2001年3月
今回は、共同事業を興したり展開したりする上で留意したい事項について少しまとめてみました。最近相談を受けたいくつかのケースを取り扱って気が付いた点を取り上げてみましょう。
共同経営者としての事業参加
みなさんの中には資金を出し合ってビジネスを立ち上げ友人、知り合いと共同事業をなさっている方もあるでしょう。全面的に自己資本で事業を興す場合は話が比較的簡単ですが、時によっては資本が不足していたり、事業の性質上共同経営者が必要なこともあるでしょう。共同経営者としてまたは経営者ではないけれども資本を投資してサイレント・パートナーとして事業の利益を分かつ場合もあるでしょう。資本投資して少数株主として事業の所有者の一人となり、同時にその事業(会社)で従業員として勤務することもあるでしょう。状況は個別的に異なりますが、起こりうる問題には共通点もあります。
資本投資の条件
いろいろな事例を見ていつも驚くのは、事業を興すことについてはみなさん大変熱心に検討するし準備をするのですが、物事がうまく運ばなくなった時を想定してそのための用意を事前に行う人は少ないということです。例えば三人の人たちが共同オーナーとして100、000ドルづつ資金を出し合って事業を興すとします。ビジネスは最初の一年が大変な時期です。何もかも準備して商品やサービスを設定し、カスタマーを獲得し、十分な売り上げを挙げ、経費、従業員の給料などを差し引いて、事業を展開し育成して行く必要があります。しかし、何もかも新しく始めなければならないし、設備投資にもお金がかかりますから、最初の年に利益を挙げることは容易ではないでしょう。つまり、しばらくの間この事業に関わる人たちは不安と闘い、日夜働き、資金繰りに苦しみながら経営を続けて行かなければならないのです。最初三人で安定した経営ができると思って事業を始めたにもかかわらず、ストレスが高い毎日で三人の関係が悪くなることもあるでしょう。しばしば見られるケースとしては、三人の内一人、または二人が「こんな苦労をするなんて思わなかった」、「共同経営者のXXはあんな人間とは思わなかった」、「こんなに損をするなら、全てを失わないうちに手を引こう」、「経営方針が違う」と当初の自分の思惑との「ずれ」を感じて事業との関わりを打ち切りたいと希望するようになります。三人が全て同じ気持ちを抱いていれば、事業を廃業することになるのですが、しばしば思惑は三人三様になることも多く、一人または二人が残って事業を継続する場合もあります。この場合、それぞれ投資した資本をどのように処理するのかが大きな問題になります。ぎりぎりの経営を続けている事業において、一人または二人の投資者が脱退するからといってそれらの投資者が投資した資本をすぐに現金で返すことは容易ではないでしょう。しかし、逆に持てる限りの資金を投資したがこの事業から撤退して新しく「人生のやり直し」をしたいと思っている者にとって、投資した資本金が戻って来ない場合は次の人生の展開がスムーズに運ばないでしょう。「どうすればよいでしょうか」という相談は、両方の立場の人から受けます。
不思議なことに、このような状況になったらどのように対処するのか、つまり資本金をすぐに返すのか、ある一定の時期を経るまで返さないのか、どのような条件で返すのかというような事項について事前に書面による取り決めができていることが少ないのに驚きます。問題が起こってから「どうして良いのか分からない」と途方に暮れるのです。
勿論、これはある意味ではよく理解できます。つまり、これから事業を興そうとする人々は「絶対成功する」という楽天的な気分に溢れていなければとても新たに事業を興そうなどと思わないでしょう。しかし、開業する多くの会社、ビジネスが一年以内に潰れてしまうのも事実です。事業を興すということは成功する可能性もある反面、失敗する可能性も同じ程度にあるということを憶えておく必要があります。失敗したり、問題が起こった時にはどのように処理するのかという地図・ガイドラインを事前に準備して置くべきではないでしょうか。
