1999年10月


 さて今月は、日本でも米国より数歩遅れて対応が話題になっている「セクハラ」の問題について、企業の側から「どのように対処すれば良いのか」という観点から見てみましょう。この記事は、日本で書いていますが、日本の新聞広告や本屋さんの店先で多くの「セクハラ」関連書物の宣伝や実物を目にします。 月 日付けの「朝日新聞」には、関西経営者協会主催の「落語によるセクハラ(性的嫌がらせ)防止講座」が 月 日に大阪で開催されるという案内記事が載っていました。男女雇用機会均等法が改正され「セクハラ」に関する規定も新たに厳しく設けられたのをきっかけとして、日本国内の企業の間ではこの問題に対処しなければという意識が高まってきているようです。中小企業各社から「何がセクハラに当たるのか」という問い合わせが多く寄せられたとも書かれていました。


 米国ではどうでしょうか。1996年、米国雇用機会均等委員会(EEOC)がセクハラを放置しているとして三菱自動車工業の米国工場・米国三菱自動車製造(MMMA)を公民権法第7編(人種、肌の色、性別、宗教、出身地に基づく雇用差別を禁止するいわゆる「タイトル・セブン」)違反で提訴し、MMMA側が1998年6月に3400万ドルを支払って和解したことは、まだ記憶に新しい出来事です。そして、その後も米国におけるセクハラの訴訟は増え続けています。統計的なデータによると、雇用法関係の訴訟で事実審理(公判:トライアル)まで行くと大半のケースで陪審員が原告側に有利な評決を出すということです。(Michelle Druce, メTips for Your Business Clients: Prevent Sexual Harassment Litigationモ in Young Lawyer 、第3巻No.10(1999年7/8月号)、「米国法律家協会」発行、以下”Druce”)


 最近いくつかの注目すべき判例がでています。1998年、ニューヨーク州連邦地裁は、職場の(自分以外の他の)同僚にされたセクハラを見ていて感情的に苦痛を味わった(emotional distressed)従業員による雇用主に対する訴訟で、これを「タイトル・セブン」の規定に従って「職場の環境的セクハラ」として認める判決を下しました。原告は、同僚に対するセクハラを目撃し雇用主に対して報告したにもかかわらず、雇用主が何ら対策を行うことがなく、放置されて感情的に苦痛を与えられたと訴えました。同連邦地裁は、最高裁の「感情的な被害でもタイトル・セブンにおける「敵対的な職場の環境」に当たる」とした判決を引用し、陪審員も原告に対して「損害賠償」を被告に請求する権利を認める評決をしました。


 1998年に、米国最高裁判所は、「Faragber v. City of Boca Raton, 118 S.Ct. 1115(1998)」および「Burlington Industries, Inc. v. Ellerth, 118 S.Ct. 2257(1998)」という二つの判例で、「部下である従業員は、同じく従業員である上司がセクハラ行為をし、これを拒絶したために事実上何らかの雇用上の不利益を被った場合、両者の雇用主が何らかの落ち度があり当該上司の行動に責任があると証明する義務を負うことなく、」また雇用主がこのようなセクハラ行為が存在することを認知していたか否かにかかわりなく、雇用主に対して厳格責任による損害賠償を請求できる、と判決しました。最高裁は、従業員がセクハラのような「意図的な不法行為」を行った場合は、そのような不法行為を行うことを可能にした(助けた)雇用主は賠償義務を負うものであるとの判断を示したのです。実際上、セクハラの被害者が雇用上の不利益を被らなかった場合でも、(1)雇用主が、セクハラ的な行動を予防するため、または迅速に矯正するための対策を合理的な程度に実施し、かつ(2)原告である従業員がこれらのセクハラ的言動を予防または矯正するため、または被害を避けるために雇用主が提供した手段を合理的な程度に利用しなかった場合にのみ抗弁が許される、すなわち賠償責任を回避できるという判断を下したのです。


 同年 月、アーカンソー州の上訴裁判所は、患者に対してセクハラ行為を行った従業員を雇っていた病院は被害者の患者に賠償責任を負う、いう判決を出しました。原告の、「病院は、従業員を雇用する際にその経歴をチェックし雇用後は監督する責任を負う」という主張を裁判所が認めたのです。
 では、セクハラ訴訟の対象にならないようにするには、企業は具体的にどのような手段を採用し、どんなことに留意すれば良いのでしょうか。
 上記「Druce」によれば、それぞれの企業は、例え訴えられたとしても、次ぎのような項目を実施しまたそれらに留意することにより、有効に抗弁することができます。
問題が起こった時にそれについて効果的に不服申立てができる一定の手続きが存在し、そのフォローアップのシステムがあること。


明確かつ簡潔な実践的な「政策綱領」を書面に作成しておくこと。そして、この「政策綱領」を「不服申立て用紙」と共に定期的に配布する。


問題が起こるのを予防する目的で従業員の訓練を行う。このような訓練を実施することにより、例えセクハラを許したという理由で告訴されても上記のような有効な「抗弁」を準備することができる。
不幸にしてセクハラで告訴された場合は、事実関係を総合的かつ公正に調査する。
そして、迅速に適正な救済・矯正的手段を実施する。


 企業内で、(セクハラの申し立てをした当人に)報復的行動があった場合には厳重に処罰するということを公に強調公表し、小さな問題として始まった事柄を大きな問題に発展させない。


 セクハラを行った従業員の行動をフォローアップして、同様の行為が繰り返されず、報復的行動もないことを保証する。


 電子メールなどによるセクハラについても、起こらないように注意する。インターネットのウェブサイトなどからダウンロードされたポルノなどがセクハラの手段として被害者に送られたりしないように監督し、電子メールおよびインターネットのアクセスまたはダウンロードなどに関する別個の規則を作りこれを配布する。電子メールおよびインターネットのアクセスとダウンロードについて、会社の側でモニターする可能性があるということを公表する。注意にもかかわらず違反が反復される場合には、罷免されることもあるということを明示する。


 職場で、セクハラの問題に発展しそうな「その他の問題」を早期に発見、解決する。


 職場で監督的立場になる従業員を、注意深く選別する。セクハラを起こす可能性のある者、「反セクハラの立場からの会社の規定」に従うことができない者を監督的立場の管理職に就かせない、また既にそのような危険性を伴う者が監督的職位にある場合は、嫌疑が晴れるまで、そのような職位からはずす。


 雇用に関する問題・賠償責任などをカバーする保険に加入する。


 皆様の職場では、セクハラ訴訟を予防し、これに対処するための上記の準備は万端でしょうか。