2004年1月

 明けましておめでとうございます。2004年もよろしくお願い申し上げます。
 この記事が皆様のお手元に届くころには2004年という新しい年になっている頃でしょう。
 2003年中に取り扱ったケースをいろいろ振り返ってみて、特に契約に関して気がついたこと、皆様にご注意いただきたいことを簡単にまとめてみました。2004年中も後で修正が難しくなったり、損をしたり、悪意ある人間に騙されたり、裁判騒ぎになったりすることのないように、十分気をつけてビジネス、個人上の契約、約束を交わすようにいたしましょう。


取引上、雇用上、個人的な契約、約束は書面にする


 契約上の問題が起こり、その解決のために困難に直面したり、訴訟になってしまうという例が数多く見受けられます。その中でも最も多いのは、契約や約束の内容を書面にし双方が署名をするという正式な契約書を作成しなかったために問題になる場合です。いわゆる「口約束」しかない場合ですが、約束や契約も、双方まったく異なる「内容の理解」になっていることが多いのです。条件、支払い額、その他、契約や約束の最も重要な項目について、双方の「理解」がまったく異なるというのが頻繁に見られます。「どうしてこんなので、契約が成立したの」と私も首をかしげでしまいます。約束や契約を交わした時点では、「まったく異なる理解」では約束や契約が成立しなかったはずなので、ある時点では双方の理解が一致していたと考えられる(少なくともほとんどの場合)ます。やはり約束や契約が成立する時点で明確に書面にしておくべきでしょう。


契約に関する基本的な法律を理解する


 契約に関する基本的な法律を理解しておくことが大切です。例えば、リースなどにおける期間が1年以上にわたる契約は書面による契約書がなければ無効です。1年以上の期間にわたる商取引に関しても、同様に契約書を作成する必要があります。皆さんの中には、ビジネス上または個人的に友人、知り合い、ビジネス上の取引相手などにお金を貸したりなさる方もあるでしょう。その場合、AさんからBさんがお金を借り、Cさんが保証人になるなどというケースもあるでしょう。CさんとAさんとの間には「BさんがXXの額をXXの期日までに返済しない場合には、Cが保証人としてBさんの代わりにAさんにXXの額を返済する」というような内容の契約が交わされることになりますが、このような「保証人契約」も書面による正式な契約書が存在しないと無効です。つまり、「私が保証しますから」というCさんの約束は、Cさんの署名入りの契約書がAさんとCさんとの間で正式に締結されていない限り無効なのです。署名による「保証契約書」がない限り、Bさんが借金の返済を滞らせても、AさんはCさんに「取立て」をする法的ベースがないことになってしまう、つまり「空約束」になってしまうのです。
 いくつもの複雑な契約を交わしながら、契約の一部のみが書面による契約書として残っており、その他の部分が大変重要であるにもかかわらず書面による契約書として作成されておらず、口頭の約束、契約の部分の内容をめぐり当事者同士が裁判で争うというような例もあります。契約Aが契約Bを条件とするにもかかわらず、契約Bの方は口頭の契約・約束でしかなく、裁判所に提出する証拠としては契約Aしか書面の形で存在しない、というような場合です。実際に具体的な契約書が存在しないために、「口約束」の部分(つまり、契約Aを締結するための前提条件)が存在したのか否かから両当事者が争うことになります。契約Aしか存在しない方が都合がよい当事者は、「契約Aが全てである」と主張するでしょうし、実際に契約Aの条項として「当契約がAとBとの間の当事案に関する契約の全てである」という文言があるかもしれません。しかし、もう一人の当事者は「そういう文言がある契約書に署名をしたのは、一方の当事者が契約Bの全ての条項を契約Aの締結・署名の前提条件であると同意したから、私は契約Aに署名したのです」と主張するかもしれません。裁判に訴えてどちらが正しい主張をしているのか争うことになりますが、物証(契約書)なしに、自分の主張を正しい事実を伝えるものであると裁判所に判断してもらうのは至難の業です。双方に真っ向から対立する主張をぶつけ合うのですから、確定的な物証なしの「状況証拠を並べ立てての争い、つまりどちらが嘘をついているのかを決める争い」となるわけで、まさに「藪の中」という映画の世界そのものになってしまいます。裁判の経過の中で、双方の当事者が、真っ向から矛盾する「ストーリー」を真実としてそれぞれ主張することになります。このような状況証拠から、双方が満足できる結果を導くことは不可能です。裁判の結果、真実を語っている方が勝利するという保証もありません。
 やはり、問題を起こさず、最初に意図したとおりの契約を実施し、後に後悔を残さないようにするには、契約を締結する時点で明確に「契約の内容」がどのようなものであるか相互に確認して、その結果を明確に書面による契約書の形式で残し、そのオリジナルを各1通づつ所持しあうということを確実に行う他ないでしょう。そうしておいても「各契約条項の解釈をめぐり」意見が対立し訴訟に持ち込んで「解釈の適正性」を争うという場合すらあるのですから、「契約書」そのものが存在しないままに、全てが順調に運ぶだろうと希望するのは、楽観的過ぎると考えるのが自然でしょう。


