2010年8月

 今回は、高齢者の「孤独死」の問題に触れてみたいと思います。

  人はみないつかは死を迎えるのですが、日常の中ではほとんどの人たちが「死は自分とは関係がない」かのように生きているかもしれません。

  最近、私の周辺で数人の高齢者の方が「孤独死」またはそれに近い形で亡くなられました。特に1か月ほど前に亡くなられた方は、お子さんがなく、ご親戚も近くにおられなかったという事情により、普段親しくしていた友人の方が入院中、死亡後の手続きなどのお世話をすることになりました。

  亡くなられた方の「お別れの会」がお世話をされた友人の方のお宅で行われ多くの友人の方たちが出席しました。お世話をされた中で、困ったこと、どのようなことが実際に起こったかという説明もまじえ、ご報告がなされました。その後、インタビューをさせていただき、今後の参考として誰もが考え準備をしておくべきことについて伺ってみましたので、その内容をここにお伝えしたいと思います。このお世話をされた友人の方も、亡くなられた方も、ここでは匿名にさせていただいております。この記事を書くことについては、前者からはご了解をいただいていますし、「お別れの会」に出席した皆さんからもぜひ記事を書いてくださいという声も多くありました。

  亡くなられた方をAさん、お世話をされた友人の方をBさんとしてお話させていただきます。

  Aさんは、亡くなる直前までお元気で友人の方々と楽しく麻雀をしたり、友人同士訪問しあうというような生活をしておられ、ご本人も含め周囲の誰も病気であるとは思いもよらないことでした。ある日、出先で転倒し起き上ることができなかったという事件が起こって以来、急激に弱り、自宅で療養していいたところ状態が悪化し、入院後数日で亡くなってしまいました。日ごろ、友人の方たちには、「自分は遺言もきちんとしてある」とおっしゃっていたということです。

  入院後は、親戚が周囲にいないことから、ご本人の要望もありBさんがお世話をすることになりました。生きておられる間はそれで不便はあまり感じませんでしたが、亡くなった途端にBさんの苦難が始まりました。

 Bさんによると、亡くなるとすぐ、病院は「即時ご遺体をお引き取りください」とBさんに伝えました。病院の規則では3日以内にご遺体を病院から別の場所に移動させなければならないと通知されたのです。しかし、ご本人の遺言はあるといわれていてもすぐに見つけることができず、見つかった後では、遺言執行人および遺産相続人として指定されているAさんの親戚の方たちは米国外に住んでいることが分かりました。その後判明した日本の親戚も含め、それらの親戚の方たちへの連絡をBさんが一手に引き受けることになりました。費用は全てBさん持ちでした。そして、連絡係を務めるものの、実際にご遺体を移す場所を取りきめたり、実行したりする「権限」はBさんには一切ないという事実にも直面しました。

 実際に必要な手続きの全てをBさんがせざるをえないという事情でありながら、Bさんは何も具体的に決定する権限がなかったのです。ご遺体を病院から移動させるという難題も、Bさんが電話の前に座り、ソーシャルワーカーその他思い当たるところに片っ端から電話をかけては「関係ない」と断られ続け、やっとの思いで、ある葬儀屋でご遺体を埋葬までの一定期間預かるというサービスを提供してくれるところを探しあてました。しかし、Bさんには実際にご遺体を移動させるための許可を病院から得るための権限がありません。結局、ヨーロッパに居住するAさんの相続人に連絡し、その方からの許可を示す書類を病院に示すことにより、初めてご遺体の移動ができました。

 次の難題は、埋葬でした。Aさんの夫は米国の元軍人であったため、すでに元軍人用の国立墓地に葬られていましたが、Bさんは埋葬の場所を決める権限もなかったために、Aさんを夫の隣に埋葬するための許可を得ることができませんでした。もう少しで、州の権限で勝手に別の場所に埋葬されそうになってしまいました。Aさんの死後2週間以上経過した時点で、やっと別の州に引っ越していたAさんの友人から「わたしと同じ弁護士が遺言を作成した」という情報を得たBさんは、この弁護士と連絡をとり、埋葬等に関する手続きを任せることができるようになり、Aさんは無事夫と同じ墓に埋葬されることになりました。

 今回の件では、Bさんは大変なご苦労をなさいましたが、最後に感想、誰にでも共通する必要な準備について伺うと、「遠くの親戚より近くの他人」というお返事でした。

  今回のAさんの例では、遺言を作成し、遺言執行人や相続人を事前に指定しておくという準備はなさったのですが、それらの指定された方々が、ご本人の住所とは遠く離れた外国に住んでいたということで、実際にAさんが亡くなられても、遺言の執行やAさんの死亡後の様々な手続きをすることができず、葬儀にも出席されなかったという結果になってしまいました。一方では実際にお世話をすることになった友人、Bさんはどのようなアレンジメントがなされているのか皆目事前の知識もなく、なんら権限も与えられていなかったために、右往左往する羽目になり、多くの時間と労力を費やし、遺言執行人や相続人に連絡したものの、結局「そちらで処理してください」と依頼されることになってしまいました。

  Aさんは、遺言のみを作成されていたということで、現在Aさんの遺産に関しては、Probateが開始され、最終的に手続きが終了するためには、数か月はかかるものと思われます。

  私からのコメントとしては、

 1. 子供や親しい親戚が自分が居住する地域にいない場合、緊急の際にお世話になるかも知れない「近くの他人(友達など)」に遺言やその他の情報をある程度伝えておくこと。少なくとも、誰に連絡すればよいのか知らせておく。

 2. もし、「近くの他人」にお世話になるかもしれない場合は、一定の権限も与えておく。これがないと、お世話をする「近くの他人」は大変です。

 3. 遺言のみでなく、信託、リビングウィルも含め、Estate Planningの必要書類を一括して作成しておくことで、Probate(遺産検認)を避ける。 お盆も近くなりました。亡くなられたAさんのご冥福をお祈りします。また、「良き隣人」として尽力されたBさんには「お疲れ様」と申し上げて筆を置きます。

  皆様、夏バテなどなさいませんように。楽しい夏をお過ごしください。