係を
証明する書類として裁判所(外国の裁判所も含む)などで証拠書類として提出され、離婚届けを偽って提出した配偶者に有利な条件を引き出すために利用できるのです。

今回相談を受けたケースは、明らかに本人の署名とは異なる偽の署名を記入した離婚届けを日本で一方の配偶者(妻)が提出し、アリゾナ州で夫が起こした離婚訴訟の経過の中で妻が日本から取りよせた戸籍のコピーを裁判所に提出しして「日本ですでに離婚が成立しており、親権は母親」との記載を示し、アリゾナで進行中の離婚訴訟において裁判所が「当件の両当事者はすでに日本で離婚しており、親権も決定済である。。。故にアリゾナ州裁判所は本件離婚について裁判管轄権を有しない」と訴訟そのものを却下するという判決を勝ち取ろうとしました。現在の状況としては、まだアリゾナ州の裁判所が結論を出していないまま両当事者は待っているという状況です。

さて、アリゾナ州の裁判の行方とは別に、偽の離婚届けを出されてしまった日本においては、どのような対抗措置が可能でしょうか。

前述のとおり、区・市役所では一度離婚届けが出されてしまえば、形式的に離婚は成立してしまいます。その後「先日提出された離婚届けは合意に基づいておらず、署名は偽の署名である」と申し立てても一切取り合ってくれません。一度「離婚が成立」してしまうと、区・市役所の取り扱いではなく、最寄りの裁判所において「離婚届けは偽りの署名に基づいており、実際は一方の当事者が合意しておらず離婚は成立していない」ということを証明して離婚が無効であることを主張して争う必要があります。今回のケースでは現在両当事者がアリゾナ州にいるため、日本の弁護士に相談したところ、相手側が日本にいないので訴状を送達できないため訴訟を起こすことも困難であるという回答を得ました。実際はハーグ条約に従って裁判所や外交ルートを介して相手側に送達することは可能ですが、裁判を起こしてから送達するまでに数か月を要する可能性もあるため、簡単ではありません。

アリゾナの裁判所が当離婚訴訟を「裁判管轄権なし」という結論で却下した場合は、日本で一から出直して離婚届けが無効であることを裁判所で争うことから再出発しなければなりません。その間「離婚は成立済、親権も一方の親(母)で決定済」という偽りに基づいた結果が大きく影響する状況が続きます。

そのような結果になった場合、そして子が母により日本に連れ戻された場合、ハーグ条約による「子の誘拐」のケースとして父が米国への連れ戻しを要求するという手段も可能性として残されていますが、いずれにしても、大きな経済的負担と時間がかかります。

日本の離婚制度として、簡単に相手側の署名を偽ったり印鑑などを不正に使用することで簡単に離婚が少なくとも形式的には成立してしまうという現在の「届出による離婚」を考え直す時が来ているのではないでしょうか。