契約条項の内容が法的に妥当か否か確認する 


 いくつかのケースの場合、契約書の条項として自分なりに考え、将来に問題を残さないようにしようとしたにも関わらず、一定の条項の内容が法的に無効または「おそらく無効とされるであろう」という内容であるために、実際に当事者間で争いが起こった場合に、せっかく設けた条項がその条項を頼みにしていた当事者には役に立たなかったという例もあります。ひとつの例としては、ビジネスを買収した当事者が同ビジネスを売却した当事者に対して同業に従事し競争をしないという、「同業競争制限」条項をビジネスの売買契約書中に設けた例です。このような競争制限条項を設けたのはよかったのですが、「アリゾナ州全域にわたり競争的な同業ビジネスに携わらない」という条件を付けたのです。このようなあまりにも広範囲な競争制限ですと、裁判などに持ち込んでも、合理的・適正な制限範囲を超えているために法的に無効とされる可能性が高い例でした。判例としても、あまりにも競争制限が厳格すぎると、無効とされる場合が多いのです。例えば、ある薬局で勤務していた薬剤師に対し、薬局の所有者が「今後アリゾナ州内のいずれの薬局においても薬剤師として勤務し、わが薬局と競争することを禁じる」などという契約書を作成し退職金を支払う条件として当該薬剤師に署名させたような場合、裁判で争うことになればこのような厳格過ぎる制限は「当該薬剤師の働く権利、プロフェッショナルとして勤務、生活する権利を100パーセント奪うことになるために無効」とされることでしょう。
 契約の内容を書面にするのは第一歩、その次にはそれぞれの契約条項の内容が連邦法、州法、市条例その他関連の法律、条令などに違反していないか確認する必要があります。法的に効果のない無効とされるような契約書であれば、作成しても無駄というものでしょう。やはり契約書作成段階で弁護士にチェックしてもらうことをお勧めします。
 私が相談を受ける事例でも、「契約時に相談していただければ、そんなものに署名しては絶対だめ」、「その制限条項は範囲が広すぎて、法的に無効となるので、当該ビジネスの所在地から半径3マイル以内では、とか半径5マイル以内では営業を禁ずるという表現に変更しないとだめですよ」などとアドバイスができます。相談を受けた時点では、「時すでに遅し」となっている場合がほとんどです。やはり、物事は「予防」の方が「後始末」より格段に容易です。費用も、予防手段をとる方が、後始末に必要な費用(訴訟など)より遥かに小額で済みます。無駄な争いの種をまき、両当事者の弁護士のみがお金を稼ぐなどというのは、資源の無駄遣いです。後ろ向きの努力は、何も生産しないという意味でも無駄です。予防的な措置をとるための費用は節約せず、後始末に必要な費用を限りなくゼロに近づける方が賢明です。
 2004年が皆様にとり、「備えあれば憂いなし」の年になりますように。また過労になり病気になったりしませんよう、くれぐれもご自愛くださいませ。働くこと、遊ぶこと、休むこと、周囲の家族、友人と楽しく過ごす時間も設けること。。。バランスの取れた楽しい毎日を創り出すことができますように。