2002年11月
今回は、ソーシャル・セキュリティについて考えてみましょう。特に、離婚の際にソーシャル・セキュリティ給付がどのように取り扱われるかについて解説しましょう。離婚の相談に見える方々、そして実際に離婚訴訟をお手伝いさせていただく方々の中にはソーシャル・セキュリティやミリタリー・リタイアメント・ベネフィットの給付を分割配分する必要がある場合がよくあります。離婚の際に弁護士の助けを得ることなく、また裁判所で正式に裁判をすることなく相互の合意により離婚の際の条件を設定した結果、これらの給付を受ける権利も「財産分与」に類似した配分の対象になることを知らずに自分に不利な条件での離婚をしてしまったり、または事実に反してこれらの権利がないと思い込んでいる場合も多く見られます。
「争いたくない」、「弁護士費用が払えない」というような理由でできるだけ簡単に離婚を済ませようとする方々もありますが、この記事をお読みいただき、自らの権利を知らずに「放棄」したり、権利がないと信じ込んでしまうことがないようにしていただければ幸いです。
ソーシャル・セキュリティとは
ソーシャル・セキュリティとは、一般に働く者が給与またはその他の収入から一定の率(額)をソーシャル・セキュリティ・システムに払い込み、蓄積し、リタイアする、障害者となるなど一定の条件を満たしたときに給付金を受け取れる制度です。ソーシャル・セキュリティ法は1935年に成立し、リタイアメント・ベネフィット(退職後給付)は1937年に開始されました。当初、ソーシャル・セキュリティは実際に給与・収入を得てソーシャル・セキュリティ・システムに一定の額を払い込む者のみを受給資格を有する対象としていました。このような方針の下で、長年結婚していた夫婦の場合でも、妻が専業主婦として家庭に貢献していた場合には、離婚の際に給与からソーシャル・セキュリティに支払いをしていた夫のみが給付を受ける資格を有する者として取り扱われ、夫の退職後に夫が給付を受ける資格がある金額は、財産分与の対象となりませんでした。これはソーシャル・セキュリティからの給付金が、資産としてはみなされず、受給者の収入とみなされたからです。このような解釈においては、妻が専業主婦であった場合、例え40年間専業主婦として家庭に貢献した場合でも、夫のみが退職後ソーシャル・セキュリティの受給者となり、離婚した妻は無年金者となるという例が多く見られました。このような「不公平」を是正するために90年代になると両者のソーシャル・セキュリティ給付金についてある程度の調整を図るような判決がでるようになりました。例え妻が専業主婦であった場合でも、離婚前の結婚期間が10年以上であれば結婚していた期間に応じてその期間に関してはほぼ50パーセントの給付を受ける権利を認める判決が出るようになったのです。
元配偶者が死亡した場合
ソーシャル・セキュリティ・システムは配偶者が死亡した場合にも生存する配偶者に、亡くなった配偶者がソーシャル・セキュリティに支払った額に応じて給付金を支払います。上記のように離婚の際に「無年金者」となる可能性があった専業主婦の配偶者にもソーシャル・セキュリティの受給を受ける権利をある程度保障する方針に転換した後には、ソーシャル・セキュリティに払い込みをしていた元給与生活者が亡くなった場合にも離婚後の元配偶者が「結婚期間」に応じて受給資格を有する者とみなされるようになりました。離婚した元配偶者が元夫または元妻の死亡に伴ってソーシャル・セキュリティから残存家族に対する給付を受けるためには、1)両者の結婚が有効であったこと、2)両者が離婚する以前に少なくとも10年間結婚していたこと、3)給付を求める者が少なくとも60歳に達していること(障害者の場合には少なくとも50歳に達していること)、4)死亡した元夫または元妻が、死亡時点でフルにソーシャル・セキュリティの保険対象であったこと、5)給付を求める者が未婚であること、6)給付を求める者が死亡した元夫または元妻のソーシャル・セキュリティ給付の配分より大きな金額のソーシャル・セキュリティの受給者ではないこと、7)給付を求める者が自ら受給申請を行うこと、という条件を満たさなければなりません。ソーシャル・セキュリティ受給者(受給資格者)の死亡後に配偶者または元配偶者が受給する額は、死亡した受給者の基本給付額(支払い継続期間の払い込み額の平均)の100パーセントとなります。しかし、この給付も死亡した元配偶者の別の配偶者(再婚相手)が同様な受給資格を得た時点で中止となります。
結婚・離婚の事実を証明する書類
上記のようなソーシャル・セキュリティの給付を受けるためには「結婚」または「離婚」を証明する書類が必要です。結婚の場合には「Marriage License(結婚証明書)」、離婚の場合には裁判所が発行した「Divorce Decree(裁判所による離婚判決)」などがそれぞれ結婚・離婚を証明する機能を果たします。
受給額を知るためには
ソーシャル・セキュリティからの退職後給付額、配偶者(または「元配偶者」となろうとしている配偶者)が亡くなった場合に生存する配偶者または元配偶者に給付される額、障害給付金などについて知りたい場合は、ソーシャル・セキュリティ・アドミニストレーション(SSA)に対して「Request for Earnings and Benefit Estimate Statement」を送り情報を要請することができます。すでに離婚が成立している場合でも、離婚した元配偶者の要請があればSSAはソーシャル・セキュリティの給付額についての情報を提供する義務があります。
