2011年3月

衆議院議員麻生慶一郎さま、

 私の3人の娘たちは、日本が大好きです。現在は米国に住んでいますが、幼い頃を東京と横浜で過ごしました。今でも日本へは頻繁に行きますが、本当はもっと日本に行きたいのです。完璧には話せませんが、日本語を話すのが大好きです。この娘たちの母親は日本人であり、祖父母は大阪に住んでいます。3人とも大人になったらまた日本に住み、日本の社会、経済の一員として溶け込んで暮らしてみることを夢みています。

 そして、この娘たちは今のところ日本国籍ですが、もう少しで日本国籍を失おうとしているのです。

 日本の人口は高齢化すると同時に減少しつつあり、経済は停滞し、人々は次第に内向きになってきていますが(隣国や競争相手の多くが急速に国際化しているというのに)、日本政府は相変わらず私の娘たちのような二重国籍者たちに対して22歳の誕生日までに国籍を選択するように主張し続けています。

 私の娘たちは日本に対して強い絆を感じていると同時に、家族や教育を通して米国に対しても強い絆を持っています。強制的に選択を迫られたら、娘たちは米国籍を選択するでしょう。他の多くの二重国籍者たちも同じ立場におり、選択を迫られば米国籍を選択するでしょう。

 私の娘たちや日本や世界中に住む数千人の二重国籍の若者たちを、まさに社会の生産的構成員になろうとするその時に拒否することによって、日本はなにを得るのでしょうか。

 「単一国籍」規則の利点とは、私が考えるに単純であることくらいでしょう。

 二重国籍を認めないことにより、日本は何を失うのでしょうか。

 私の娘たちは、(親ばかかもしれませんが)ほかの多くの二重国籍の若者たち同様に、本来なら日本社会の構成員として、いろいろな才能、創造性、英語や他の言語を使いこなせる能力、国際的体験、エネルギー、人的および財政的な資本の面で貢献できるはずなのに、実際はこの近視眼的かつ時代錯誤的な政策によって抑圧され締め出されてしまうのです。

 グローバルな競争が増すこの時代に、高齢化と人口の減少に晒され、また島国でもある日本は、これらの挑戦に勝つためには猫の手も借りたいところです。日本は、積極的にこれらの才能豊かな若者たちが日本にやってきて根を下ろすことを奨励すべきであり、拒絶すべきではありません。

 私の娘たちや上記なような若者たちは、今のままでも外国人として日本に来ることはできるし、ヴィザを取得して好きなだけ(または少なくともヴィザ取得の理由となった仕事が続く限り)日本に滞在すればよいという主張をする人たちもいます。しかし、そのような日本滞在は「日本人」であることとは全く違います。

 それは単に外国人として何ができるかまたはできないかについて、または日本に滞在できる期間の長さについての法的制限を避けるという意味だけではありません。その国の国籍を有する人たちは、その国のために犠牲を払いたいという動機も持つでしょうし、公務員としてまたは企業家活動を通してその社会をより良くするために必要なリスクにも挑戦するでしょう。ニューヨークタイムズ紙のコラムニストであるトーマス・フリードマンは、異なる文脈においてですが、しばしば「世界史のどの時代を見てもレンタカーを洗った者はいない」と述べています。国籍についても同じです。日本は、一度拒絶した後に拒絶した人たちを再び日本国籍者として獲得し、彼らが日本人として日本(レンタカー)を大切にすることを期待することはできません。

 日本政府がこの国籍選択制度を積極的に実施してはいないということは公知の「秘密」です。私自身、一度日本政府の官僚に「娘さんたちは22歳以降も単に日本パスポートをそのままにしておき、時期が来たら更新すればよいのです。国籍選択をしないままにしておけばよいのです」と言われたことさえあります。そして事実、多くの人たちがそうしています。米国軍隊における「DADT」(訳者注:同性愛者たちに対して「聞かざる、言わざる」という暗黙の政策を採用していたが、2010年末にこの政策は廃止となりました)政策の二重国籍版とも言えましょう。

 このような暗黙の実践は、極めて日本的であると言えますが、問題の解決にはなりません。このような政策を取ることにより、多くの「日陰者」二重国籍者たちは、日本政府がこのような暗黙の了解政策を変更することを決定した途端に、または運悪く間違った場所で間違ったパスポートを提出してしまうことにより、日本国籍を喪失する危険に晒されることになります。このような状況下では、これらの若者たちにとって、長期的計画を立てたり、コミットメントをすることが不可能になります。

 もっと重要なことは、この法律を厳密に適用・執行しない「見て見ぬふり」政策は、誤ったメッセージの発信になってしまいます。堂々と歓迎されることなく、これらの若者たちは裏口からそっと(鍵がかかっていないことを祈りつつ)忍びこむように教えているようなものです。そんなことはいやだと拒否する者たちも多いでしょう。

 子供として二重国籍を有していた者たちに永続的な二重国籍を許さないという現在の政策は、二重国籍を許可すれば在日韓国・朝鮮人や日系ブラジル人など、他の人たちによる二重国籍要求に繋がるという懸念を基礎とするものかもしれません。日本の官僚たちは、そのような要求に直面するというリスクを冒すより、「今のままにしておいた方がよい」と結論したのかもしれません。しかし、すでに日本国籍を有している人達に日本国籍維持を許すことは、日本の国籍法に劇的な変化をもたらすものではありません。

 現在大きな人口問題に直面している日本としては、米国で採用されている「生地主義」のように日本で生まれた全ての者に日本国籍を付与する制度、またはイスラエルが採用する「帰国法」のように先祖が日本人である世界中にいる日系人に祖国への帰国を許可する制度、またはアイルランドが採用する「祖父母原則」により祖父母のいずれかが日本人であると証明できる者には全て日本国籍を付与するという制度なども含め、日本国籍法の根本的改革についての対話を始めるべきでしょう。しかし、例え日本がそれほど広く門戸を開放しない場合でも、少なくとも自国の国籍保有者に対して成人すると間もなくその日本国籍を奪うということは止めるべきです。

日本の再活性化と国際化を促進する助けとなるよう、私は改革派国会議員であり日本の労働力拡問題に対し て創造的解決法を提唱する麻生さんに対して、進歩的な同僚たちとともに協力し現在22歳未満の二重国籍者たちが日本国籍を保持し続けることができる、そしてかつて二重国籍者であった22歳以上の者たちの全てが日本国籍を回復できるような法案を提出するよう提案します。さらに、このような法律が私の娘たちが22歳の誕生日を迎える2013年3月7日を目標として成立するよう提案します。

Glenn Newman
グレン・ニューマン
カリフォルニア州サンホゼ市

グレン・ニューマン氏は、米国の弁護士であり、日本に長年にわたり住みました。同氏はイリノイ大学法学大学院において日本におけるビジネスについて講義する教授でもあります。(この記事は、Community@japantimes.co.jpに掲載された同氏の記事を日本語に翻訳したものです。)