2000年9月
今回は、予定を変更して日本の年金についてお話します。(二重国籍については、次号で取り扱います)最近、日本で十数年厚生年金に加入していたにもかかわらず長い間米国に居住していたために、年金の給付を受けられないと思っていた方のために日本の社会保険労務士さんの協力をえて調査をいたしました。結果としては、多様な特例などが適用され、年間100万円位の年金を受給できることが分かりました。米国に暮らしていらっしゃる方々の中には、日本で会社勤めをなさっていた時に厚生年金に加入していたり、学生時代にまたは自営業に就き国民年金に加入していた方もあるのではないでしょうか。ほとんどの場合は、現在米国でソーシャル・セキュリティ(厚生年金・国民年金に匹敵するもの)加入していて将来は米国の年金で生活しようと考えていることでしょう。
日本での年金の受給権があるかどうか一度調べてごらんになりませんか。上記の方の場合は、ご本人は日本で受給権があることを知らず、また本格的に調べることなく70歳代になりました。心配した友人の方が調査するように説得し今回の良い結果が生まれました。この方の場合、今後一生涯年間100万の年金を米国にいて受け取ることができますし、これまで65歳から受け取ることができたはずの年金分約500万円を一時金として受け取ることができるということです。(このような、受給権があったにもかかわらず申請せずに受給されなかった分については、5年を過ぎたものは時効という扱いになりますが、5年間のみ遡って給付を受けることができるそうです)知らないで見過ごしてしまってはとても惜しい受給権です。
そして、驚くべきことに、日本政府は一端外国に住む受給権をもつ個人が受給を開始すると、振込み料も手数料も無しで年金を受給者の外国の口座に送金してくれるそうです。「えっ」と一瞬耳を疑うような親切さですね。私も20歳になったときに母が「成人のお祝いに」と言って加入してくれた国民年金への支払いを続けてきました。十数年前のことですが、一時米国に暮らした後で日本に帰国した際に「遡及措置」的な特例があり、不在であった8年分位の年金を一括で払い込み20歳から加入していた国民年金が途切れないようにしたこともありました。(1986年4月から海外在住日本人も国民年金に任意加入し保険料を納め続けることができるようになりました)そして?十年、最低限必要な加入期間(25年)は知らないうちに過ぎてしまいました。いわゆる基礎年金は、40年くらい国民年金に加入していても現在の水準では65歳になってから毎月約6万7000円ということですから、これに頼って生活することは無理でしょうが、ちょっと旅行をしたりするようなお小遣いにはなりますね。厚生年金に加入していた方は、受給額が収入に応じて異なりますから、相当な額になる可能性はあります。外国にいても日本の政府が受給者の口座に無料で振り込んでくれるとは、うれしい話です。
以下に主として老齢基礎年金についての一般的な基本を述べますが、厚生年金の加入期間、それぞれの給与水準などによって年金の額は異なってきますし、特例も山のように沢山ありますのでここで全て解説することは不可能です。個人個人の場合どうなるかという調査と申請事務そのものは、やはり専門家である社会保険労務士さんにお願いするのが一番だと思います。今回の調査でも、社会保険労務士である山梨恵美子さんは、資格を有するプロとして「職権」を使うことにより、不十分な記録、不確かが記憶にもかかわらずご本人の委任状なしに戸籍謄本や住民票などを取り寄せ調査を十分に行うことができました。調査に際しては、「当時勤務していた会社の住所も分からないし、年金手帳もなくしてしまったし」と躊躇していらっしゃる方があるかもしれませんが、戦後の企業に関しては(戦災で記録が焼けなかったもの)ほとんど全てコンピュータによる中央データベース化されており、会社名(うろ覚えで大体こんな名前というレベルでも良いそうです)、住所(XX県XX市のレベルで良いそうです)、比較的容易に調べることができるそうです。大変面白いことに、年齢や名前を変えて勤務していたような場合でも(就職する際の年齢制限をクリアするために多くの女性がこんな工夫(?)をしたそうです)、本人の申請があれば全て統合して「本当の本人」であることを戸籍を使用して確認しこれらの異なる名前の年金受給権を「本当の本人」として受け取ることができるそうです。これも驚異的ですね。特定の個人についての調査は社会保険労務士である山梨恵美子さんにご相談ください。私を介して連絡していただいても結構ですし、山梨さんに直接電話かファックスでご連絡くださっても結構です。(山梨恵美子:電話/ファックス(81-429-71-0030)(郵便番号:357-0023 埼玉県飯能市岩沢795-9 山梨社会保険労務士事務所)
