2006年10月
今回は、最近増えている交通違反に関するご相談についてお話しましょう。特に目立つのが、日本から観光旅行、出張などでアリゾナ滞在中、レンタカーの運転中にハイウェイ・パトロールまたはシェリフなどに停止を命じられて、最終的に違反切符を切られるという例です。アリゾナに居住していないために、罰金刑のみでなく裁判所への出廷を求められている場合に困ります。突然の日本からの電話で、裁判所関連の処理を依頼されることもよくあります 。
決まりきった事例というのは、「パトカーが私の車を追跡していたらしいのですが、音がまったく聞こえなかったので、自分のことを追跡しているとは分からなかった。そういえば、パトカーの上のライトは点滅していたようだ」というご本人の説明です。実際に停車するまでに、10マイルから30マイル位まで走行してしまったという例もあります。パトカーに追跡されながらフリーウェイなどを走行しているうちに、他にも「安全を確かめないでレーンを急に変更した」とか、「スピード超過」などの別の罪状がどんどん追加されてしまったということもあります。単にパトカーの停車命令を無視した少しだけ走行してしまったという場合は、「軽罪(misdemeaner)」で済みますが、スピード違反や、安全を無視したレーンの切り替えなど、時により「パトカーの停止命令を振り切って逃亡」などの罪状が足され、数十マイルの走った後では、「重罪(felony)」の罪状となってしまうことがあります。
上記のような警官の停車命令に反したというような罪状やそれに追加していろいろな罪状がつけられている場合、単に罰金を払って済ませるというわけには行きません。違反切符を切られた時点で裁判所への出頭命令がすでに書き込まれることになります。アリゾナに日本や別の州から観光・出張などで来ていて違反切符を発行された場合は、裁判所に指定された日に出頭しなければならなくなり、大変困難です。日程が仕事の都合や家庭の都合などで出頭不可能になることもあります。 出頭の日が来て、出頭できず、理由説明や日程の変更を裁判所に依頼することなくそのままにしていると、手続きの自然の成り行きとして「逮捕状」が発行されることになります。いわゆる指名手配の対象になってしまいます。「軽罪」の場合は、路上でパトカーなどに停止されて免許証を調べられ逮捕状が出ている場合も、その場で実際に逮捕されるということはないということですが、すでに「重罪」となって指名手配されている場合は、路上でパトカーに停止を命じられそのまま逮捕されるという場合もあるでしょう。 以前は州境を越えた警察のデータベースはあまり効率的でなかったようですが、つい1週間前に東部の大学に戻る私の娘に同伴してネブラスカ州のインターステート・フリーウェイ80号線を走行中、最近のデータベースの素晴らしさ(?)を証明する出来事がありました。運転していた娘が道路の曲がりくねっているところで少しだけ道路の端の触れると大きな音がする部分に入ってしまいました。すると、車中の誰も気づかないまま(世闇にまぎれて)後ろを静かに追跡していたパトカーがライトを点滅させ停車を命じました。停車を命じた時には、すでに警官がパトカーに装備されたコンピュータで車のライセンス番号からどこの誰の車であるか調べ上げた後でした。
つまり、アリゾナで逮捕状が発行済みであれば、アリゾナに居住していなくても別の州を走行中に停止を命じられ逮捕されてしまう、という可能性は以前より高くなったということです。 このような事態になるのを避けるためには、違反切符に指定される裁判所への出頭日に都合がつかない場合は、黙って出頭しないというのではなく、裁判所に事前に出向くか、少なくとも電話をかけ、「指定された日程に都合がつかないので、別の日を指定してください」と連絡を取ることでしょう。何もせずに、無視するということはお勧めできません。初めは小さかった問題を、どんどん大きくしてしまいます。もし、指定された出頭日にどうしても都合がつかない場合は(日本に住んで仕事をしている場合など)、弁護士に依頼して代理人として裁判所に出向いてもらい、出頭日を変更したり、すでに逮捕状などが出ている場合は保釈金を支払い逮捕状をキャンセルしてもらうこともできます。また、次に指定された出頭日に弁護士が出頭し、事前に裁判所の了解を取ることにより、別の州、都市、別の国からご本人が電話で参加するということも裁判官が許可する場合は可能です。
違反切符には、例えば「アリゾナ州法28-1595に違反」などと書かれています。この法律の条項を見ると、「警官やその他の権限を付与された者が視覚的または音声により停止を命じたにもかかわらず、自動車の運転者が知りつつ停車しなかった、または停車することを拒否した場合は、クラス2の軽罪に処す」と書かれています。この罪状に対する最高刑罰は、4ヶ月の懲役、$750の罰金、または2年間の執行猶予となっています。罪のない誤りと自分では思っていても、違反切符をもらった後の処置如何では、とんでもない結果になってしまう可能性があります。もし、出頭指定日に裁判所に自ら出向くことができる場合、または出頭日に出頭できないために弁護士に依頼して代理人として出頭してもらう場合の両方において、「軽罪」であれば最も簡単に事件を片付ける方法は「知りつつ停車しなかった」または「停車することを拒否した」という法律の条項が完全に適用しないと思っても、「有罪を認める」といういわゆる司法取引をその場で行うことにより、一定の罰金を支払うことにより事件を終了させることでしょう。有罪を認めず、「無罪」と主張する場合は、その後も数回に分かり裁判所に出頭し、自分が無罪であるということを検察官相手に闘う必要があります。よほど時間が余っている人でないと、これは「骨折り損のくたびれ儲け」に終わるでしょう。「無罪」の主張が通らず、負けた場合の刑罰は当初有罪を認める司法取引の場合より重くなるでしょう。
しかし、「重罪」の罪状となってしまった場合は、そう簡単に「有罪を認める」という司法取引をするのは考えものです。重罪の罪を認めるということは、その後移民局などに提出する書類や口頭での質問で「逮捕されたことがあるか」、「重罪で有罪になったことがあるか」と聞かれた場合に両方ともに「はい」と回答しなければならないことを意味しています。これは、将来、米国に入国する場合に問題になる場合があります。また市民権を申請する場合には、重罪で有罪になったという事実を報告する必要がありますし、裁判所からその事件に関する書類を証明付きで取り寄せ提出しなければなりません。「重罪」を司法取引で認めることが、それぞれの個人にとって移民法上の法的立場にどのような影響を及ぼしえるかということを事前に、移民法専門弁護士などに問い合わせることにより調査する必要があるということを記憶しておいてください。 いずれにしても、交通違反などは誰にでも起こりえることですから、深刻に考えずに、違反切符をもらってしまった場合は、すぐに対処しましょう。友人の方などが、日本または別の州から訪問中にレンタカーなどを運転なさる場合は、「音なしの構えで網をはっているパトカー」に気をつけるようにご注意ください。警官はライセンス番号から、レンタカー(多分よそ者)を簡単に見分けることができます。この地域に慣れず、誤り犯す可能性が高いレンタカーを運転中の「よそ者」が警官の「違反者取締り件数の増大」のためのよい標的になっているかもしれません。また、日本でパトカーのサイレンに慣れている人々は、音なしでライトのみが点滅する場合に、それが「自分に対する停止命令である」ということを理解しないことが多いようです。これも注意を要する点です。
みなさま、安全運転をなさいますように。