家庭内暴力の犠牲者に亡命を許可する可能性


 今回は、オバマ政権になってからブッシュ政権時代の政策を逆転させ「家庭内暴力の犠牲者に亡命を許可」する可能性について新しい政策方針が採用されたことについてお話しましょう。

 米国は、母国で迫害を受ける者に対して「難民」としてのステータスを米国外で与えること、または米国内にすでにいる者については「亡命者」としてのステータスを与えることにより、米国に滞在・居住することを許可するプログラムを実施しています。2008年に米国に難民として入国した者の数は60,108人、亡命者として米国に滞在することを許可された者の数は22,930人でした。「難民」または「亡命者」として認められるためには、人種、宗教、国籍、特定の社会グループのメンバーであることまたは政治的意見を理由として、迫害されるかまたは迫害される恐れがあるために母国に帰国できない者でなければならないとされています。(p.1,「Refugees and Asylees: 2008(難民と亡命者:2008)」by Daniel C. Martin and Michael Hoefer, Office of Immigration Statistics, Policy Directorate, Department of Homeland Security)亡命者として認められるためには、申請者は米国内にすでに入国・滞在していいる必要があります。申請してから、もちろん却下される場合もありますが、承認される場合にもUSCIS(移民局)の係官が承認する場合と、移民局の反対にもかかわらず移民裁判所の裁判官が承認する場合の二通りあります。(p.4 「同上」)

 オバマ政権は、ブッシュ政権の政策を覆し、外国における家庭内暴力の犠牲者に対して亡命者・難民としてのステータスを与えることができるという判断を下しました。1995年にガテマラ出身の家庭内暴力の犠牲者である女性が米国に逃れ亡命者として米国に滞在する許可を申請したことから、長期にわたる移民法上の混乱が始まりました。移民裁判所の裁判官がこの女性を家庭内暴力の犠牲者と認め、亡命者としてのステータスを認め米国滞在を許す判決を下すと、それに対して反対する移民裁判所の上部(控訴裁判所に当たる)の判断が出、家庭内暴力の犠牲者(ジェンダーが女性であることを原因とする暴力の犠牲者)を亡命者として認めるか否かを争って2009年にオバマ政権が結論を出すまで、民主党から共和党へそしてまた民主党へと政権が変わる毎に判断は揺れ続けて結論が出ないままでした。議論は、家庭内暴力の犠牲者が「特定の社会的グループに属すことを原因として迫害を受けるまたは迫害を受ける恐れがある」という範疇に入るか否かという点に集中していました。(ワシントンポスト2009年7月18日付、Esta Soler とKaren Musaloによる記事)
 今回のオバマ政権の判断では、家庭内暴力の犠牲者を一定の条件付きで特定の社会的グループに属す者たちと規定したのです。このステータスを得るためには、家庭内暴力の犠牲者は、加害者が虐待する弱者としての立場にあり、その出身社会全体にこのような家庭内暴力を広く容認する風潮・文化があるということ、また出身国の政府も犠牲者を十分保護せず、または保護する能力がなく被害者が加害者から逃れることが難しいという条件を満たす必要があります。(p.12, Department of Homeland Security’s Supplemental Brief, 2009年4月13日)なお、よく話題になるアフリカやその他の回教国の一部で見られる少女の性器の一部を切除する儀式の犠牲者はこの範疇に入らないものとしています。(ニューヨークタイムズ紙、2009年7月16日付、Julia Prestonによる記事)

 「文化的および宗教的」にという点は家庭内暴力の犠牲者を守る判断をする条件にもなりましたが、過去においてはこの言葉をもって女性の差別や被害を「当該国の文化または宗教は女性をこのように扱うことが慣習である」というような表現や考え方で「干渉しない」または「保護の手を差し延べない」つまり「亡命者」として認めない口実にも使われました。

 今回の判断は、当該事件を移民裁判所に差し戻し、新たな基準に照らしてもう一度裁定を下すことを命じたものであるため、事件そのものの結論は未定です。しかし、将来、上記の一定の条件を満たすことができれば、家庭内暴力の被害者も「ある特定の社会的グループに属す」ことを原因として迫害を受けるかまたは迫害を受ける恐れがある者とみなされ、亡命者として承認され米国滞在を許可される可能性が高まったという意味では意義ある政策転換です。

 日本の場合について考察すれば、日本で家庭内暴力の犠牲者となった者が、米国に亡命を求め亡命者として認められるというようなケースはほとんどないでしょう。「ある特定の社会的グループのメンバーである」という条件は満たせても、日本の社会全体が家庭内暴力や女性の虐待について広く容認するとも、また日本国政府がこのような家庭内暴力の被害者に保護を与える意図もなくまた能力もない、そして、被害者が日本の別の地域に逃れることも不可能である。。。などという結論に至る可能性はゼロに等しいでしょう。
 今回の亡命と家庭内暴力の犠牲者との関連の政策転換の影響を受ける人々は、発展途上国で内戦などに巻き込まれ、組織的に敵方の部族に属す女性たちを戦争に勝つ手段として集団的に強姦するなどという状況で犠牲者になった場合などに適用される可能性が大でしょう。