今回は、今年の6月に出た移民法と刑法との関わりに関連する米国最高裁判所の判決について考察してみました。刑法上の問題を抱えた外国人が移民法上どのような扱いを受けるかについて、以前に「オアシス」で解説しましたが、ここでもう一度復習してみましょう。
米国に住んでいる外国人はそれぞれ滞在許可を得ているわけですが、滞在期間中に犯罪を犯したり、犯罪に巻き込まれたりして国外退去になる場合があります。また、外国から米国に入国しようとヴィザ(査証)を申請しても許可にならない場合があります。いわゆる「ヴィザなし」で入国を許可されている日本からの観光客も時によっては、この問題に巻き込まれることがありますのでご注意ください。
ヴィザが発行されないまたは入国が許可にならない外国人としては次ぎのようなカテゴリーがあります(8 U.S.C. 、 1182)。
1) 健康上の理由:この中にはエイズなどの感染症、精神病にかかっている者などが含まれます。
2) 特定の犯罪に関して有罪判決を受けた者:この中には「道徳的に邪悪な」犯罪に関連して最大限で365日以上の刑期になりうる犯罪で有罪判決を受けた者が含まれ、「加重重罪犯(Aggravated Felon)」は特殊なカテゴリーとされます。
3) 複数回有罪判決を受けた者:この中には、重罪でなく軽犯罪でも数回有罪判決を受けた者が含まれます。
4) ドラッグ所持・販売などで有罪判決を受けた者:米国以外の外国でドラッグに関連して有罪判決を受けたことがある者も含みます。
5) 売春:売春の目的で入国しようとする者、売春をさせる目的で外国人を入国させようとする者などが含まれます。
6) 180日以上かつ1年より少ない期間違法に米国に滞在した者:自主的に国外退去した場合には、3年間は米国に再入国できません。1年以上不法滞在した者は自主的に退去した後、10年間は米国に再入国できません。
入国が禁止されるカテゴリーとしては他にもテロリスト活動をする者などが含まれますが、ここではこのリストか全てを網羅するものではないことに留意してください。
米国内にすでに滞在していて退去命令の対象になりうるいくつかの例としては、次ぎのようなものがあります(8 U.S.C. 、 1227)。
1) 偽装結婚による入国許可の取得者。
2) 入国してから5年以内に「道徳的に邪悪な」犯罪で有罪となり365日以上の刑執行の可能性がある者。(永住許可所有者の場合は、入国から10年以内に同様の犯罪で有罪となった者)。
3) 「道徳的に邪悪な」犯罪で複数回有罪となった者。
4) 入国後いずれの時点であれ「加重重罪犯(Aggravated Felon)」として有罪となったもの。
5) 入国後、外国での場合も含み、ドラッグ関連犯罪で有罪となった者。(30グラム以下の自己消費用マリワナ所持の初犯の場合を除く)
6) 入国後ドラッグ使用者、または中毒者となった者。
7) 入国後違法に銃その他の武器を購入、販売、販売申し出、交換、使用、所有、所持、運搬した、または同購入、販売、販売申し出、交換、使用、所持、運搬しようと試みたまたは謀議したという容疑で有罪となった者。
8) 入国後家庭内暴力(夫婦・親子間、同棲者間など)、ストーキング、児童虐待、児童遺棄で有罪となった者。
9) 入国後保護命令(Protection Order)に違反した者。
10) 入国後5年以内に生活保護など国の資金援助を必要とするようになった者で正当な事情があることを示すことができない者。
上記は、具体的には「酒酔い運転」で重罪判決を受けたような場合、窃盗、ドラッグの所有のみでも2度以上有罪判決を受けた場合、10,000ドル以上の脱税、偽証罪、未成年者に対する性犯罪、家庭内暴力、詐欺などで365日以上の刑期となりうる場合などが含まれます。Aggravated Felonとして有罪判決を受けた者または「有罪であることを自ら認めた者(いわゆるPlea Bargainの対象者を含む)」は、国外退去(Removal)命令を受けた結果国外に退去後、20年経過しないと米国に入国できません。唯一の例外は米国司法長官が特別に入国申請を行ってもよいと許可を与えた場合のみです。
一般的に上記のような理由で国外退去が決定されると、司法長官は当該判決を受けた外国人を90日以内に国外退去します(8 U.S.C. 、 1231)。この期間当該外国人は、収監されます。
1989年から1995年までの期間には、上記のような有罪判決を受け強制退去の対象になる可能性のあった約半分の者が、裁判所における執行猶予などの効果で国外退去を逃れていました。1966年に成立したより厳格な移民関連法(Antiterrorism and Effective Death Penalty Act of 1966 (AEDPA)およびIllegal Immigration Reform and Immigrant Responsibility Act of 1966 (IIRIRA) )により、強制退去の対象となる移民(永住許可所有者も含む)の数が増加し、その効果は1966年以前に上記のような罪状で有罪判決を受けた者も訴求的に強制退去の対象となる、そしてそのような強制退去の手続きに対してこれらの移民は裁判所において挑戦する権利がないという法的解釈が正当化されるという事態になりました。これにより、長期にわたって米国になんら法的問題なしに居住してきた永住許可を有する移民でも、一度対象特定有罪判決を受けると強制退去されてしまうという事例も多々見られるようになりました。また、強制送還先(市民権、国籍を所有しかつ帰国後当局によりまたは社会的に虐待される恐れがない場合)が受け入れを拒否したり無国籍であるために送還先が無い者たちは、無期限に移民刑務所に収監され続けるというような人権上の問題を生みだしました。
2001年6月25日の米国最高裁判所判決は、上記のような状況を変える画期的な判決です(INS v. St. Cyr, U.S. June 25, 2001およびCalcano-Martinez v. INS, U.S. June 25, 2001)。最高裁判所は、上記のような移民が有罪判決を受けINSによる強制送還手続きが開始された後もその手続きに対して当事者である移民が裁判所で自らの権利を擁護する(強制送還手続きに対して自らを抗弁する)権利をINSが奪うことはできないとしました(「米国憲法違反の恐れがあり、また移民法上の前例からも逸脱する」という解釈を示したものです)。この判決により、強制送還手続きの対象となっている移民は、連邦裁判所に対して「人身保護命令」を出すように要請することにより、裁判の過程の中で自らの権利を擁護する機会を与えられることになります。(また例え強制送還先な無い場合も対象移民当事者を6ヶ月を超えて無期限に移民刑務所に収監し続けることはできないという判決を出しました。また、最高裁判所は、上記の新法には明確に「遡及効果を有する」という表現を含む条項が無いことを理由に、1966年の法改正以前の有罪判決に基づいて遡及的に強制送還手続きを実施することも禁じました。
上記の最高裁判所の判決は、刑法に触れる行為をしたり、有罪であることを自ら認めた者の権利に対しある一定の程度の明確性をもって定義しています。これまでの経過を見ると、新法の成立、その解釈を巡るINSと移民側の裁判所での争い、そして最高裁判所の判決による「解釈の混乱」の明確化という道を辿りました。米国の三権分立の良い例を示したものでしょう。具体的には、観光客として米国に入国し、いずれかの理由で刑法違反を犯し、強制退去の対象となっているような場合も、将来米国への入国を10年、20年という単位で禁止される可能性も含め、慎重に考え行動する必要があります。裁判所での手続き、法の解釈など素人では理解し難い領域もあります。専門家に相談し、タイミングと手続きの準備・実行の際に後で取り返しのつかない誤りを犯すことがないようにいたしましょう。