2004年5月

 グリーンカードを取得してやれやれと思ったものの、日本に帰国して仕事をすることになったり、大学に通ったり、病気の親を看病するために帰国が必要になったりする方々からご相談を受けることが多々あります。以前は、「1年に1度米国に帰る」というパターンでグリーンカードを取得した後も日本に住み続けたり、長期的に日本に帰り「またいつか米国で暮らそう」という計画のまま1年に1度の帰米を何年にもわたって繰り返す人々も、比較的問題なくそのパターンを続けることができました。およそ30年もグリーンカードのままでいた私も、そのようなことを繰り返して日本に住みながら米国に1年に1度来るということを数年続けていたことがありました。時には、そのパターンでいると空港の入国係官に「米国に居住する意図がない」としてグリーンカードを取り上げられてしまう、というようなことを聞き、懸念はありましたが、問題なくこのパターンを繰り返している人々も多くおりました。


9.11以降の変化


 しかし、どうも9.11の後は様子が変わってきたようです。正式には1年に1度米国に帰るというパターンで問題がない「はず」なのですが、あちらこちらから1年に1度ではなく6ヶ月に1度の頻度で米国に来る必要がある、ということを聞きます。実際に入国係官に「6ヶ月毎」と言われた人もあるようです。転勤、通学、病気の親の看護などで日本に帰国したグリーンカード保持者にとって、経済的にも状況としても、6ヶ月に1度必ず米国に帰るというパターンは相当に負担が大きく、時によっては不可能でしょう。そこで、「再入国許可(REENTRY PERMIT)」を取得してから米国を離れて日本に帰国すれば少なくとも1年間、そして最長2年まではグリーンカードを保持したまま日本(または別の国)に滞在できることになるので、再入国許可を取得する手続きを申請することになります。


 再入国許可というのは、原則的に米国を離れる前に取得する必要があるのですが、9.11の後は再入国許可の取得にも大きな変化があるようです。以前は数週間という短い期間で簡単に取得できたのですが、最近申請したケースでは、「500日くらいかかる」という返事が来てびっくりしました。誰でも「えっ」と驚きの声を上げるでしょう。「1年間留守にする、最長でも2年間留守にするために「念のために」再入国許可を取得したいのに、500日待つの?」というのが正直な疑問でしょう。病気の親のために、緊急に日本に帰りたい、大学に通学したい、転勤などという理由であれば、通常急を要するわけですから、500日待つのでは意味がないでしょう。その間に半年毎に何回日本と米国を往復しなければならないでしょうか。グリーンカードを維持しながら、母国と米国を行ったり来たりする人々に対して「友好的に便宜を図る」というより、「無理してグリーンカードを維持しなくても、自分の国に帰りグリーンカードのことは忘れるか、それが嫌なら米国で暮らせ!」と突き放されたような気がしますね。つまり、本来の「再入国許可」の意味を失ってしまっているようです。


 このような状況であることをご存知ない方もいらっしゃると思いますが、グリーンカードの取得と維持という点で大きな問題になるかもしれません。9.11の後は、皆様ご存知のように、これまで「開かれた国」として特異な国であった米国が「それほど開かれた国でありたくない」ためのさまざまな変更を行ってきました。出入国管理もそのような全体的な変化の影響を大きく受けました。


 グリーンカードのまま数十年いるというようなパターンは、米国側からみると「あまり望ましくない」ようです。グリーンカードを取得するというのは米国に居住したいので許可を求めたのだから、米国に住み続け、資格ができたら米国籍を取得しろ、米国に住み続けず母国と米国を行ったり来たりするような米国居住の意図がないか、明確でない人々には便宜を与えず、場合によってはグリーンカード(永住許可であり永住権利ではない)を取り上げ、永住許可を取り消す場合もあるのだ、と脅されているような気もします。
米国に入国する際に、「米国に居住しないならグリーンカードはいらないだろう」と入国係官に「脅しとも嫌がらせ、忠告」とも解釈できる言葉を掛けられた人は多くいます。どうしたらよいかとアドバイスを求められますが、現在のところこれで問題解決になるというような答えは浮かんできません。グリーンカードを保持して、米国滞在期間として国籍を取得できる条件を満たしている方々には「米国籍の取得」をお勧めしています。市民権を取得すれば、永久に米国に住むことは許可ではなく権利となるわけですから、権利を剥奪されることはありません。日本の国籍との問題(つまり二重国籍)との兼ね合いで心配なさる方も多いようですが、以前にも書きましたように二重国籍であるという理由、自ら米国籍を取得したという理由で日本の法律が明記している「日本国籍離脱を求める警告書」なるものを法務大臣から受け取った人は、これまでに皆無です。また「国際結婚を考える会」の情報によれば、法務省の訪問の際に法務省側でも二重国籍容認の方向で検討中であるような感触を得たということです。日本が「小子化」に悩む国であることも政策の変更の可能性を生み出す理由の一つかもしれませんが。


 そのような状況も考え合わせると、無理をしてグリーンカードを維持するより、条件が整い次第に米国籍を取得したほうがよいでしょう。


 グリーンカードを取得したばかりで、まだ米国籍取得の条件が整わない方々に関しては、グリーンカード取得後すぐに米国から出国するというのは得策ではないでしょう。やはり、客観的にみて、将来に向けてグリーンカードは維持したいが、生活の実態は日本にあるままという状態が長く続くと、ある日入国の際に入国係官にグリーンカードを取り上げられるというような可能性を少しづつ大きくしてしまうことになるでしょう。どうしても数年間日本に帰る必要がある場合は、不動産を米国に保持するなど、できるだけ生活の基盤が米国にあることを示すような条件を保持することをお勧めします。