2003年3月
今回は地域独占販売契約と電子商取引の話をしましょう。通信技術とコンピュータの普及により電子商取引が爆発的に拡大しました。一般の人々もインターネットを介してショッピングをするようになりました。このような状況が伝統的な地域独占販売契約に大きな影響を与えるようになり、これまでの一般的な契約を踏襲していたのでは、現実の状況に合わなくなるということがしばしば起こるようになりました。
例えば米国の商品を日本で販売する場合には、直接製造業者が日本で販売網を樹立して自社の製品を販売することもありますが、輸入販売を担当する代理店と契約を結ぶというのも伝統的な商法の一つでした。販売代理店として特定の商品を日本で販売する場合には、市場でその商品の存在を知ってもらい、消費者(または商品が部品である場合などは製造会社など)の関心を引き、実際に購入行動をしてくれるようにしなければなりません。そのためには、多額の費用と労力を掛けて宣伝・マーケティング活動をする必要があります。そのような努力をすることの見返りに販売代理店はしばしば日本という地域における販売を独占的に行うことができるように、「独占販売契約」を米国の会社などと締結します。
このような「独占販売契約」を締結することにより、自社の努力の結果である販売量や額の増大の利益も独占できるのです。このような契約は、取引がどこで起こったか確定しやすい、伝統的な商取引においては比較的簡単に遵守をモニターし契約違反が起こらないようにすることができます。しかし、最近のインターネットや電子商取引の普及により、このような独占販売契約に違反がないようにモニターすることが困難になってきました。
日本で独占販売権を得て、宣伝・広告に努力し商品が売れるようになった時点で、ウェブサイトを使用して米国から直接日本の消費者、ユーザー、極端な場合は問屋などに同一の商品を販売されてしまった場合はどのようにして「独占販売契約」を遵守させればよいのでしょうか。
いくつかの難しい問題があります。まず契約は、当事者間の約束ごとであるという事実です。通常地域独占販売契約というものは、米国の製造業者または米国で当該商品を卸売りまたは小売する権利を有する者と日本で代理店として同商品を販売する者との間で締結されます。上記のようなオンラインによる直接販売が起こり、日本の市場に別のルートで商品が流入した場合には、売り手が当該契約の当事者でない限り拘束力がないため、売り手の行為を中止させるための「差し止め命令」を勝ち取ることも困難でしょう。『契約違反』として訴えることもできません。契約に「契約の当事者である製造業者または販売権を有する者は、第三者(米国内の問屋または小売業者)にも日本への販売はさせないという規定がない限り違反の責任を問うことができないでしょう。また、インターネット上での商取引であるために、取引そのものは「日本への輸入ではなく、米国内での商取引である」と規定・解釈される可能性も大であり、その場合は日本の「独占販売契約」はまるで無関係の契約と解釈されてしまうでしょう。
なんとか、第三者を介しての『日本への同一商品の流れ』を中止させる手段はないでしょうか。最初に契約を作成した時点で、このような「抜け道」がないようにいくつかの条項を追加することができるでしょう。
まずは、上にも述べたように、契約の当事者である製造業者または米国での販売権を有する者に対して、「米国内、またはその他の第三国における代理店、小売店などを介しても同製品の日本への輸出は行わせない」という条項を設けて、責任の所在を明確にすることができます。このような条項を設けておけば、違反があった時にはこの当事者に対して「差し止め命令」を裁判所に求めたり、賠償を請求できるでしょう。
また、ウェブサイトでの販売を介して日本に商品が流入することを防ぐためには、これもやはり当事者である製造業者または販売権を有する者が所有するウェブサイトの内容に「米国内のみの販売〔送り先は米国内のみ〕」などという注意書きを挿入させたり、または日本への販売に関しては「日本地域での独占販売の権利を有するXXXXXまでご連絡ください」という具合にリンクさせるよう要求することもできるでしょう。
単なる商品の輸入・販売に関しても、インターネットと電子商取引の普及のおかげで複雑な問題が生じるようになりました。後で問題が起こらないように、契約作成段階であらゆる場合を想定した契約書を作成するようにしましょう。