通常、退職後給付金を受け取る資格を得た者が70歳に達しておらず、さらに一定の額以上の収入があれば給付金が一定の割合で減額されますし、その受給資格者の配偶者、被扶養者である子供などに対して支払われる給付金も同様に減額されることがあります。しかし、離婚後の元配偶者の場合、離婚後少なくとも2年より長い期間が経過している場合、または離婚する前に受給資格を得ていた場合にはこのような減額の対象にはなりません。ソーシャル・セキュリティからの給付は、1975年の法改正により子供の養育料および(離婚した)元妻に対する扶養料(Alimony)支払い義務の対象となることになりました。つまり、元妻または元夫がソーシャル・セキュリティ受給者であり、養育料や扶養料の支払いを怠った場合にはソーシャル・セキュリティ給付から取り立てることが可能になりました。扶養料を払い続けていた元配偶者が失業したり、理由に関わらず扶養料の支払いを中止した場合にSSAに対して要請することによりソーシャル・セキュリティ給付金から支払いを要求したり、ソーシャル・セキュリティ給付金を差し押さえすることができるようになったのです。
ソーシャル・セキュリティ退職後給付または障害者給付の受給資格者が現時点でまだ給付を受けていない場合でも、離婚した元配偶者は離婚後2年経過した時点で受給資格を得ます。しかし、同元配偶者が離婚以前に独自にソーシャル・セキュリティ受給資格を取得していた場合には、この「最低2年間経過後」という条件は適用されません。離婚した元配偶者のソーシャル・セキュリティ給付に関する権利は、独立した性格を有するものであるとみることができます。例え、元夫または妻が離婚した配偶者に対して自らが支払いを続けてきたソーシャル・セキュリティからの給付金が支払われることを阻止しようとしても、法的に不可能なのです。またソーシャル・セキュリティ退職後受給者となるためには、離婚した元夫または妻の協力を求める必要もありません。
申請の必要性
上記のように、多くの場合離婚した元配偶者は自らソーシャル・セキュリティの受給資格者でない場合でも有資格者である元配偶者の受給資格に基づいて給付を受けることができますが、このような給付は自動的なものではなく、資格を有する元配偶者自らが受給できるよう最寄りのSSA支部に対して申請する必要があります。この場合給付を申請する元配偶者は62歳に達している必要があります。もう一つ忘れてはならない条件としては、離婚した元配偶者がソーシャル・セキュリティ退職後受給資格を得るためには、ソーシャル・セキュリティ・システムに給与またはその他の収入から支払いを続けてきたその夫または妻自身がすでに62歳という受給最低年齢に達していなければならないという条件です。つまり、離婚が成立した時点で専業主婦であった妻が65歳以上であっても本来受給資格者となるべき夫がまだ受給年齢(少なくとも62歳)に達していない場合には受給資格を取得できないという点です。「姉さん女房」に不利な点となっています。障害給付金を得る資格は、62歳以下の者に与えられます。1985年の法改正で、離婚した元夫または元妻がソーシャル・セキュリティ受給資格年齢に達し実際に受給していなくても離婚した元配偶者は独自にソーシャル・セキュリティ受給資格を取得できるようになりました。
10年間の結婚期間の用件
離婚後の元配偶者が、相手のソーシャル・セキュリティからの給付金を受け取れるようにするためには、結婚期間が10年間またはそれ以上でなければならないという条件があります。この期間用件は厳密に適用され、過去の判例では6日間不足したために給付が受けられなかったという例もあります。
給付の割合
離婚した元夫婦間のソーシャル・セキュリティ給付の割合は、結婚期間とソーシャル・セキュリティに加入していた期間との比率に応じて、結婚期間分、現在結婚している夫婦と同様にほぼ50/50の割合で配分されます。元妻も独自にソーシャル・セキュリティ受給資格を有しさらに元夫の給付金額の方が大きい額である場合は、両者の差額分を元妻が元夫の給付金から配分受領することができます。逆に元妻の受給額が元夫の給付金から配分される額より大きい場合には、この元妻は夫のソーシャル・セキュリティ給付から配分を受けません。
再婚
元夫または元妻のソーシャル・セキュリティ給付の配分を受給している者が再婚すると、受給額にどのような影響があるでしょうか。原則的には、再婚をした時点で最初の元夫または元妻のソーシャル・セキュリティ給付からの配分の受給を受けていた者は当該受給資格を失います。しかし、再婚が離婚に至った場合、再婚後に新しい配偶者が死亡した場合には以前の受給資格を復活することができます。極端な例では、このように結婚を繰り返すことにより、複数の元配偶者のソーシャル・セキュリティ給付の配分を同時に受給することになる場合もあります。
結論
離婚した元配偶者のソーシャル・セキュリティ給付に関して、結婚期間などを考慮して一定の割合の配分を受ける権利は法的に保証されたものであり、離婚の当事者間でまたは裁判所がこれを変更したり放棄させたりはできない性質のものです。知識が不足していたために、このような受給の権利を契約上「放棄」してしまった場合、またはそのような権利について全く言及していない裁判所による離婚判決を得た場合でも、それは受給権を法的に放棄したことにはならないということを忘れずに、受給ができるようにSSAなどと相談し受給手続きをなさるようにお勧めします。自らの権利を理解していなかったために、しなくても良い経済的な苦労、不安を体験することにならないようにしましょう。自分の老後の生活を守るのは自分であるということを忘れずに。
今回は、扶養の必要がある子供を抱えて離婚した場合のソーシャル・セキュリティ給付に関する権利にまたはミリタリー・リタイアメント給付については触れる余裕がありませんでした。次回のトピックとして考えてみましょう。