(以下「年金の手引き」2000年版社会保険研究所発行、p.16-19を引用します。)
老齢基礎年金を受けるには原則として25年間の資格期間が必要となります。資格期間は1961年(昭和36年)に国民年金が発足してから数えます。資格期間には次のような期間があります。
1) 国民年金の保険料を納めた期間(任意加入で収めた期間も含む)
2) 国民年金の保険料免除を受けた期間(平成14(2002)年4月からの半額免除された期間を含む)
3) 1986年4月からの国民年金の第2号被保険者期間
4) 1986年4月からの国民年金の第3号被保険者期間
5) 1961年4月から1986年3月までの被用者年金制度(厚生年金保険、船員保険、共済組合)の加入期間(1961年4月以後に公的年金の加入期間がある場合は、1961年4月前の加入期間も含まれる)
合算対象期間(カラ期間)
1986年3月までに被用者年金制度加入者の20歳以上60歳未満の被扶養配偶者が国民年金に任意加入しなかった期間は、合算対象期間(カラ期間)とされ、老齢基礎年金の資格期間に参入されますが、年金額には反映しません。カラ期間は、次のようなものも含みます。
a. 1991年3月以前に国民年金に任意加入しなかった学生の期間
b. 厚生年金保険、船員保険から脱退手当金を受けた期間で、1961年4月以後の期間(1986年4月以後の国民年金の加入期間がある場合に限る)
c. 1961年4月以後の期間で、20歳から60歳までの間の海外在住期間
25年の資格期間短縮の特例
25年の老齢基礎年金の資格期間を満たせない人には、資格期間を15年から24年に短縮する次のような特例もあります。
1) 1930年4月1日以前に生まれた人が国民年金を含めた公的年金制度において保険料を納めた期間と免除された期間が生年月日に応じて一定の期間を満たすこと
2) 1961年4月1日以前に生まれた人で厚生年金保険または共済組合の加入期間が生年月日に応じて一定の期間を満たすこと
3) 1951年以前に生まれた人で40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以後の厚生年金保険の被保険者期間が生年月日に応じて一定の期間を満たすこと
4) 第三種被保険者(坑内員・船員)の特例
老齢基礎年金の実際の受給額は、現在年額80万4200円です。この額は、満額の場合ですから、保険料を納めた期間が40年間という(20歳から60歳)期間を満たしていなければその不足期間に応じて年金受給額は減額されます。しかし、国民年金が発足した1961年にすでに20歳以上になっていた人は60歳になるまでに40年間保険料を納めることができませんので、生年月日に応じて加入可能年数が設定されていますし、特例があります。つまり、40年保険料を納めていなかった場合でも25年から40年の間の期間保険料を納めていれば満額を受け取れる場合があるということです。
カラ期間の項目c.つまり海外在住期間というのが私たち海外に居住するものにとって関わりが大きい項目ですね。カラ期間というのは、簡単にいうと保険料は納めていなかったけれども「加入していたとみなされる期間」ということになります。「長い間アメリカにいるので日本の年金はもらえるはずがない」と思われる方でも、一度「実際はどうか」ということを調べてみてはいかがでしょうか。
海外在住者が老齢基礎年金の受給申請を行うための確認(提出)書類は、次のようなものです。
1) 戸籍の附票の写し(いつからいつまで、どこに住んでいたかが分かるもの)
2) 旅券法に規定する旅券(パスポート)の写し
3) 滞在国が交付した居住証明書
4) 滞在国の日本領事館等が発行した在留資格期間証明書
5) その他上記に掲げる書類に準ずるもの
となっています。年金については、相当に詳しい知識と実務経験がないと、簡単に判断できないことが沢山あります。大使館・領事館などでも問い合わせをすると、あまり詳しく知らない係り官に「あなたは受給資格がありません」と簡単に言われてしまうこともあります。「国籍が日本でないのでだめ」というような簡単な回答は正確ではありません。厚生年金保険の場合には、日本国籍に限定されないことがありますし、ドイツとは2000年2月1日から年金相互条約が発効し、二重加入の防止や資格期間の不利益が解消されました。一時的に居住した国で年金を強制的に掛けさせられ「掛け捨て」を余儀なくされてきた場合もありましたが、今後はドイツとの場合のように年金相互条約がフランスその他の国とも締結される予想があります。常に最新の情報を得ることによって「受給資格がある」にもかかわらす「給付の受け損ない」が生じないようにいたしましょう。