2008年8月
今回は、6月4日に日本の最高裁判所が示した国籍法に関する判断についてお話しましょう。このケースは、日本人の父とフィリピン人の母から生まれ日本で生活するものの日本の国籍法の規定適用外で無国籍となっていた10人の訴えで始まり、第一審は原告側勝利、第二審は国側勝利、今回の最高裁の判決では原告側勝利に終わりました。これらの人々は、国籍がないため戸籍もなく、パスポートや運転免許証が取得できないまま、外国旅行もできず、就職などにも不利になる状況で暮らしてきました。
日本の国籍法は、血統原則を採用しており下記のとおり日本国民としての要件を定めています。
第一条:日本国民たる要件は、この法律の定めるところによる。
(出生による国籍の取得)
第二条:子は、次の場合には、日本国民とする。
一.出生の時に父または母が日本国民であるとき。
二.出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であったとき。
三.日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、または国籍を有しないとき。
(準正による国籍の取得)
第三条:父母の婚姻およびその認知により嫡出子たる身分を取得した子で二十歳未満のもの(日本国民であったものを除く。)は、認知をした父または母が子の出生の時に日本国民であった場合において、その父または母が現に日本国民であるとき、またはその死亡の時に日本国民であったときは、法務大臣に届け出をすることによって、日本の国籍を取得することができる。
2 前項の規定による届け出をした者は、その届け出の時に日本の国籍を取得する。
上記の規定により、原告である日本人の父とフィリピン人の母から生まれた10人は、父親が出生後に認知したにもかかわらず、認知の後に父母が結婚しなかったために日本国籍を取得することができなかった人たちでした。彼らは、「法の下の平等」を求めて裁判を起こしました。最高裁判所の15人の裁判官のうち12人がこのような規定を出生後の認知に限って父母の(後の時点での)婚姻を条件として求めるのは憲法14条が規定する「法の下の平等」反する、不合理な差別つまり違憲と判断しました。
あまり広く知られてはいませんが、原告と同じ境遇にある人たちの数は国内に数万人と国外(フィリピンやタイなどの国々も含め)にも多数存在すると推定されています。この判決は、「無国籍」という異常状態の人々を多数生みだした国籍法の一部規定を違憲と判断したため、将来はこの判例を根拠に多数の同様の状況にある人々が日本国籍の確認・承認を求めることになるでしょう。異常事態を解消するという意味で、個別の人々の救済になることは確かでしょう。日本の人口増加率がマイナスに転じたというニュースが伝えられたばかりのこの時期に、「日本人、日本国籍者の定義」を基本的に変更することになる今回の判決は注目に値します。最近の東京では新たな結婚の10組に1組が国際結婚であるといわれているような状況で、二国間・二文化間を繋ぐ新しいタイプの「日本人」の数の増大に貢献し、日本の人口減を食い止めることに一役買うことになるかもしれません。
1984年に改正国籍法が施行されてから、日本人の女性を母とし外国人を父とする子にも日本国籍取得の道が開かれましたが、今回はそれをさらに拡大し「日本国籍者」の枠を広げることになりました。東南アジア諸国に多数いるといわれる日本人男性と現地の女性たちとの間に生まれた非嫡出子の子供たちも、今後は父親からの認知を求めたり、国籍の確認を求めて日本を訪れるようになるかもしれません。父子関係というのは、父親本人が認知しても事実関係を確認するのは母子関係と比較するとはるかに難しくなります。本人の認知をそのまま認めるという方向性では、悪用される懸念もあるため、今回の判決では直接触れていませんが、父子関係確認のためのDNA鑑定なども将来は採用されるかもしれません。