2015年3月

 今回は、最近増えている「日本と米国の間を自由に往復して暮らすためにはどうしたらよいか」という質問に関わる問題点をいつくか書いてみます。理由は不明ですが、1週間に4、5回この手の相談がメール、電話などで来るようになりました。

 相談者の多くの方々が相当期間米国や他の外国に滞在した後に、一時的にまたは永続的に日本に戻り生活したいという希望の方々です。移動の理由は、転勤、親の看病、故郷が懐かしくなり戻りたい、最後を日本で迎えたいなど千差万別ですが、問題点は似通っています。相談者の多くの方は米国市民権を取得済みのいわゆる「事実上の二重国籍者」ですが、中には数十年グリーンカード(永住許可)を得て米国に生活してきたが、日本に戻りたいという方々もあり、後者の場合には日本に戻るについて(一時的滞在であっても)米国市民権を取得してから日本に戻る方がよいのかという質問が必ず出ます。そして、そのような方たちの中には、日本の国籍法の規定により厳密には米国の市民権を取得したことにより「日本の国籍を喪失した」状態であることを知識として知っている方々多いです。そのような方々の中には「日本に戻って日本人として暮らすことができても、罰せられる恐れはないでしょうか」と恐れを抱いています。そのような方々の「恐怖と不安」の声に耳を傾けていると、「日本の国籍法は不必要に酷な法律だな」思わずにはいられません。

 一度日本を出国し、別の国に長期滞在し、その国の国籍を便宜上、税法上、などなど様々な理由で取得するに至った人々は、日本という国を「生まれ故郷」「帰りたい母国」「先祖代々の霊が眠るところ」、「親類縁者、友達が沢山住んでいる懐かしいところ」と心の中で思っていても、国籍法の観点からは「棄民」されてしまっているのです。

 勿論、事実上は米国市民権を取得した後でも、「国籍喪失届」なる自主的な届け出をしないでそのままにしておくことにより、日本国内に存在する「戸籍」は除籍処分とならないために、戸籍は残っており、帰国して住民登録を行えば、日本国パスポートを取得する手続きができるので、いわゆる事実上の「二重国籍者」が数十万人のレベルで存在すると推定されています。

 最近増えているのがこれらの事実上の「二重国籍者」からの相談なのです。このカテゴリーの人々にも、積極的に二つのパスポートを所持し使い分けることにより、日米を自由に往復したり、両国に自由に居住したりする人たちが多く存在しますが、中には、それほど几帳面に対応してきたわけではなく、10年ぶり、数十年ぶりに日本の戻ることにした時点で日本のパスポートが期限切れになっていたことに気づき、慌てて質問してくる方々もいます。また、一度そうした状態で日本に戻ったら、住民登録の手続きがスムーズにできないまま、米国に再度戻ってきてしまったというような方々もいます。

住民登録の問題 

 最近目立つ相談のトピックとしては、住民登録を申請する段階で躓いてしまうという点が目立ちます。以前には全く問題として挙げられなかったし、相談もあまり受けなかった問題なので、政府の対応がより厳格になったのかなという疑問も湧いてきます。外国の国籍を取得した人々を「国籍喪失届」の提出を期待して管理することが事実上不可能なので、「住民登録」という切り口から管理することにしたのか?という疑問が湧いてきます。一番相談が多いのは、数年前、十数年前、数十年前に日本を出国した際に、「海外転出届け」なるものを市役所、区役所などに提出した人たちが、長い間の米国または他の外国滞在の後に日本に戻り住民登録しようと窓口に行ったが「帰国した日の記録が付されたパスポートなどの証拠を提示しないと住民登録を再度行うことができない」と言われるという対応をされたという報告です。そこで、日本のパスポートがすでに期限切れになっている人たちの場合は米国など別の外国パスポートで日本に入国しているため、そのパスポートを見せると外国国籍を有していることが知られてしまい、「日本国籍喪失者」として扱われ、住民登録ができないまたは外国人として登録されてしまう可能性があるかもしれないという恐怖に襲われ、そのまま住民登録できないままにまた米国に戻ったなどという方々からの相談も多くなっていいます。

 それらの方々には、私の方から外国のパスポートでも帰国日が分かるスタンプが押されているものを見せれば住民登録をしてもらえるのでは、試してみてください」とアドバイスしましたが、これらの方々は後ほど、メールなどでご報告も寄せていただいています。「米国パスポートを見せてOKでした」、「帰国の航空券の半券を見せたらOKでした」などです。それぞれの市役所や区役所などの対応は、部署ごと人によっても異なる場合があるでしょう。一概には言えないというのがこのような問題に対処する場合の難しさですが、必ずしも有効期限が残っている日本のパスポートに帰国日がスタンプで押されているものを見せる必要はないということを知ることにより、少し安心していただけるのではないでしょうか。

 ちなみに私はこういう問題を避けるという意味もあり、また面倒でもあるので、米国に住んでいますが、日本の住民登録は「海外転出届け」を出さないまま、そのままにしてあります。ということで、日本の国民健康保険にも加入していますので、日本で問題があれば、医療の点でも安心です。こういう解決方法もあります。

 物理的に日本に帰国しても、日本という国は住民票がないと何もできない国ですから、この全ての「入口」で扉が閉ざされてしまうと、その先が困ります。国民健康保険なども住民登録に基いて記録、処理されます。

 この他にも、日本における遺産相続の際に問題になりえる国籍の問題などさまざまな問題があります。次回は、日本の税理士染谷育子さんに登場していただき、日米にまたがって生活する人々が知っておかなければならない税法上の要点について記事を書いていただくことにしましょう。最近の判例や、税法の改正なども解説していただきます。

 みなさまからも、これまでのご経験、困った点、うまく解決できた点などお便りをいただければ、それらの経験を海外で暮らす日本人の方々と共有できるのではと思います。よろしくお願いいたします。