2008年11月

 大統領選挙もあと1週間余りとなりました。今回は、「New American Electorate(新アメリカ人有権者)」というレポートの内容についてお話します。このレポートはRob Paral & Associateが2008年10月に発表したもので、米国選挙に移民が及ぼす影響力について考察したものです。

 このレポートでは、「新アメリカ人」は新たに帰化して米国籍を取得した新市民と1965年以降に移民第一世代を両親として生まれた子供たちの両方を含むグループとして定義しています。このレポートでは、これらの「新アメリカ人」が選挙の結果に与える影響力が年々増していることを示します。個人的なことを述べると、私自身も2004年の大統領選挙の直前に米国市民となった新アメリカ人の一人です。長い間グリーンカード保持者として米国に生活してきて、選挙で投票したいと思ったことも米国市民権を取得した動機の一つでした。そこで、新移民とその子供たちである「新アメリカ人」が米国選挙に与える影響力には関心があります。

 この「新アメリカ人」のカテゴリーの他に、「ヒスパニック系」と「アジア系」というグループ分けも用語として使われています。ヒスパニック系やアジア系の人々も米国に多数存在しますが、それらの人々は必ずしも「新アメリカ人」ではありません。ヒスパニックの人々の中には先祖代々アリゾナがメキシコであったころから現在のアリゾナ州に居住していたなどという人々もありますし、アジア系の人々の中には4世代目、5世代目の人々もいます。

 以下の記述は、全て上記レポートを引用したものです。


 このレポートによると、2006年の選挙時には全有権者登録済みの有権者たちの8.6%が「新アメリカ人」であったということです(1,170万人)。この割合は、1996年には5.8%でした。そのうち、帰化して新たに米国市民となった者は760万人(5.6%)を占め、その子供たち(1965年以降生まれ)は410万人(3.0%)でした。ヒスパニック系とアジア系の登録済み有権者の数930万人で6.8%を占めました。アジア系は、330万人で登録済み有権者の2.5%でした。

 2006年当時、州別に分けると、「新アメリカ人」はアリゾナ州の登録有権者の10.6%、カリフォルニア州は24.4%、コネチカット州は10.6%、ワシントンD.C.9.7%、フロリダ州14.0%、ハワイ州15.3%、イリノイ州10.0%、マサチュセッツ州12.7%、ネバダ州14.8%、ニュージャージー州15.1%、ニューヨーク州17.9%、ロードアイランド州11.6%、テキサス州9.3%、ワシントン州7.5%などを占めていました。

 1996年の大統領選挙と2004年の大統領選挙との間の期間に、有権者登録を済ませた有権者のうち「新アメリカ人」は60%弱増えました。同期間にヒスパニックの登録済み有権者は660万人から930万人に増え(41.6%増)、アジア系の登録済み有権者は210万人から340万人に増えました(58.6%)。

 2008年の選挙では、有権者として登録可能な「新アメリカ人」は2004年選挙と比較して300万人ほど増えています。その全ての人が登録し実際に投票するという保証はありませんが、2008年の有権者登録を推進する運動はこれまでになく熱心に行われたようで、この中の相当数が登録したものと思われます。

 実際の投票者数についても、2008年の選挙では、2004年の選挙の際よりさらに多くの人々が投票するものと思われます。ヒスパニック系は2004年には760万人が実際に投票しましたが、これよりどの位増えるかが興味深いところです。

 もう一つの特色としては、ヒスパニック系もアジア系も以前よりも米国内の多くの地域に分散して居住するようになってきました。いわゆる「戦場」といわれるマケインとオバマのどちらが勝つか分からない州の多くでも、先回のブッシュ対ケリーの大統領選挙の投票結果で勝敗を分けた票差より大きな数のヒスパニック系とアジア系の登録有権者が住んでいます。これらの州は、アリゾナ、カリフォルニア、コロラド、フロリダ、アイオワ、ミネソタ、ネバダ、ニューハンプシャ、ニュージャージー、ニューメキシコ、ニューヨーク、オハイオ、オレゴン、ペンシルバニア、ウィスコンシン、テキサス、などです。例えば、コロラド州では、ヒスパニック系とアジア系の登録有権者は州全体の登録有権者数の10.9%を占め、ネバダ州では、12.3%を占めますが両州ともに、先回の大統領戦における票差は4.3%と2.2%でした。新アメリカ人は、一旦有権者登録をすると、その中の比較的高い割合が実際に投票するということが分かっています。

 最近の大統領戦が僅差で勝敗を分かつ傾向を示しているところから、この票差を越えるこのグループの中の有権者総数を考えると、選挙の勝敗に大きな影響を与える可能性があることが分かります。年々影響力が増してきているということも言えるでしょう。

 2008年の選挙を考えると、登録有権者数のうち「新アメリカ人」が占める数は2006年の8.6%より増えることになり、影響力も増すと思われます。カリフォルニア州では24.4%、アリゾナ州では10.6%、フロリダ州14.0%、イリノイ州10.0%、ネバダ州は14.8%、ニュージャージー州15.1%、ニューヨーク州17.9%、テキサス州9.3%です。戦場の一つと言われるニューメキシコ州では、2006年にヒスパニック系とアジア系の人々の割合は、フロリダ12.6%、ニュージャージー12.6%、ニューヨーク州12.7%、アリゾナ18.0%、ネバダ16.2%、カリフォルニア州28.4%ニューメキシコ州30.4%でした。

 上記のとおり、ヒスパニック系、アジア系の人々、また新アメリカ人の人々の選挙を介しての政治に対する影響力は年々増して行くでしょう。国勢調査によると、ヒスパニック系の全人口に占める割合は、2050年までには15%から30%に倍増するものと予測されています。アジア系の全人口に占める割合は、同期間に5.1%から9.2%に増大すると予測されています。両方合わせると40%近い割合になります。

 11月4日に行われる選挙の結果から、「新アメリカ人」、ヒスパニック系、アジア系の有権者たちの影響力が浮かび上がってくるでしょうか?