投票権差別


今回は、6月25日に米国連邦最高裁判所がShelby County v. Holderケースにおいて Voting Rights Act (VRA:1965) のセクション4を憲法違反する判決を5人の保守的な判事たちの合意で出しましたが、その後のノースカロライナ州とテキサス州の動きを見てみましょう。

最高裁の判決を待っていたかのように、ノースカロライナ州知事は8月13 日付けで厳格な有権者ID法(Voter Information Verification Act (VIVA) )に署名しました。主な改正点(改悪点)としては、1)有権者は投票を許可されるためには政府発行の身分証明書(ID)を提示しなければならない、(政府発行の身分証明書の定義としては、例え州立大学の学生身分証明書であっても使用不可としました)、2)投票日前投票期間を17日から10日に減らす、3)選挙投票日当日の有権者登録を廃止する、4)有権者は選挙投票日当日の少なくとも25日前までに住所の更新、変更届を出すことが要求されること、5)間もなく18歳になる者たちに以前は許されていた早期有権者登録を廃止したことなどでした。どれも、投票者を制限する方向性をもっています。

政府発行の身分証明書として有効なものは、ノースカロライナ州発行運転免許証、パスポート、現役・退役軍人身分証明書、インディアン部族発行身分証明書などが有効かつ使用できる写真付き身分証明書であるとされています。写真付き身分証明書の提示は2016年から実施されることになっています。(大統領選挙の年)

投票日前投票は、同法改正(改悪)前の選挙(2012年)では全投票数の61パーセントを占めていました。特に日曜日の投票に制限を加える(廃止)したことにより、教会の帰りに投票する黒人の人々の伝統的投票行動に水を差すことになります。投票日前投票については、全投票数の47パーセントが民主党員、32パーセントが共和党員でした。まだ投票日同日有権者登録・投票者は2008年および2012年に10万人以上であったとされています。(CBSニュース分析:2013年7月26日付けニュース)また、2012年の選挙では、黒人の70%が投票日前に投票したという報道もあります(Los Angeles Times 2013年8月13日付け記事)。

ノースカロライナ州の有権者登録者の内、約318000人(5%)が州発行運転免許証を持たず、これらの州発行運転免許証や身分証明書を持たない人々の多くが黒人、低所得者、高齢者です(同上)。黒人はノースカロライナ州の有権者登録者の22%を占め、2012年の選挙においては運転免許証を持たない投票者の34%を占め、投票日前投票者の29%、投票日当日有権者登録および投票者の34%を占めたということです(同上)。

有権者等による訴訟

ロサネル・イートンという92歳になる黒人女性は1940年代に有権者登録し、その後は継続的に選挙の度に投票してきましたが、運転免許証に記載された名前が出生証明書に記載された名前と異なるという理由で投票できなくなるものと予測され(同法は2016年に実施予定)、NAACPとAdvancenment Projectの支援を受けて、今回の改正法は米国憲法および「1965 年Voting Rights Act」違反として州当局を提訴しました。

ACLU(American Civil liberty Union)もLeague of Women Voters(女性有権者連盟)、Southern Coalition for Social Justice、A. Philip Randolph Institute、Common Cause、Unifour Onestop Collaborativeと共に州知事マックロリーに「投票日同日有権者登録を廃止することは黒人有権者に対して極めて不利になるような悪影響が出る」とし、米国憲法および「1965年Voting Rights Act」に違反するとして提訴しました。

法改正(改悪)に呼応する動き

今回の法改正(改悪)により、州立大学の学生身分証明書が投票の際の「写真付き身分証明書」としては無効であるという条項が新たにできたと述べましたが、興味深く、かつ驚くべき動きが報道されています。先回の選挙ではアパラチアン大学という大学のキャンパスに投票所が設けられていましたが、当該郡の(共和党員が絶対多数を占める)選挙管理委員会の新しい方針により、キャンパスの投票所は廃止され、他の2つの投票所と合併されることになり、ノースカロライナ州の選挙ガイドラインによれば一つの投票所当たり1500人の有権者という比率が表記されているにもかからわず、今回3つの投票所を合併して新たに創設される投票所は9300人の有権者が投票することになり、駐車場は40台以下分のスペースしかないという事実が報道されました。またこのような決定をした選挙委員会のミーティングの議事録から一人の委員が質問し、事務方が回答した「このような投票所の合併によりどのくらいの額のコストが節減になるのですか?」「節減ゼロです」というやり取りが公式な議事録から数回の委員会の「編集・改定要求」の結果削り取られたという事実も報道されています。(Rachael Maddow Show2013年8月21日放送)またノースカロライナ州北東部のエリザベス市にある黒人が学生の大多数を占めるエリザベス市州立大学に在学する4年生の黒人学生キング氏が市議会議員選挙に立候補することを表明すると、当該地域(郡)の共和党地区委員長がキング氏が2009年から同大学のキャンパスに住所を有し、同年以来選挙において投票を続けてきたにもかからわず、「キング氏は学生であり、キャンパスに住所を有するとは認められないので、市会議員に立候補する資格を有さないばかりでなく、選挙に投票する権利も有さない」と主張し始め、キング氏の立候補を阻止しようとしています。これに対し、キング氏は、同大学内の自らの住所は適正であり、2009年来行使してきた自らの選挙投票権および市会議員として立候補する被選挙権は正当であると主張しています。キャンパスの住所を有権者登録住所と認めないという論理は極端なものであり、学生である限り外部からキャンパスに来て勉学に励む者に有権者登録、選挙における投票を許さないという考えは若者たちの投票を事実上締め出し、極端に制限しようとするものであり、明らかに「1965 年Voting Rights Act」の趣旨に反するものであると言わざるをえません(同上)。キング氏と同大学の在学生たちは、自らの選挙投票権を守る姿勢を示し、選挙委員会と争う姿勢を見せているので、今後の成り行きが注目されます。

テキサス州

米国司法省は、テキサス州のVoter ID法の実施を差し止めるために提訴しました。この法律は、成立後裁判官により実施を差し止められたいたものですが、6月の最高裁判所の判決の直後に「差し止めが解除された」という判断の下に実施される運びとなっていたものです。司法省は同法が人種、皮膚の色、言語に関する少数グループのメンバーである者らの投票権を否定するかまたはその権利を侵害するものであり、「1965年Voter Rights Act」および米国憲法修正14条と15条に違反すると表明しました。

司法省は、テキサス州の法律同様、ノースカロライナ州の法律に対しても実施差し止めを目的とする訴訟を起こす可能性があると表明しています。

上記のような有権者登録および投票権の制限の動きは、ノースカロライナ州、テキサス州のみでなく全米の多くの州において推進されており、来年の中間選挙および2016年の大統領選挙に向けて早くも戦いは始まっているようです。全国的にも今後の成り行きが注目されます。