「友人」にある事業(株式会社組織)に誘われて少数株主( パーセント所有)として参加、従業員としても日常勤務していたら、ある日突然「明日から会社に出ないでよい」と過半数株主である社長に通告され、つまりクビになってしまった場合がありました。この場合、会社の創立時に何も規定を設けなかったこと、そして何ら雇用契約を結んでいなかったことが災いして、クビになった当人は「寝耳に水」ではあったけれども、法律的には何も権利がなく、黙って引っ込むしかありませんでした。会社の創立時には3万ドル資本を投資してありましたが、これも全く協定がなく、過半数株主つまり社長が一人で取締役会と株主総会を開催して法的体裁を整えて「2年の割賦で資本金を返す」と一方的に宣言され、その条件をそのまま飲むより仕方がありませんでした。つまり、創立時には「是非投資をしてくれ」と言われ助けるつもりで投資し、数年間相手を信用し勤務していたら、過半数株主の都合で「もう必要なくなった」と判断された時点で「クビ」にされてしまい「信用していたのに」と言っても「後の祭り」、投資していた3万ドルもすぐに手元に戻らず、新しく事業を興したり投資したりできず、結果的には相手の都合の良いように利用されてしまったのでした。
別のケースでは、共同経営者として商売(個人経営で会社組織になっていなかった)をしていた二人のうち一人がギャンブル好きで売上金をほとんど持ち逃げしギャンブルで遣い果たし事業が破綻してしまった場合がありました。この場合は、個人経営事業の共同経営ですから、一人の行為の結果は別の一人の責任ともなり、事業の継続は不可能になってしまったのでした。この場合も「相手を信用していた」にもかかわらず、相手の常軌を逸した行動の結果自分の人生をも狂わせることになってしまったのです。自分の失敗でビジネスが成功しなかったのなら仕方がないとあきらめることもできるでしょう。しかし、自分に落ち度が全くないのにこのような形で事業が失敗してしまうとは悔しさも人一倍でしょう。
もう一つ別のケースでは、米国に来てから間もない者が新聞広告で募集したビジネス・パートナーの詐欺行為の犠牲になった例がありました。この場合は、共同経営者となった二人ですが、資本金は前者のみが100パーセント投資していました。「相手を信用しているから」との理由で小切手を書いて支払いをする権限を相手に与えたところ、カスタマーからの預かり金(信託口座に入金してあった金額)プラス会社の資本金3万6000ドルほどを使って自分の家を買ってしまった例でした。この場合は、勿論詐欺罪と信託口座に入金してあった金を盗み遣い込んだとして刑事事件になり、何も知らないでいた前者はもう少しで刑事罰の対象になるところでした。結局この金額は二度と戻ってきませんでした。
上記の全てに共通していることは、友人、知り合いである共同経営者を「信用していた」という理由で書面による協定を作成したり、小切手による支払いを決済する権限を簡単に(前者による確認過程を設定することなしに)与えてしまったということです。つまり結果的に「信用すべきでない者」を信用してしまったわけです。これらの全てのケースは、事業を立ち上げた時に相手の善意または「相手への信用」にのみ依存するのではなく、「確認、チェック・システムを設定」する必要があったといえます。最初の例では、雇用に関しては相手が投資を依頼してきた時点で比較的有利な立場・交渉力を利用して「雇用契約」を結び相手の一存で即時「クビ」にできないようにしておけばよかったことになります。そのような「雇用契約」の中で「通知期間(少なくとも1ヶ月など)」「退職金」などの解雇の条件を事前に設定できたはずです。また「解雇」や「辞職」する場合の「資本金の取り扱い:つまり返金の時期・条件など」を事前に取り決めておくべきでした。そのような事前の準備があれば、「寝耳に水」のショックを受け一方的に不利な条件で事業から全面的に放り出されるようなことはなかったはずです。
次のケースでも「売り上げ」を勝手に持ち出してギャンブルしていた共同経営者に対して、何らチェック・システムがなかったことが問題です。売り上げ・利益がどの位あるのか二人の共同経営者は同程度に把握しコントロールできるような仕組みを事前に設定しておくべきでした。最後の例では、小切手による支払い決済の仕組みを二重にチェックできる仕組みを事前に設定し忠実に実行する必要がありました。一定の額以上の小切手による支払いについては共同経営者二人の署名がない限り無効とするように設定することもできたはずです。
新しくビジネスを開始することをお考えの方々は、ご注意ください。