2009年10月
今回は、まだまだ巷に蔓延しているForeclosure(担保流れ)のお話をしましょう。
「リセッションは終了。経済は上向いている」などという解説がTVニュースなどで伝えられてはいますが、失業率はまだまだ高く人々の暮らしは楽にはなっていません。今年後半から来年にかけては家のローンが払えなくなりForeclosureに直面する人々の数も増えると言われています。
この問題に関して最近大変興味深い記事を読みました。「Rolling Stones」紙にしばしば寄稿するMatt Taibbiの書いた記事でタイトルは「Waking Up to Discover the Mortgage Market Was a Giant Criminal Enterprise(気がつけば住宅ローン市場は巨大な犯罪業界であった)」というものです。(2009年9月22日付)Taibbiは、カンサス州最高裁判所の判決に触れた別の記事(「Landmark Decision: Mssie Relief for Homeowners and Trouble for the Banks」2009年9月23日付でwww.Globalresearch.caサイトに掲載された記事、著者Ellen Brown)に言及し、多くの住宅ローンではForeclosureを実行する権利を有する主体が明確に存在しないために、事実上Foreclosureは実施不能である可能性が高いという結論を導いています。
これは、失業や医療費の支払いなどのためにローンの支払いに苦しみ家を失うかもしれない不安に苛まれる人々には一捻りした朗報であるかもしれません。 Foreclosureを許可しない判決 カンサス州最高裁判所は、Mortgage Electronic Registration System (MERS)という電子的に住宅ローンを登録しローン所有権移動を追跡する会社(6000万件の住宅ローンを取り扱う)にはForeclosureを実施する権限はないという判決を下しました。多くの住宅ローンはローンを設定して実際に資金を貸す銀行などがローン契約成立後間もなく当該ローンそのものを別の会社に売却したり、複数の住宅ローンを纏めてそれをまた証券化して切り売りするという現象が横行し、多数のローン(特にサブプライムローンと呼ばれるローン)の返済不履行が現在の世界的経済危機の発端となったことは、みなさまの記憶に新しいことでしょう。纏めた後でバラバラに分割されて証券として投資家たちに売却済みの複数ローンのうち、いずれかのローンが返済不能に陥りForeclosureとなった時、伝統的住宅ローンの場合は資金を貸した銀行などがその実施主体となるのですが、現状のように投資家の手中にある証券がどのローンを代表するものなのか不明確な状況では誰がForeclosureの実施主体となるのか不明です。そこで上記のMERSが権利者(ローンの貸し手としての所有権を有する者)を代表してForeclosureを実施する主体として行動するという現象がよく見られるようになりました。
ところが今回のカンサス最高裁の判決(National Bank v. Kesler, 2009 Kan. Lexis 834)は、このMERSはローンの実際上の所有者ではなく、Foreclosureを実施する権利を有さないとしたのです。この判決は、今のところカンサス州のケースに適用されますが、判決の論理は他の州でもForeclosureに直面している消費者により(彼らの弁護士により)Foreclosureの実施を中止させるための理論武装に利用できそうです。今回の判決では、MERSは権利者でないと結論していますが、それでは誰が権利者なのかという点は明確に示していません。最初にローン資金を提供して消費者と契約した銀行や住宅ローン会社は、すでにこれらのローンを売却して全資金を回復済みなので、これらの会社にはForeclosureを実施する権利はないはずです。複数住宅ローンを纏めてその後分割証券化して販売してしまった銀行や証券会社などにも所有権はありません。本当の意味で住宅ローン(分割済みの一部づつ)を所有しているのはそれぞれの証券を手中に持っている投資家たちですが、その証券のうちどの部分がForeclosureの対象となっている消費者の返済不履行に陥っている住宅ローンなのかということは、ローン契約が実施された時点での契約書類と売買契約がいくつか行われた後の投資家の所有権との書類上の関連付け、つまり法的関連づけができず、明確にできるものではありません。
つまり、見まわしたところ、個別住宅ローンが返済不履行に陥っても、Foreclosureを実施できる権利を明確に有する主体は「存在しない」という奇妙な状況が現状であるということになります。別の見方をすると、まったく所有権が確実に保証されていない証券を銀行や証券会社が投資家に売りまくったということになり、上記の記事のタイトルにいう「住宅ローン市場全体が詐欺行為であった」という意識の目覚めを呼ぶことになったのです。もろもろの事情から住宅ローン返済不能に陥った消費者にとっては、上記の「Foreclosureを実施する主体は存在しない」という論理を盾にMERSなどと裁判所で闘争できる可能性が高まり、実際のこの理論武装でForeclosureを実施しようとする実体(銀行など)と闘い、交渉し住宅ローンの残額を減額してもらうことができたというような例もあるようです。また、複数の住宅ローンを纏めて証券化して投資家たちに販売した企業(銀行、証券会社など)は、投資家たちから実質的に何も担保がない紙屑のような証券を「利益率が高い証券」として売りつけられたことに対して「詐欺罪」で訴訟を起こされる可能性もあることになります。ウオール街の天才たちが高度な数学的モデルを駆使して考案したといわれるこの住宅ローンの証券化は、最終的には詐欺にしか過ぎなかったという結論にいたる可能性が大ということになります。
米国における比較的新しい住宅ローンの約半数(6000万件に及ぶ)がMERSに登録されているということですから(上記Ellen Brownによる記事)この判決が及ぼす影響は極めて大きなものになる可能性があります。読者の中にForeclosureの危機に直面している方がありましたら、自宅にかかわる住宅ローンがMERSに登録されたものであるか否か調べる価値があるかもしれません。Foreclosureを逃れることができる可能性があります。 Taibbiは、上記の記事の中で昨年の暮から実施されてきた政府による金融機関や保険会社のBailout(税金の投入)の真の理由は、投資家がこれらの証券化された住宅ローンについて銀行・証券会社などに対して買値での買い戻しを求め(買値は現在の価値の10分の1)、応じない場合には訴訟を起こすという可能性を恐れてであった可能性があると述べています。