2007年3月


 2月18日に私のオフィスで行われました「Estate Planning」に関する勉強会は、23名の方が参加し大変活発な議論となりました。友情出演した弁護士Marvin Davis氏の「遺言の必要性」についてのお話に続き、私が「信託」について話ましたが、その最中も多くの質問が参加者の間から出ました。それぞれの状況に応じての質問に対して、会場からも回答が出たり、互いに学び合うよい機会となりました。最後に「今後もいろいろなトピックで勉強会をして欲しい」という要望が出ましたので、また企画を立てたいと思っています。皆様も何か疑問に思うこと、知っておきたいトピックなどがありましたら、お知らせください。今後考えている企画としては、「法廷通訳トレーニング」というのがあります。裁判所にお出かけになったことがある方はご存知かと思いますが、英語を母国語としない人が、申し立て人(Petitioner)、回答者(Respondent)、原告、被告、証人、専門家証人などとして裁判所の手続きに関わる際には、通訳が手配されます。その場合は裁判所が費用を負担し通訳を雇用してくれることもあります。アリゾナの裁判所でもそれぞれの地区で法廷通訳として登録している方たちがあり、必要に応じて裁判所の依頼があれば法廷で通訳業務をします。法廷通訳は、通常のビジネス通訳と異なり、多くの法律用語や裁判手続きについての一定の知識が必要とされます。このような法廷通訳業務に従事してみたい、またはすでに法廷通訳として登録しているが法律用語や裁判手続きについて知識を深めたいという考える方、このようなトレーニングの企画に参加なりたい方、近藤までお知らせいただければ幸いです。

 さて、今日は、「ハラスメント禁止の差し止め命令(Injunction against Harassment)」についてお話しましょう。以前にトピックとして取り扱いました家庭内暴力などについての「保護命令(Protection Order)」とは少し異なるものですが、類似した裁判所命令です。命令が出される対象が異なるという点が大きな違いです。「ハラスメント禁止の差し止め命令」は、通常「保護命令」が近親者、姻戚関係者、同棲者、元配偶者、(元)ボーイフレンド・ガールフレンドなどに対して発行されるのに対して、主として他人、隣人、デートの相手などに対して発行されます。

  ハラスメントの定義とはどのようなものでしょうか?アリゾナ州の法律によると(A.R.S. 13-2921)ハラスメントとは、「ある特定の人に向けられ、その特定の人が重大な危機を感じたり、迷惑したり、悩まされると感じる原因となる行為、および実際にその特定の人に重大な危機を感じさせ、迷惑であると感じさせ、悩ませる行為」と定義されています。

 この定義では具体的に何がハラスメントに当たるのかということを決めるのは難しい面もありますが、具体的なハラスメント行為については、同条に、

1. 名前を名乗ったり、名乗らなかったりして、口頭、電子的手段、機械的手段、電報、電話、または書面によりハラスメントとなるコミュニケーションを行うこと、

2. 止めるように言われた後も、公共の場所でなんらの合法的な目的なしに他人の後をついてまわる、

3. ハラスメントとなる行為を他人に対して繰り返し行う、

4. なんら合法的目的なく、他人を監視したり、別の者に監視させる、

5. 複数回にわたり、警察など当局、信用調査機関、福祉関係機関などに対して虚偽の報告をする、

6. 公共のユティリティ(電気、ガス、水道など)の供給に干渉すること などの例が挙げられています。

 いわゆるストーカー行為、付き合い始めたばかりの頃のデートでの暴力・ハラスメントの問題などは、上記の定義に当てはまるものでしょう。このような行為を止めさせるためには、上記「差し止め命令」を発行してくれるように、州、市その他の裁判所に申し立てることになります。この場合、いつハラスメントとなる行為があったのかということが重要な要因となります。「差し止め命令」を発行してもらうには、行為、事件が依頼の日から1年以内に起こったことであるという必要条件があります。(この場合、ハラスメント行為を行った者が刑務所に入っていた期間、別の州などに出ていた期間は除外して1年間という期間を計算します)もし、命令を出してもらいたい「相手」が複数であれば、その一人一人に対して、別々に申し立て書を提出する必要があります。申し立て人が自らの住所を相手に対して隠しておきたい場合は、申し立て書に住所を書かずに別にその旨を裁判所の書記に申し立てることもできます。「差し止め命令」そのものは無料で発行してもらうことができますが、相手側に対する送達には場合によって料金が課されることもあります。

 「差し止め命令」を依頼する際に必要な情報としては、知っている場合には相手の名前、生年月日、住所、ソーシャルセキュリティ番号、およびハラスメント行為が起こった日付、その他相手の身体的特徴などとなります。  公証された申し立て書を裁判所に提出すると、裁判官の判断により、即時命令を発行することが必要であると認められれば、「差し止め命令」が発行され、相手に送達されると同時に相手側は、それまでしていた「ハラスメント」に当たる行為を再び行うと、「命令違反」となり罰規定の対象となります。保安官、警察官などは、逮捕状無しでも当事者がハラスメント行為を命令に違反して行ったと信じるに足る合理的な理由がある場合は、この者を逮捕することができます。

 しかし、「差し止め命令」を依頼した当人は、逮捕されても相手が法的手続きに従って保釈されてしまうという可能性があることを知っておくべきでしょう。また、発行された「差し止め命令」は相手に送達された時から1年後に期限切れとなりますので、ハラスメント行為が引き続き行われる可能性がある場合は、1年後に「差し止め命令」の延長を申し立てる必要があるということに注意しましょう。

 「差し止め命令」が発行され、相手側に送達されると、相手側はこの命令を却下するよう申し立てができ、その申し立てに基づいて、裁判所はヒアリング(審理)を行います。その場で両当事者が証拠を提出し合って裁判官の判断を仰ぐことになりますが、その決定に納得できない場合は、アリゾナ州のSuperior Courtに控訴することになります。

 アリゾナ州で最近追加されたカテゴリーとしては「職場でのハラスメントに対する差し止め命令」があります。これは、特定の1対1の「差し止め命令」でなく、特定の職場、雇用主のもとで働く人々をグループとして保護する目的の命令です。