民営刑務所


今回は、世界でも稀かつユニークな米国の民営刑務所、特に連邦刑務所機能の民間委託が段階的に解消されることになったというニュースについて書いてみます。

みなさんは米国が世界人口の5%を占める一方、世界中の刑務所人口の25%を占めるという事実(American Civil Liberties Union報告、「Warehoused and Forgotten」2014年)をご存知ですか。連邦政府(そして多数の州政府)の委託により民間刑務所を営利を目的として経営する会社の主なものとしては、Corrections Corporation of America (CCA), Geo Group, およびManagement and Training Corporationなどがあります。これらの会社を含む民間会社は1990年から2009年の間の期間に、1600パーセント以上の成長率で成長し、2012年には約40億ドルの「売り上げ」を示し、株式を上場し一般投資家の投資の対象となっています。州知事や連邦・州議員なども投資しているという情報もあります。

現在これらの会社が連邦政府から委託されて運営する民間刑務所には22万660人が収監されています。これは、連邦刑務所に収監されている者の総数の約12パーセントを占めています。今回の政府発表により影響を受ける者の数は、米国の刑務所収監者全体(220万人)のうちごく僅かです。220万人の圧倒的多数が連邦政府直轄の連邦刑務所か州の刑務所に服役しているのです。またDept of Homeland Security が委託する民間刑務所には約2万4000人が収監されています。これらの人々(主として違法滞在の罪を問われている外国人)は今回の政府発表の影響を受けず、今後も民間委託された刑務所に収監され続けることになります。これらの違法移民向け民営刑務所は、ジョージア州、ミシシッピ州、ニューメキシコ州、ノースカロライナ州、オハイオ州、ペンシルバニア州、およびテキサス州など全米で13か所あります。最近も、Dept of Homeland Security の下部組織であるImmigration and Customs EnforcementはCCAとの間で総額10億ドルに及ぶ委託契約を締結しました。

今回の発表によると、2017年までに連邦政府委託の民営刑務所に収監されている者の数は2013年現在の3万人から14,200人位まで減少するものと推定されています。連邦政府による民間刑務所の委託契約による利用は収監者数が増えて混雑する連邦刑務所の問題を解決するために1997年に開始されました。

連邦刑務所に収監中の犯罪者の人口は2013年以来減少しつつあります。今回の政府発表は、民間刑務所の利用を廃止する方向性を打ち出した原因として、この収監者人口の減少と共にInspector Generalの報告書が示した民間刑務所における安全性とセキュリティの問題を挙げています。暴力事件数や禁止項目の持ち込み、収監者向けプログラムの欠如、医療の提供の貧弱さなどが委託民間刑務所においてより多く見られるという情報が同報告書に見られました。また司法省によると、民間刑務所の利用開始時に期待された「コスト削減効果」はほとんど見られなかったということです。

今回の政策の転換の原因として挙げられた刑務所人口の減少については、1980年代に「犯罪者をより厳しく罰する」ための連邦・州レベルの法律が多数作られたために収監されされる犯罪者数が急激に増加したという歴史を振り返る必要があるでしょう。1980年から2013年の間に連邦刑務所に収監される者の数は約8倍に増えました。違法薬物を所持したというだけで懲役刑に服す者の数が膨大になったのです。その数は22万人まで膨れ上がりました。最近では、「まりにも多くの者が刑務所に服役している。違法ドラッグを所持していたというだけで何人も懲役刑に服させるのは厳しすぎるし、服役者の数が多すぎるという論調もオバマ大統領やクリントン元大統領など有力な政治家の間でも出てきました。また、実際に刑法上の罪に問われた者に対する刑罰が過剰になり過ぎないようにするためのポリシーもエリック・ホールダー元司法長官の指導の下に実施され、連邦刑務所に服役する者の数を減少させました。違法薬物の単なる所持など比較的軽い犯罪について、自動的に懲役刑に服させるというような過去における過剰な刑罰の執行を減少させた結果です。

実際には今回の司法省による発表の対象となる連邦刑務所収監者たちは誰でしょうか。違法滞在者として収監された人たちを考えてみましょ。彼らの中には、「違法滞在者である」という罪以外には特に犯罪歴がない者たちも多数います。これらの人たちは、今回の発表にもかかわらず、ほとんどその待遇に変化がないとも言われています。

現在民間委託の刑務所を相当に利用している州はニューメキシコ州、ハワイ州などですが、イリノイ州、マサチューセッツ州およびネブラスカ州などでは民間刑務所は利用されていません。

今回の司法省による民営刑務所の利用廃止の方向性についての発表の後CCAの株式価格は下落しました。考えてみると、営利目的で刑務所を経営する会社とは不思議な存在です。犯罪者を収監する刑務所をビジネスとして展開し株式価格を挙げるために利益を挙げ投資家たちに魅力的な存在となるために実際の刑務所運営では何をしたらよいのでしょうか?契約により規定される収監者一人当たりの料金を連邦政府から取り、できるだけ経費を節約して利益を挙げることを目的としなければなりません。施設、プログラム、食費、医療費、看守・刑務官の給料の削減など、経費を削れば削るほど利益は上がるということになります。社会全体で犯罪者に刑罰を与えることばかりでなくそれらの者に社会復帰のためのプログラムや教育プログラムを提供することも期待される刑務所としては、できる限り経費を削減するという目標と収監者の社会復帰のためのプログラムや教育の提供という目標は相互に矛盾する側面があります。

政府の委託によるものであれ、民営かつ営利を目的とする刑務所が存在する国は米国を除いてないのではないでしょうか。全てが営利目的となり得るという極端なまでの資本主義ならではのことですが、相反する目的の両方を達成することには無理があるのではないでしょうか。

今回の連邦政府・司法省による連邦刑務所の民間委託の廃止の方向性は、長期的には州刑務所やその他の連邦機関が委託する民営刑務所の存在にどのような影響を与えるのか、今後の成り行きが注目されます。

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参照文献:
-The New York Times August 19, 2016, Article, “U.S. to Phase Out Use of Private Prinsons for Federal Inmates”
-“How the U.S. wil end its 30-year history with private prisons”by Jessica Lussenhop, BBC News Magazine August 20, 2016.
-“Warehoused and Forgotten: Immigrants Trapped in Our Shadow Private Prison System”by American Civil Liberties Union (ACLU), December 1, 2015.